女性の権利、解釈で決まる…タリバンが掲げるイスラム法

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聞き手・笠原真
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 かつてのように、女性の就労や教育の権利が制限されるのではないか――。イスラム主義勢力タリバンが再び権力を握ったアフガニスタンをめぐり、そのような懸念が強まっています。タリバンは首都カブールで開いた会見で、女性の権利について「イスラム法の範囲内で尊重する」と主張しました。そもそもイスラム法(シャリーア)とは何なのでしょうか。名古屋外国語大学の松山洋平准教授(イスラム学)に聞きました。

 ――シャリーアとはどのような「法律」なのでしょうか。

 シャリーアとは、人間の行為に関わるイスラム教の決まり事のことです。たしかにシャリーアでは、通常の法律にあるような、裁判法・刑法・商法・婚姻関連法の規定が扱われます。しかしシャリーアはより広い意味を持ち、たとえば礼拝の方法や、聖地マッカ(メッカ)巡礼の手順など、いわゆる「宗教儀礼」的な行為も議論されます。さらには、衣服についての決まり事や、トイレでの排泄(はいせつ)物の洗い方といった、日常のささいな問題も扱われます。

 ――決まり事などの内容はどのように定められるのですか。

 最も根本的な法源は、聖典のクルアーン(コーラン)と、預言者ムハンマドの慣行です。クルアーンはイスラム教において「神の言葉」であると信じられているので、神の教えであるシャリーアを解釈するための典拠にするのは当然と言えます。ムハンマドの慣行を典拠とするのは、ムハンマドがクルアーンを正しく理解し、その教えを忠実に実践した人間だと信じられているためです。

 クルアーンとムハンマドの慣行を基礎に、「学者間の合意(イジュマーウ)」や「類推解釈(キヤース)」といったその他の法源を駆使して、行為に関わる決まり事が導き出されます。

 ――シャリーアは「神の教え」なのですね。

 人間が作った決まりではなく、神が定め、ムハンマドを通して人間に教えた法だとされています。ですから当然、ムハンマドが生きた6~7世紀のイスラム教最初期から存在します。しかしムハンマドが死んでしまうと、シャリーアを完全な形で知る人間がいなくなります。そのためクルアーンの意味やムハンマドの慣行について知識のある信者たちが、イスラム教の決まりについて議論を尽くし、様々な論点を整理するようになりました。

 そうして、どのような問題について、どのような典拠が存在し、それをどう解釈し、実践すべきなのかについての枠組みができあがっていきます。こうして成立したのが、シャリーアを解釈するための学問「フィクフ学(イスラム法学)」です。これがだいたい9世紀ごろのことです。

古典的解釈、当惑や反感も

 ――古くからあるシャリーアは、現代ではどのように適用されているのでしょうか。

 現代で施行されている地域は限定的です。イスラム教徒が多数派の国においても、婚姻関連法や遺産相続法など、部分的な領域において、表面的な形でシャリーアが適用されているに過ぎません。ほとんどのイスラム諸国では、大枠としては西洋近代的な法体系が採用されています。

 そのため、タリバンのように古典的な解釈のシャリーアを実践しようという動きには、イスラム教徒にも当惑や反感を覚える人が少なくないのです。

 ――シャリーアには、現代的な人権意識と相いれない点もあるのではないですか。

 その通り、シャリーアの古典的な解釈には、西洋近代的な人権意識と対立する部分があります。たとえば、男女の扱いが部分的に不平等であることや、身体刑が存在することなどが、国際的に問題視されています。この問題については、イスラム教徒の中にも様々な考え方があります。古典的な解釈通りに実践すべきであると考える人もいれば、現代の感覚に適した形で再解釈すべきであると考える人もいます。

 世俗的な国でも、古典的な解釈を主張する人は決して少数派ではありません。しかしそうした人たちも、性急な施行は避けるべきであり、イスラム社会や国全体の準備が十分に整うのを待ち、少しずつ実施に移すべきだという立場が標準的です。

女性の権利はどこまで許容されるのか。その範囲はイスラム法を根拠とすると主張しているタリバン。では、それはどのように決められるのか。後段で松山さんが説明しています。

 ――身体刑などの厳しい刑罰も実際に行われているのですね。

 古典的な解釈でのシャリーアの施行を目標に掲げる勢力が支配する地域で、実施されることがあります。たとえば、ソマリアパキスタンナイジェリア、アフガニスタンなどの一部地域です。イランやサウジアラビアブルネイインドネシアのアチェ州にも、こうした刑罰を実施する法的根拠があります。

 理論の上では、身体刑には次のようなものがあります。

①むち打ち――飲酒、未婚者の…

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