人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、ARIA読者にお届けします。立教大学名誉教授で英語教育学者の鳥飼玖美子さんの3回目。新たに踏み出した教員の道ですが、当時は通訳者がアカデミズムの世界に入ることは異例。理不尽なことも多かったと話しますが、学び続けながら独自の方法でキャリアを切り開いていきます。

(1)英語教育学者を生んだ教師の温情
(2)アポロ11号中継で仕事が急増
(3)40代~大学院で学び、道を開く ←今回はココ


鳥飼玖美子
立教大学名誉教授/英語教育学者
鳥飼玖美子 東京都生まれ。上智大学卒業、コロンビア大学大学院修士課程修了、サウサンプトン大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。専門は異文化コミュニケーション学。大学在学中から同時通訳者として活躍。立教大学・同大学院教授などを歴任。ラジオ「百万人の英語」(1971~92年)、「NHKテレビ英会話」(1998~2004年)など英語番組の講師を多く務める。「太田光のつぶやき英語」(NHK Eテレ)に出演中。著書に「異文化コミュニケーション学』(岩波新書)など

 自分の専門を持ちたいと考えていた私に母校から届いた大学教員へのオファー。4年制大学を開校するので、英語教育を担当してほしいというものでした。思い描いていたキャリアチェンジがかない、通訳者の仕事をやめました。

 とはいえ、ラジオ番組以外は教育に携わったことがなく、英語教育について専門的な知識もなく不安でした。その頃、米国で英語教授法という分野が盛んで、子育てをしながら学べる手立てはないかと考えていると、コロンビア大学が英語教授法の大学院を日本で開校することに! 迷わず応募し、大学院に入学。44歳で英語教授法修士課程を修了しました。

 大学で教職に就いた当初は苦労しました。今でこそ社会で活躍している実務家を教員として迎える大学は多く、通訳者も引く手あまたですが、当時は通訳者がアカデミズムの世界に入ること自体が異例。カリキュラムに通訳入門を入れてはどうかと提案すると、「通訳なんかに理論があるんですか?」と嘲笑される。論文を書いたことのない私は実績なしとみなされ、教員のなかで浮いた存在でした。

 理不尽なことも多く、統一カリキュラムをつくる過程で挫折しかけたこともありますが、英語教育プログラムを練り、教壇に立ちながら、より英語への理解を深めるために内容を改善する日々は、とても充実していました。