紀伊半島に巨大津波の痕跡 宝永地震を上回る

直井政夫
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 これまで南海トラフで発生した地震で最大級とされてきた江戸時代の宝永地震(1707年、推定マグニチュード8・6)の津波よりも大きな津波が、紀伊半島の沿岸を襲ったと推定される――。そんな研究成果が発表された。海岸線に巨石列が続く「橋杭岩」(和歌山県串本町)周辺に散らばる石が津波でどう動いたかを調べて分かったという。

 調査、発表したのは、国立研究開発法人の産業技術総合研究所産総研)と法政大学などの研究者チーム。チームは、津波に対する防災計画を考える場合、過去にどれくらいの大きさの津波が来襲したのかを知るのが重要と考えた。

 文献が残るなかで、宝永地震は、南海トラフで発生した最大規模の地震とされる。大地震は数千年以上にわたり繰り返し発生したと考えられるが、宝永地震以前に南海トラフに関連する大地震の記録は残っていないという。

 チームは「過去に発生した地震は将来も起こる可能性がある」とし、地質調査とコンピューターのシミュレーションを合わせて、文献に残らない古い地震の解明に乗りだした。そこで海岸線に多くの石が点在する「橋杭岩」に着目した。

 橋杭岩は、地下から噴き出したマグマが陸地から海へ向かって直線的に並ぶ火山岩の巨石の列。周囲には火山岩の石が1千個以上散らばっている。チームによると、石は最大で直径7メートル、重さ85トンにもなる。

 チームは、石は巨石の本体から崩れ落ちたあと、津波で押されて移動したと推定した。宝永地震の時は高さ約4メートルの津波が来襲したとされ、1311個の石を対象に動きをシミュレーションして、この津波でどれくらい動いたかを調べた。

 巨石のそばを「巨石から崩れ落ちた場所」として、そこで津波を受けたと想定して調べたところ、一部がこの場所にとどまった。また、現在ある場所を起点に調べると、重量換算して半分ほどしか動かなかった。

 宝永地震を起こした断層のずれを2倍に想定した地震による津波では、ほとんどの石が動いた。台風による高潮では、大きな石はほとんど動かなかったという。

 チームは「宝永地震の津波より大きな津波が、宝永地震より前に橋杭岩がある沿岸を襲い、石を動かした」と結論づけた。研究成果は6日付の専門科学雑誌「テクトノフィジックス」に掲載された。

 チームは今後、この大きな津波がいつ起こったのかを、石に付いたカキやフジツボなどの痕跡で年代測定して解明したいという。

 産総研地質調査総合センターの宍倉正展グループ長は「宝永地震よりも過去に巨大地震が起こったかは分からなかったが、発生を科学的に実証する一歩になった」と意義を強調した。(直井政夫)

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