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演繹とは? 意味や演繹法の効果的な使い方、帰納法との違いや活用法を詳しく解説

「論理的思考」という言葉を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。論理的に物事を捉えて適切な結論を出す能力は、どんなビジネスにおいても欠かせないスキルです。

ロジカルシンキングとも呼ばれるこの思考法のもととなっている考え方に、「演繹法(えんえきほう)」と「帰納法」があります。

名前は知っていても「演繹法」と「帰納法」の違いを答えられる人は多くありません。この2つをうまく使い分けながら活用すると、ビジネスの課題解決に役立ちます。

今回は、2つの思考法の違いや注意点、効果的な使い方を具体例とともに解説します。

演繹とは

まずは演繹について解説します。

演繹とは

演繹とは、大きな1つの前提から結論を推論することです。結論を出すまでの手順をまとめた考え方が、演繹法として知られています。

演繹法を使って思考する時、大前提となるのは一般論や社会通念上のルール、規則などです。その上にさらに前提が加わってどんどん条件をつける、この工程を繰り返すことで結論が導き出されます。

演繹法は、「A=B」と「B=C」が成り立つ場合「A=C」であると考えます。一般の人が納得できる前提を基本に論理を展開するので、誰でも納得しやすく、複雑なテーマでも論理的な結論を出せるのが特徴です。

演繹法の例

演繹法の中でも代表的な手段に「三段論法」があります。これは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが確立しました。この考え方を参考に、演繹法の具体例を紹介します。

まず、大前提に「人間は誰でも死を迎える」とあった場合です。小前提に「ソクラテスは人間だ」とあったらどのような結論が得られるでしょうか。この2つの事象を踏まえて考えられるのは、「ソクラテスは死を迎える」という結論です。

次に身近な例として、植物について考えてみましょう。

大前提に「植物は光合成をする」があり、小前提に「桜は植物である」とあったら、「桜は光合成をする」と結論付けられます。

このように、複数の事実から1つの結論を出す方法が演繹法です。

演繹法の注意点

演繹法は正しく活用すれば理論的に結論を出せますが、間違った使い方をすると結論もずれてしまうので注意しましょう。

具体的な注意点を2つ紹介します。

  • 大前提を間違えない

大前提となる一般論や社会常識が間違っていたら、大前提をもとに考えた結論も誤った内容になるでしょう。

前提になる一般論や事象の、それぞれの背景にある物事や人の心理を考えながら、正しい結論を導き出すよう注意が必要です。

  • 事実を間違えない

結論を出すために必要となる大前提や小前提は正しくなければなりません。例外がある場合や、他の事象とも関連がある事実を前提としても、結論を正しく導き出すことは難しいでしょう。

例として、「ある自動車メーカーの最大の目的は利益率の最大化である」という大前提がある場合について考えます。そして「軽自動車は普通車よりも利益率が低い」と小前提を決めると、「利益率が高い普通車の製造に注力すべき」という結論が出るでしょう。

しかし、これが正しいといえるのは、「部品輸送費が一定価格以下ならば」「20万台販売できたなら」などの仮定条件が成立する場合に限られます。

仮定があることに気づかず演繹法で思考を進めると、実際とは異なる結論を出してしまうので注意しましょう。

演繹法と帰納法の違い

両者の異なる点を解説します。

帰納法とは

演繹法と対象的な考え方に、帰納法があります。これは、複数の事実や出来事から1つの結論を出す方法です。複数の事柄に共通する事実を参照して結論を出すため、納得感があり結論に説得力を持たせます。

帰納法で出した結論は必ずしも真実とは限りません。真実ではなく、「膨大な量のデータから推察される確からしい結果」という点が特徴です。

具体的な例を紹介します。

事実1:猫Aには目が2つある

事実2:猫Bには目が2つある

事実3:猫Cには目が2つある

この3つの事実から推察できることは、「猫には目が2つある」ということです。この場合、先天的な障害を持っていて目が1つや3つの猫がいる可能性がありますが、論理的には「猫には目が2つある」は正しいといえるでしょう。

帰納法は参照する事実が多いほど、結論の根拠がはっきりして納得感が高まります。ただし、論理が飛躍して事実ではないのに事実だと捉えると、間違った結論が導かれやすいので注意してください。

演繹法が一般論を組み合わせて答えを出すのに対し、帰納法は起きている事実の共通点を探して答えを出します。2つの思考法の違いを正しく認識して、うまく使い分けることが大切です。

