今井登志喜『歴史学研究法』の現代的意義は、その中の「贋作・錯誤・虚偽 検討法」である。
「真純性の批判」(真贋の検討)(p44)
1. その史料の形式が、他の正しい史料の形式と一致するか。
古文書の場合、紙・墨色・書風・筆意・文章形式・
言葉・印章などを吟味する。
2. その史料の内容が、他の正しい史料と矛盾しないか。
3. その史料の形式や内容が、それに関係する事に、
発展的に連絡し、その性質に適合し、蓋然性を持つか。
4. その史料自体に、作為の痕跡が何もないか。
その作為の痕跡の吟味として、以下のようなことが挙げられる。
(1) 満足できる説明がないまま遅れて世に出た、というように、
その史料の発見等に、奇妙で不審な点はないか (来歴の検討)
(2) その作者が見るはずのない、またはその当時存在しなかった、
他の史料の模倣や利用が証明されるようなことがないか。
(3) 古めかしく見せる細工からきた、その時代の様式に合わない、
時代錯誤はないか。
(4) その史料そのものの性質や目的にはない種類の、
贋作の動機から来たと見られる傾向はないか。
(虚偽の例)(p61)
1、自分あるいは自分の団体の利害に基づく虚偽
2、憎悪心・嫉妬心・虚栄心・好奇心から出る虚偽
3、公然あるいは暗黙の強制に屈服したための虚偽
4、倫理的・美的感情から、事実を教訓的にまたは芸術的に述べる虚偽
5、病的変態的な虚偽
6、沈黙が一種の虚偽であることもある
(錯誤について)(p59)
今井登志喜の文章は、元の旧字体を新字体に改めても、まだ読みにくい。
それは、厳しい言論統制という、時代の制約も非常に大きかったと思われる。
今井登志喜が最初の岩波版『歴史学研究法』を書いたのは、1935年(昭和10)である。
この年は2月、美濃部達吉の天皇機関説問題が起きていた。そして今井登志喜の本が出たのは、5月である。
今井は、天皇機関説問題を横目に見ながら、最終的な文章を、煮詰めていたのではないかと思われる。
今井が慎重に除いた言葉がいくつかある、と私は思っている。つまり「真贋」「贋作」「作為」「起源・発生」等である。
「真贋検討法」なんて言葉は使わない。「真純性の批判」と書く(p44)。これでわかりますか?
p48の「来歴批判」も、ドイツ語の原語では「起源・発生」の意味である。
日本語で「来歴」と言えば、「最初に誰が持っていたのを、誰の手を経て、どのようにして、現在の所在に来たか」という考証だと思ってしまう。
それをわざわざ言い換えている、と、私は思うのだ。そのために、かつては、しばしば混乱が起きたようだ。
息詰まるような時代の緊迫感の中で書かれた本だ、と思って読んでみてはいかがだろうか。
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歴史学研究法 (ちくま学芸文庫 イ-62-1) 文庫 – 2023/6/12
今井 登志喜
(著)
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「歴史学とは何か」について「古典的歴史学方法論」の論点を的確にまとめる。方法の実践例として、「塩尻峠の合戦」を取り上げる。解説 松沢裕作
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「歴史学とはどのような学問か」「歴史学はいかにして正しい結論を導き出せるのか」という問題は、現在でも常に問い直され続けている。本書では、19世紀における歴史学の進展を踏まえ、歴史学の方法論にはじまって、諸学との連携の在り方、史料批判についてなど、簡潔にして要点をついた紹介・指摘を行う。提示される方法論の実例としては、塩尻峠の合戦(天文17年)を取り上げ、各種資料を比較して事実を確定するプロセスを具体的に示した。また、本書の史学史的背景について周到な解説を付す。古典的歴史学方法論の貴重な入門書。
===
古典的歴史学方法論のエッセンス
===
【目次】
序
一 序説─歴史学の方法論
二 歴史学を補助する学科
三 史料学
四 史料批判
1 外的批判
真純性の批判/来歴批判/本原性の批判
2 内的批判
可信性の批判/史料の価値の差別
五 綜合
史料の解釈/史実の決定/歴史的聯関の構成/歴史的意義の把握
六 方法的作業の一例─天文年間塩尻峠の合戦
題目/史料/真純性の批判/来歴批判/本原性の批判/可信性の批判/解釈/史実の決定/歴史的聯関の構成/歴史的意義の把握/附記/補正
解説 「転回以前」の歴史学? ─古典的歴史学方法論・入門 松沢裕作
