「ふるさとのため」ブランド化 岡山北部でブドウを氷温貯蔵

礒部修作
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 岡山県北部の津山市周辺の農家の所得アップを目指して設立された地域商社「曲辰(かねたつ)」。矢野弘之さん(68)は常務として市場で高値で売れる商品を開発し、ブランド化を進めている。昨年12月には氷温貯蔵した種なしブドウのシャインマスカットを「冬姫」と名付け、販売を始めた。

 「土産として県外にも持って行けるよう、ふるさと津山市のために名物をつくって貢献したい」

 年末に市場に出回るブドウは鮮度が落ちる輸入物がほとんどのため、発売は商品単価も上がるギフト商戦に合わせた。冬姫用の200房は、昨年10月上旬に津山市と久米南町の農家が収穫し、鮮度や風味を保つため、同市内で0度から凍り始めるまでの温度域で氷温貯蔵していた。

 市場にはすでにシャインマスカットはなく、1房は収穫期の秋に比べて高値の3800~4800円(税込み)で販売した。市場での評判も良く、すでに来季に向けた大口の取引の問い合わせが来ているという。

 「生産者はブランド化され価値が上がったことで、やる気になっている」と喜ぶ。今後は販路を広げ、1千房以上の販売と通年販売を目指している。

 冬姫のブランド化には、自身が培った人脈が生きた。津山市に生まれ、1977年に岡山や鳥取、島根の各県に店舗があるスーパーのマルイに入社。営業や商品開発、物流などほとんどの部門に所属した。関連会社のスーパー「エスマート」では本社がある鳥取市に単身赴任で15年間勤め、社長、会長も歴任した。

 曲辰には、同社を津山信用金庫と共に設立した津山市に請われ、2021年に入社した。

 氷温貯蔵の技術は鳥取時代に知った。梨の長期保存の研究から鳥取県で生まれた技術で、同県米子市には技術の普及を図る氷温協会もある。

 曲辰に入社直後、協会に連絡。ノウハウを得て、シャインマスカットの氷温貯蔵実験を20房から始めた。124日後、実は収穫時と変わらず、みずみずしさを保っており、商品化の準備を整えてきた。

 ただ、農家の収益アップは簡単ではない。農家が付加価値をつけるために加工品を作っても大量生産ができないので、どうしても単価が高くなる。「氷温貯蔵という『加工』を通して商品の価値をどんどん上げたい」として、ほかの農産物での研究を進める。

 郷土料理「牛そずり鍋」の販売や、津山産のパン用小麦を使ったパン作りを市内の店舗で広める事業にも力を入れている。

 「地元のみなさんには、ふるさとの農産物に愛着を持ってもらい、津山産商品を全国に自慢してもらえるようになるのが夢です」(礒部修作)

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