8年連続で軽自動車の新車販売台数トップのホンダ「N-BOX」。価格:144万8700~225万2800円 8年連続で軽自動車の新車販売台数トップのホンダ「N-BOX」。価格:144万8700~225万2800円 
昨年の新車販売台数で総合1位に輝いたのはホンダの軽自動車N-BOX。軽の新車販売台数では実に8年連続でトップに君臨している。あまりに売れすぎているため、"N-BOXじゃない軽"がほしいという声も。というわけで、専門家に軽のベストバイを聞いた!

――軽自動車の人気が凄まじいらしいですね?

渡辺陽一郎(以下、渡辺) はい。昨年、日本国内で約420万台の新車が販売され、この内の約39%が軽自動車でした。特に人気の高いタイプは全高が1700㎜を超え、スライドドアを備えたスーパーハイトワゴンです。このタイプが軽乗用車の半数以上を占めています。

――スーパーハイトワゴンの人気モデルはどれ?

渡辺 人気が最も高いのは、ご存じ、ホンダN-BOXです。2022年に20万台以上を販売して、国内のベストセラーになりました。総合2位はトヨタのヤリスシリーズで合計約17万台です。いかにN-BOXの人気が圧倒的だったかよくわかります。

――ほかは?

渡辺 2022年の軽自動車販売ランキングは、1位がホンダのN-BOX、2位がダイハツのタント、3位はスズキのスペーシアでした。この軽自動車ベスト3は、すべて全高が1700㎜を超えるスーパーハイトワゴンです。

――軽自動車だと、スーパーハイトワゴンが最良の選択?

渡辺 そうでもありません。例えば大人4名で移動するだけなら、スーパーハイトワゴンの高い天井やスライドドアは不要でしょう。もう少し背の低いハイトワゴンが実は合理的です。

――では、ハイトワゴンのベストバイどれ?

渡辺 N-BOXと同じホンダのN-WGNです。2022年の販売台数は約4万台ですから、N-BOXの約20%です。正直、売れ行きは少ないですが、非常に優れた軽自動車です。

昨年9月にマイチェンしたホンダ「N‐WGN」。価格:129万8000~188万2100円昨年9月にマイチェンしたホンダ「N‐WGN」。価格:129万8000~188万2100円
――具体的にN-WGNのどこが推せる?

渡辺 N-WGNにスライドドアは装着されませんが、前後席ともに居住性はN-BOXと同等に広くて快適です。後席を格納して自転車などを積む機能はありませんが、後席の下には横幅が約1mのワイドなトレイが備わり、傘なども収納できます。

――便利な機能が多いと?

渡辺 燃料タンクはN-BOXと同じく前席の下に搭載され、荷室は床が低いです。荷室高には十分な余裕があり、上下2段に分けて使えます。さらにN-WGNはN-BOXよりもボディが軽く、燃費も優れています。N-BOXの標準ボディのLは、WLTCモード燃費が21.2㎞/Lですが、N-WGN・Lなら23.2km/Lです。

――お値段はいかがです?

渡辺 N-WGNのLは139万9200円ですから、N-BOXのLの157万9600円に比べると、約18万円安い。合理的な選び方として、ホンダの軽自動車がほしいと思ったら、まずN-WGNの検討をオススメします。その結果、荷室が狭いとか、スライドドアが欲しいと感じたら、選択の対象をN-BOXに移す。

――納期の違いはどうです?

渡辺 販売店によると、N-WGN、N-BOXともに約半年と返答されました。小型/普通車には1年前後の車種も多いので、今は半年なら短い部類に入ります。

――ほかにも推しがある?

渡辺 スズキアルトにも注目して欲しいですね。その理由としては、「低燃費と低価格」という軽自動車の本質をしっかり追求しているところ。全高は1550㎜以下で、ワゴンRやスペーシアと違い、立体駐車場を使いやすい。車両重量も軽く、人気グレードのLは680㎏に収まります。

従ってWLTCモード燃費も25.2km/Lと良好です。マイルドハイブリッドを搭載した上級グレードは、軽自動車で最良の27.7km/Lですから、コンパクトカーのハイブリッドに近い。

1979年に登場した初代アルト。現行は9代目となる。スズキ「アルト」価格:94万3800~137万9400円1979年に登場した初代アルト。現行は9代目となる。スズキ「アルト」価格:94万3800~137万9400円
――装備面はいかがです?

渡辺 人気のLは衝突被害軽減ブレーキ、小型車でもオプション設定にすることの多いサイド&カーテンエアバッグ、電動格納式ドアミラーなどの実用装備を標準装着しています。

――価格は?

渡辺 Lは99万8800円に抑えました。ちなみに初代アルトは、1979年に47万円の低価格で発売され、ヒット商品になりました。当時の47万円という価格を、大卒初任給をベースにして、今の価値に換算すると、ちょうど90万円です。今のアルトのAグレードの94万3800円に近い。

――アルトは経済的な負担が時代を超えて同等だと?

渡辺 そうです。アルトはいつの時代でも「1979年の47万円」に相当する価格でベーシックなグレードを販売してきました。クルマ造りがブレない。ただし、初代アルトには時計やシガライターは付かず、左側のドアの鍵穴まで省きました。

それがフルモデルチェンジを行なう度に、パワーステアリング、エアコン、4輪ABSなどを加え、今では衝突被害軽減ブレーキまで標準装着しています。アルトの歴史は日本のベーシックカーの進化と重なります。

――アルトの室内はいかがです?

渡辺 アルトは車内が広そうに見えませんが、実際は後席の足元空間にも余裕があります。身長170㎝の大人4名が乗車したとき、後席に座る乗員の膝先空間は、握りコブシふたつ半です。前後方向の足元空間は、上級SUVのトヨタ・ハリアーなどと同程度です。

2018年に約20年ぶりのモデルチェンジを行ない、4代目となったスズキ「ジムニー」。価格:155万5400~190万3000円2018年に約20年ぶりのモデルチェンジを行ない、4代目となったスズキ「ジムニー」。価格:155万5400~190万3000円
――人気のSUVは軽にもありますね。ズバリ、どれがベストバイ?

渡辺 スズキ・ジムニーが注目です。初代モデルを1970年に投入して以来、悪路向けのSUVとして着実に進化してきました。現在のSUVの多くは、乗用車と同じ前輪駆動のプラットフォームを使っています。

ところがジムニーは専用設計で、エンジンを縦置きにした後輪駆動がベースです。悪路で駆動力を高める副変速機も備わり、ボディや各種のメカニズムは、頑丈なラダー(はしご状の)フレームに搭載されます。クルマの構造が乗用車ベースのSUVとはまったく違いますね。

――まさに悪路を走るための本格的なクルマだと?

渡辺 はい。悪路走破力が高く、しかもボディがコンパクトですから、道幅が狭く曲がりくねった林道も走りやすい。日本で購入可能なSUVのなかでは、ジムニーの悪路走破力が最も優れています。残念なのは納期で、販売店では「今でも1年以上」としています。

――それにしても軽自動車は奥が深いですね......。

渡辺 軽自動車には、電動開閉式のハードトップを備えたクーペのダイハツ・コペン、荷室が思い切り広いスズキ・エブリイワゴンなどがあります。

軽自動車は、小型/普通車の豊富な選択肢を小さなサイズに凝縮したクルマ界の「小宇宙」です。スーパーハイトワゴンも魅力的ですが、いろいろな軽自動車がありますから、楽しみながら選んでください。

渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員