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「歴史学とはどのような学問か」「歴史学はいかにして正しい結論を導き出せるのか」という問題は、現在でも常に問い直され続けている。本書では、19世紀における歴史学の進展を踏まえ、歴史学の方法論にはじまって、諸学との連携の在り方、史料批判についてなど、簡潔にして要点をついた紹介・指摘を行う。提示される方法論の実例としては、塩尻峠の合戦(天文17年)を取り上げ、各種資料を比較して事実を確定するプロセスを具体的に示した。また、本書の史学史的背景について周到な解説を付す。古典的歴史学方法論の貴重な入門書。
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古典的歴史学方法論のエッセンス
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【目次】
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一 序説─歴史学の方法論
二 歴史学を補助する学科
三 史料学
四 史料批判
1 外的批判
真純性の批判/来歴批判/本原性の批判
2 内的批判
可信性の批判/史料の価値の差別
五 綜合
史料の解釈/史実の決定/歴史的聯関の構成/歴史的意義の把握
六 方法的作業の一例─天文年間塩尻峠の合戦
題目/史料/真純性の批判/来歴批判/本原性の批判/可信性の批判/解釈/史実の決定/歴史的聯関の構成/歴史的意義の把握/附記/補正
解説 「転回以前」の歴史学? ─古典的歴史学方法論・入門 松沢裕作
- 本の長さ208ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2023/6/12
- 寸法14.8 x 10.5 x 1 cm
- ISBN-104480510672
- ISBN-13978-4480510679
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商品の説明
著者について
今井登志喜(いまい・としき):1886-1950。長野県生まれ。東京帝国大学文科大学史学科卒業。東京帝国大学教授。専門はイギリス社会史・都市史。ほか、郷土史編纂事業『諏訪史』にも深くかかわる。主な著書に『英国社会史』『都市発達史研究』(以上、東京大学出版会)などがある。
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2023/6/12)
- 発売日 : 2023/6/12
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 208ページ
- ISBN-10 : 4480510672
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2023年6月23日に日本でレビュー済み
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2023年6月21日に日本でレビュー済み
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著者の今井登志喜は戦前・戦中の日本の西洋史学を代表する研究者の一人であり、本書は1935年の『岩波講座日本歴史』に寄せられた文章がもとになっている。であるので、説くところはランケ以降のドロイゼン、ベルンハイム、セーニョボスおよびラングロアといった19世紀末から20世紀初めの歴史家たちによる極めて古典的な歴史学方法論である。
今日の視点からして、彼らの歴史学が古いと断じるのはいとも容易いし、本書に史学史以上の意義があるのか疑問を呈する向きもあるだろう。しかし今日の情報化社会において必要とされているのは、まさに彼らが説いた史料学なり史料批判なりの理論ではなかろうか。コロナ禍然り、ウクライナ戦争然り、我々の日常にはいかに実証なき「物語」があふれていることか。これに対するには、「リテラシー」や「エビデンス」などといった目新しさを装った用語よりも、「批判」Kritikという先人から継承されてきた態度こそがふさわしいと感じるのは評者だけであろうか。そうした意味において、本書は歴史愛好家以外の人々にも読まれて良い著作であると思う。
今日の視点からして、彼らの歴史学が古いと断じるのはいとも容易いし、本書に史学史以上の意義があるのか疑問を呈する向きもあるだろう。しかし今日の情報化社会において必要とされているのは、まさに彼らが説いた史料学なり史料批判なりの理論ではなかろうか。コロナ禍然り、ウクライナ戦争然り、我々の日常にはいかに実証なき「物語」があふれていることか。これに対するには、「リテラシー」や「エビデンス」などといった目新しさを装った用語よりも、「批判」Kritikという先人から継承されてきた態度こそがふさわしいと感じるのは評者だけであろうか。そうした意味において、本書は歴史愛好家以外の人々にも読まれて良い著作であると思う。