ロジカルシンキングとは

論理的思考とも呼ばれる「ロジカルシンキング」は、演繹法や帰納法の考え方をもとにした思考法のことです。物事を矛盾なく整理して論理的な結論を導き出すことができるので、冷静な判断が求められるビジネスシーンにおいて、ロジカルシンキングを取り入れようとする企業が増えています。

ロジカルシンキングを身につけると、相手に伝えたい内容が過不足なく伝えられる「話す力」が向上します。人は会話する際につい自分の感情と事実を合わせて伝えてしまうものですが、ビジネスにおいては事実と自身の考えを区別して伝えることが大切です。

ロジカルシンキングによって、社内の報連相(報告・連絡・相談)が円滑に進み、効率的に仕事を進められるようになるでしょう。

演繹法と帰納法の使い分け

2つの思考法はどのように使い分けると良いのでしょうか。多くの場合、アイデアが理にかなっているか確認する際に使われる思考法が演繹法で、膨大なデータを分析して今後の方針などを検討する際に使われる思考法が帰納法です。

使い分けの明確な場合分けはないため、必要に応じて方法を選択することをおすすめします。

演繹法と帰納法の組み合わせ

正しい結論を出すためには、それぞれの思考法の使い分け方が重要です。ただし時には、2つの思考法を組み合わせて思考を深められることがあると知っておきましょう。

複数の事柄やデータなどの共通点から結論を出す帰納法は、「今後の方針」や「行動基準」を明確にすることができます。一方演繹法は、今後の方針や行動基準を前提にして、具体的な「行動計画」を打ち出す際に有効です。

そのため、帰納法で得た結論を、演繹法における前提として使うことで効率的に最適な結論を導きやすくなるのです。各思考法の特徴をしっかりと認識した上で組み合わせると、それぞれの特徴や効果を最大化できるでしょう。

帰納法と演繹法を、どうビジネスシーンで使い分けるか

ビジネスシーンでの使い分け方を紹介します。

ビジネスシーンにおける帰納法とは

帰納法は複数のデータや事実から、論理的に正しいと思われる結論を導き出します。この特徴から、帰納法は企業のマーケティングや経営戦略、商品企画の方向性を定める際に役立つといえます。

例えば、以下の3つの事実があった場合について考えてみましょう。

「100人の男女に街頭インタビューをした結果、9割がコンビニエンスストアで水を買うことに抵抗がないと分かった」

「コンビニエンスストアにおける水の売上は年々増加傾向にある」

「100人の男女を対象にしたアンケートの結果、ウォーターサーバーを導入している人は3割だった」

これら3つの事実からは、「今後もコンビニエンスストアの水は売れ続ける」と推察できます。この場合の結論は本当に正しいとは言い切れないものの、企業が今後の戦略を立てる上で十分参考になるはずです。

データから「なんとなくこうなるだろう」と主観や直感で今後の方針を決めるよりも、帰納法で論理を展開した方が、ビジネスにおけるリスクを小さくできるのです。

ビジネスシーンにおける演繹法とは

一般論や社会通念上の常識など、前提をもとに思考する演繹法は、説得力があり正確な結論を導き出しやすい方法です。

例えば、新商品や新しいサービスを開発する際に有効です。開発した新商品を多くの人の手に届けるためには、顧客の抱える問題を解決するか、顧客の望みを叶えることが必要です。

この時、商品開発の前提となる顧客の問題や望みを正確に把握していれば、企業の売上アップにつながる商品開発が実現できるでしょう。

状況に合わせて使い分ける

帰納法は数値やデータを参照して統計的に論理的結論を導き出します。演繹法はアイデアの妥当性や正確性を確認する際に有効な思考法です。

何についての結論を得たいのか、論理的な思考のためにどんな情報が判明しているのかなど、状況に合わせて適切に使い分けることが重要です。

仮説演繹法とは

3つ目の思考法について解説します。

仮説演繹法とは

帰納法と演繹法の2つの思考方法を掛け合わせた方法を「仮説演繹法」と呼びます。これは、帰納法の結論として仮説を導き出し、その仮説から予測される結論を考える方法です。

結果的に得られた予測が正しいか確かめるため、検証実験を行うことが一般的です。2つの思考法の良い部分を取り入れて思考を深められる点が特徴です。

仮説演繹法の流れ

具体的な流れを紹介します。

1:課題を発見

2:帰納法で問題に対する仮説を立てる

3:演繹法で、仮説を参考に予測を立てる

4:予測を検証する

4つの手順に従って思考を深めることで、論理的で正しい結論を導きやすくなります。また、説得力のある演繹法と、常識にとらわれない新しい考え方を生み出しやすい帰納法、両者の良い点が引き出されるというメリットが得られるでしょう。

