【6月27日 AFPBB News】 80年代のホラー映画をほうふつとさせるホッケーマスクをかぶった異形のアイドルグループ「仮面女子(Kamenjoshi)」。「選ばれなかった者達」を自認し、大手レコード会社と契約を結ばないインディーズアーティスト「地下アイドル」として、東京・秋葉原の専用劇場で一日も休むことなく年間1000本以上のライブをこなす。結成4年目を迎えた今年は、人工知能との共同作業や地域行政と連携し地方創生に取り組むなど、新たな地平を開拓している。

「フォロー・ミー!」赤いマスクをつけたセンターのメンバーが叫んだ。威勢良く舞台袖から飛び出した数十人による激しいヘッドバンギング、拳を何度も高々と掲げるダンス、軽快なポップスのメロディーにより、会場は瞬く間に熱狂の渦に。ヘビーメタルバンドのライブのような高揚感と、振りを一緒に踊る会場の一体感に後押しされ、約70分のステージを観客も全力でやり遂げた気持ちになる。「とにかく楽曲がいい。顔を隠している分、ライブで勝負している気迫を感じる」とファンが息を切らして語るように、仮面女子は、物珍しさをしのいで余りあるライブのエンターテインメント感が売りだ。

「仮面女子」メンバー17人を率いるリーダーの桜のどか(2016年6月15日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi


■挫折をバネに一致団結

 そもそもなぜ仮面をつけているのか。20歳から27歳までのメンバー17人を束ねるリーダーの桜のどか(Nodoka Sakura、26)は「素顔で勝負できないからです」と屈託なく笑う。若くて容姿に優れたアイドルとは同じ土俵で勝負できない──それなら仮面で顔を隠し、集団として注目を集めようとしたのが始まりだった。

 今でこそ、東大卒や、現役のプロレスラー、声優、エステティシャンなど個性豊かなメンバーが揃い、ソロで活躍する機会も増えたが、もともとは大手の芸能事務所に落ちた人ばかりの集まりだったという。

 桜自身も、女優を目指して上京後、複数の事務所を渡り歩き、高額の登録料をだまし取られるなど辛酸をなめてきた。困窮の末に、ドッグフードを口にしたことも。所属事務所「アリスプロジェクト(Alice Project)」のマネージャー総合代表、草薙イタオ(Itao Kusanagi)さんは「どんな環境でも感謝し、謙虚に、誠実に取り組んでくれる傾向が強い」と、一度芸能界で挫折を味わった人を積極的に採用している。

 個々の挫折経験が長かったことは、ファンに対する感謝の姿勢をより強めた。高い更新率を誇るツイッター(Twitter)やフェイスブック(Facebook)などSNSのメッセージや、ステージ後のファンとの交流では、まるで友達同士かのような気安さがうかがえる。ファンの一人、都内在住の自営業ころすけ(Korosuke)さんも、「ファンとの距離が近い」と魅力を語る 。

 一方、一部のメンバーに殺害予告などの脅迫メールが届き、事務所は警備を強化するなどの対策を迫られた。しかし、ファンの多くはメンバーの安全を最優先と考え、規制に従っている。桜も「自分の夢を私たちに投資して、我がことのように応援してくれている方ばかり。ファンの方が守ってくれる」と信頼が揺らぐ様子はない。

公演中ほとんど仮面を着けたままで歌い踊るメンバーたち(2016年6月15日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi


■地方の観光大使就任でファン層も拡大

 活動4年目を迎えた今年は、2年ぶりの新曲リリースし、さらに電気通信大学(The University of Electro-Communications)と手を組み、メンバーが描いたイラストを元に人工知能(AI)が作詞した曲を発表。また、千葉県いすみ市と福井県鯖江(Sabae)市の観光大使に就任するなど、新たな取り組みに挑戦している。

 今月11日に鯖江市で行われた「めがねのまちさばえフェスティバル」では、ライブ公演のほか、地元高校の吹奏楽部と共演、産業施設の見学など、老若男女問わず多くの住民とふれあう機会を得た。

 事務所は、仮面女子を「アイドル界の地方」と位置づけ、地方創生に積極的に参加する姿勢を打ち出している。「(地方は)盛り上げようと懸命に努力し、アイデアを出し合っているところが仮面女子とシンクロしている」。大使就任に携わった鯖江市財務政策課の今川泰夫(Yasuo Imagawa)参事(47)も、「他市と横並びではない、おもしろいこと、とがったことができそうだ」と話が進んだ経緯を明かした。

 今は、メンバーの情報発信のおかげで地元の観光施設のSNSにアクセスが増えるなど、目に見えて効果を実感していると言う。「住民からは次はいつ来てくれるのという声が多く、職員からも次々と提案があがっている」と今後の展開に期待を寄せる。

 仮面女子は地下アイドルながら、2015年にはさいたまスーパーアリーナ(Saitama Super Arena)でのワンマンライブに1万5000人を動員し、インドネシアや韓国などアジアを中心に海外公演も成功させてきた。それでも攻めの一手を緩める気はない。17人の思いを代弁し、桜は潔く言い切る。「私たちの強みは、雑草魂。踏まれても踏まれてもめげない。必ず夢はかなうことを証明したい」(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi 

舞台袖で円陣を組むメンバーたち(2016年6月15日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi