虎屋の十六代店主・故黒川光朝氏は和菓子を「五感の芸術」と評したと言う。
味覚は言う迄もなく、ほのかな香りを楽しむ嗅覚、楊枝で切る瞬間、或いは舌ざわりなどの触覚、眼で見る視覚、そして菓銘を聞いて楽しむ聴覚だ。
…そんな芸術的な和菓子について、虎屋に勤めた経験を持つ著者・青木直己氏が紐解いたのが本書である。
さて、本書は「歴史の中の和菓子」と題された序章に始まり、古代~近世の菓子、京都と江戸の菓子屋、年中行事と和菓子、地域文化と和菓子、そして最終章の和菓子文化論に至る迄を小論形式で纏めている。
勿論、一概に「和菓子」と言っても上菓子もあれば饅頭もある、煎餅もあれば飴もある、更には、古くは“菓子”が果物を意味した事も忘れてはならないし、海外から伝来したカステラや金平糖等も和菓子の歴史を語る上では欠かせない…。
だが、心配には及ばない。
何故なら「和菓子の歴史」と銘打つ本書は、その全てに言及しているからである。
例えば、第二章は点心を以て始まるので「何故ここに餃子や焼売が出て来るのだ?!」と思ったが、実は点心というのは食事の合間の軽食を言うのだそうで(恥ずかしながら、本書を読むまでは知らなかった)、こうした意味に於いては、例えば“縄文クッキー”は果たして菓子かという問題、或いは菓子と麺類の関係についても考察している本書からは、改めて菓子と食事との位置付けを知る事が出来るであろう。
尚、第5章「行事と儀礼に見る和菓子」は興味深く、現代と比較しながら年中行事と菓子との関係や移り変わり(菱餅の色や柏餅の形の変化)、名前の由来(“お萩”や“千歳飴”)等など、様々な知識を得る事が出来るのは面白い。
因みにこれは余談かもしれないが、我が家では昔から十三夜にもススキを供えていたのだが、実はこれは江戸だけの風習だという事を知り、菓子とは直接の関係が無いながらも、意外な事実も知った次第である。
その他、時代の変遷を追いながら、幕府と禁裏御用達の名店が明治維新と共に姿を消した裏事情にも触れているので「和菓子の歴史」というよりも寧ろ「歴史の中での和菓子」を知る事が出来るのも実に意義深かった。
尤も「図説」としている割には図版はそれ程多くは無いし、地域の偏りもなくはない。
また、意外にも茶の湯への言及が少ない所には、物足りなさを感じる方もいるであろう。
然しながら、著者が勤務していた虎屋に残る史料を中心に、『守貞謾稿』に代表されるような文献も駆使して多角的に検証している所は読み応えがあり、概説書としては充分に役割を果たしていると思うので、多少の不足分はそれほど気にならないのではなかろうか。
著者は言う…「小さな菓子の中に日本文化が凝縮されている」と。
だからこそ「甘いものはちょっと…」という辛口派も、チョコレートやケーキに目が無い洋菓子派も…好みの問題は別として是非とも本書を読んで頂きたい。
本書を読めば、日本文化と歴史が一杯詰まった和菓子の全てを知る事が出来るに違いない。
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図説 和菓子の歴史 (ちくま学芸文庫 ア 40-1) 文庫 – 2017/8/7
青木 直己
(著)
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饅頭、羊羹、金平糖にカステラ、その時々の外国文化の影響を受けながら多種多様に発展した和菓子。その歴史を多数の図版とともに平易に解説。
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社筑摩書房
- 発売日2017/8/7
- 寸法10.5 x 1.2 x 14.9 cm
- ISBN-104480097929
- ISBN-13978-4480097927
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商品の説明
著者について
1954年、東京生まれ。立正大学大学院博士後期課程研究指導修了。立正大学文学部助手などを経て、1989年株式会社虎屋に入社、虎屋文庫研究主幹として和菓子に関する調査・研究に従事。2013年同社を退職、現在は日本菓子専門学校、東京学芸大学、立正大学などで非常勤講師をする他、時代劇ドラマなどの考証を行なう。他の著書に『幕末単身赴任下級武士の食日記 増補版』(ちくま文庫)など。
登録情報
- 出版社 : 筑摩書房 (2017/8/7)
- 発売日 : 2017/8/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 272ページ
- ISBN-10 : 4480097929
- ISBN-13 : 978-4480097927
- 寸法 : 10.5 x 1.2 x 14.9 cm
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上位レビュー、対象国: 日本
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2018年5月1日に日本でレビュー済み
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2017年12月17日に日本でレビュー済み
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先達て読んだ『幕末単身赴任下級武士の食日記』が面白かったので、仕事上和菓子を取り扱うこともあるために、趣味と実益をかねて読んだ見ました。古代から現代までの菓子の発祥から歴史や、古代の中国、中世のポルトガル、近世のオランダなどから日本の菓子事情に及ぼした影響などを踏まえて、写真や図版も豊富で非常に判りやすく書いてあるのが良かった。年中行事や人生儀礼に関わる菓子についても言及しており、今後の生活においても、この日だからこれを食べよう、という気にさせてくれる本だった。『和菓子の今昔』の改訂版ですが、情報としては当然新しいことや追加情報があることは大変ありがたいですが、『和菓子の今昔』の方が版も大きく、コート紙を使用しているので、図版・写真は改版前の方が見やすいです。
2020年3月7日に日本でレビュー済み
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卒論で使用予定。
内容は良い。
内容は良い。
2020年3月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
お菓子の歴史に興味があるので楽しく読ませて頂きました。お菓子は嗜好品ですが、人と深く関わっているので勉強にもなります。ただ、掲載されている図は小さいのでちょっと分かりにくかった気がします。またこのような本を書いて頂ければ読みたいと思います。
2017年11月12日に日本でレビュー済み
「図説和菓子の歴史 青木直己」を読む。
○ 和菓子は舌だけでなく目や耳など五感を使って楽しめる、日本文化の粋を集めたものである。
○ 菓子は最初中国の影響を受け、次に南蛮(ヨーロッパ)の影響を受け京菓子が成立する。やがて京菓子は全国伝播する。
○ 和菓子は饅頭、羊羹、金平糖にカステラ、その時々の外国文化の影響を受けながら多種多様に発展した。
この本ではその歴史を多数の図版とともに平易に解説した。
○ 和菓子と言う言葉は、洋菓子に対応する言葉である。
江戸時代以前は単に「菓子」と言っていた。
○ 日本文化における和菓子の成立ちを考察すると
① 果物や木の実 ② 餅や団子 ③ 唐菓子(からがし、か らくだもの)④ 点心(てんじん) ⑤ 南蛮菓子
の五つの段階を経て17世紀後半に京菓子が成立する。
○ 羊羹と饅頭は鎌倉時代に禅僧により日本のもたらされた。
さらに羊羹と饅頭は日本人の好みにより変わっていく。
○ 南蛮菓子として有名なものは「カステラ」「金平糖」である。
○ 砂糖は奈良時代に中国からもたらされたが庶民の口に入るのは室町時代になってからだ。
○ 和菓子は舌だけでなく目や耳など五感を使って楽しめる、日本文化の粋を集めたものである。
○ 菓子は最初中国の影響を受け、次に南蛮(ヨーロッパ)の影響を受け京菓子が成立する。やがて京菓子は全国伝播する。
○ 和菓子は饅頭、羊羹、金平糖にカステラ、その時々の外国文化の影響を受けながら多種多様に発展した。
この本ではその歴史を多数の図版とともに平易に解説した。
○ 和菓子と言う言葉は、洋菓子に対応する言葉である。
江戸時代以前は単に「菓子」と言っていた。
○ 日本文化における和菓子の成立ちを考察すると
① 果物や木の実 ② 餅や団子 ③ 唐菓子(からがし、か らくだもの)④ 点心(てんじん) ⑤ 南蛮菓子
の五つの段階を経て17世紀後半に京菓子が成立する。
○ 羊羹と饅頭は鎌倉時代に禅僧により日本のもたらされた。
さらに羊羹と饅頭は日本人の好みにより変わっていく。
○ 南蛮菓子として有名なものは「カステラ」「金平糖」である。
○ 砂糖は奈良時代に中国からもたらされたが庶民の口に入るのは室町時代になってからだ。