仮説演繹法の問題

実験を重ねて検証することにより正しさを確かめるため、一度出した結論が「絶対的に正しい」と言い切れないのが仮説演繹法の課題です。

しかし、実験の結果が予測と反していれば演繹法の段階に戻って再度予測を立て直せるため、より正確性の高い予測を効率的に得られるのは利点だといえるでしょう。

仮説演繹法の効果

仮説演繹法の利点は、2つの思考法の問題点を解決できることです。これにより、より斬新で、より正確な結論を導き出せるようになりました。

帰納法や演繹法をそれぞれ独立させて使う以上に高い効果を得られるので、企業の経営層をはじめ、ビジネスに関わる人は積極的に活用することをおすすめします。

演繹法に当てはめる際のポイント

ポイントは4つです。

ルールに合致しているか

演繹法で使う前提が間違っていては、導き出される結論も間違ったものになります。前提となり得る一般常識や会社のルール、一般論が正しいことを重視しましょう。

例えば投資を検討する際に、「リターンが投資額の110%以上なら投資する」というルールがあった場合、「リターン予測は80%」と分かった時点で「投資をしない」と結論付けられるでしょう。

方針に合致しているか

演繹法の結果、企業の方針とずれた内容の結論を導き出さないようにしましょう。方針に合致しているかどうか判別できるような事実を思考に含めることが大切です。

例えば、「子どもに好かれるデザインのキャラクターを生み出す」方針があれば、「〇〇は小学校低学年の男女の9割が好んでいる」という事項を見つけると良いでしょう。

因果関係を当てはめる

演繹法において因果関係を重視すると、より説得力のある結論を導きやすくなります。

例えば、「商品の露出を15%増やしたら、販売個数が30%上昇した」という因果関係が統計データにより判明した場合について考えてみます。

この場合、演繹法で前提とするのは「商品の露出を15%増やすと、販売個数は30%上昇する」という事実です。

この事実に「販売個数を30%アップさせる」という企業の方針が加われば、導き出される結論は「商品の露出を15%増やす」となります。

価値観に合致しているか

価値観は企業のブランドイメージや企業風土を決定づけるため、企業の方針や商品展開を考える上で無視できない要素です。

例えば、「高級感があり女性に好まれる柔らかさ」を大切にしている企業があるとしたら、演繹法における前提に「自社製品はすべて高級感がある」「自社の顧客は女性がメインである」などが考えられます。

その結果、「商品パッケージには金色を使って高級感を出し、花柄を使って女性らしさを出す」といった結論を得られるでしょう。

演繹法の考え方

基本的な考え方を紹介します。

最初に結論を考える

まずは結論から考えると良いでしょう。結論の内容によって検討すべき一般論や普遍的事実などが異なるので、着点を明らかにしておくと目的とズレなく思考できます。

結論に説得力を持たせるために、テーマに関する要素はできる限り多く抜き出して課題点や疑問点を網羅することが重要です。

結論が出る理由を考える

結論が出る理由を検討する過程が、演繹法において重要だと知っておくと良いでしょう。

「その結論を出したい理由」や「なぜそのような結論が出せるのか」を具体的に言語化できると良いでしょう。結論を出すまでの流れ、思考した際の自身の意見、根拠とした事実や一般論、数値化されたデータをしっかり把握しておくよう留意してください。

普遍的な事象を考える

「普遍的」という言葉が、「広く行き渡り極めて多くの物事に当てはまるさま」を意味しているように、一般的に浸透している考え方や認識を見つけ出します。

誰もが「当たり前である」「それが自然な考え方だ」と思える内容を前提に置かなければ、演繹法で導き出した結論が一般の人の感覚とズレやすくなるので注意しましょう。

前提の前提を考える

気づかずにミスしやすい内容として、前提条件がそもそも成立しないことが挙げられます。前提条件が成り立つためにさらに前提条件がある場合、思考が深めきれず説得力を欠いた結論を出しやすくなってしまうでしょう。

例えば、「家では靴を脱ぐものだ」という前提があったとします。日本の一般家庭ではごく当たり前に思われますが、アメリカ合衆国など海外諸国では屋内でも靴は履いたままである場合がほとんどです。

もしも「家では靴を脱ぐものだ」という前提をもとに「海外向けに裸足でも歩きやすい柔らかい床材を開発しよう」と結論付けたらどうなるでしょうか。柔らかい床を靴のまま歩くことで床に傷が付きやすくなり、思うように売上が伸びない結果になる可能性が高いといえます。

演繹法に繋がる思考の鍛え方

4つの方法を紹介します。

鍛え方の基本

まずは思考の鍛え方の基本として、演繹法の考え方を細かく分解してみましょう。演繹法の思考方法は、以下の3つに大別できます。

  • 1:そもそもの前提を疑えるか

演繹法は前提をもとに思考する方法なので、そもそもの前提が異なると結論も間違ったものになります。思考を始める前に、まずは前提が「本当に正しいのか」と疑うようにしましょう。

しかし、多くの人が「当たり前だ」と感じる物事を疑おうとしても、「この前提は間違いだ」とはなかなか気づきにくいものです。そこで、抜き出した前提条件に対して「誰にとって当たり前なのか」「どの場合に普通だといえるのか」など、より詳しく問いかけてみることをおすすめします。

  • 2:結論と根拠が繋げられるか

結論が正しいことを証明するためには、結論を出すもととなった根拠が、導き出した結論と正しく紐づいていなければなりません。

演繹法は一見すると論理が通っているように感じられる場合が多く、よくよく考えると結論と根拠がつながっていない場合があるので注意しましょう。問題ないか確認する際は、結論から逆算して根拠を述べてみると間違いに気づきやすいのでおすすめです。

例えば、「感染症の影響で飲食業の売上が低迷している」「A社は飲食業を営んでいる」という前提から、「A社の売上が低迷している」という結論を出した場合です。

これを逆算してみると、「A社の売上が低迷している。売上低迷中の飲食業を営んでいるからだ」となります。さらに、「飲食業の売上が低迷しているのは、感染症の影響で外出が減ったからだ」と答えられるでしょう。

こうしてみると、A社が必ずしも「売上が低迷している」と言い切れないことが分かります。なぜなら外出が減ると、持ち帰り弁当を販売する飲食業者や食事を宅配する飲食業者の業績が上がるためです。飲食業者の中でもどの事業をしているかによって業績が変わると気付けば、前提条件の設定からやり直せるでしょう。

  • 3:伝達機会を持って論理を伝える

演繹法で論理的な結論を導き出したら、言葉にして伝える機会を持ちましょう。自身の頭の中で考えていた内容を言語化して他者に伝える経験をすると、思っていたよりうまく思考の過程や根拠が明確でないと気づくかもしれません。

一度自分の言葉で考えを述べることは、思考力を鍛える上で大いに役立つでしょう。

日常会話、日常生活で演繹法を使う

演繹法を活用できる場面は、ビジネスシーンだけではありません。家族や友人との日常会話でも使えるシーンは数多く存在します。

例えば恋人関係における「普通〇〇なのになぜ分かってくれないの」というよくある悩み。演繹法の基本に立ち返れば、「誰にとっての普通なのか」を考慮する必要があると分かるでしょう。人の価値観が異なるのは、家庭環境などで培った「当たり前」や「普通」が違うためです。

また、SNSやテレビ番組で触れる話題について「この根拠と結論は本当に正しいのか」と疑ってみるのもおすすめです。論理が破綻している物事に気づくだけでも思考力は鍛えられますし、正しい結論を自分で導いてみるとより力がつくでしょう。

企画業務で演繹法を使う

アイデアの妥当性を客観的に確認したり、事業の成功可能性を検討したりする際に有効な手段である演繹法。企業の成長度合いを左右する企画業務では、特に意識して演繹法を使ってみましょう。

正解のない企画業務において、より成功しやすい企画を生み出す思考力が身につき、ビジネスの成功を実現しやすくなります。

上司への報告で演繹法を使う

思考能力を鍛えるなら、上司への報告をする際に使ってみましょう。

職場での報告は簡潔にわかりやすくすることが求められるので、論理的に根拠と結論を述べやすくなる演繹法が効果的です。

報告がスムーズにできると上司からの信頼が得られ、作業効率のアップも見込めます。良い人事評価を得られるきっかけになる可能性もあるでしょう。

演繹法と帰納法の活用で論理的思考力を鍛えましょう

演繹法は難しいように思えますが、うまく活用すればビジネスでも日常生活でも考えや意見が伝わりやすくなるというメリットがある思考法です。

状況に応じて帰納法と使い分け、場合によっては帰納法と組み合わせて使うことで、さらに説得力や納得感のある結論を導けるようになるでしょう。

思考力を鍛えるために、日常的に触れる情報を疑う癖や、結論と根拠の関係性を考えてみる癖を付けると良いでしょう。一朝一夕で身につく考え方ではないため、日頃から意識して演繹法を使ってみることが重要です。