竹野内豊<自分の武器を模索していた20代>経験を通じて獲得した「自分を許していく方法」

竹野内豊<自分の武器を模索していた20代>経験を通じて獲得した「自分を許していく方法」

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#竹野内豊
INTERVIEW
2023.1.28

俳優に欠かせない武器が何かを知りたかった

若いときからスター街道をまっしぐらに歩んでいるように見えて、実際はいくつもの葛藤を抱えていたという竹野内さん。「勝手にいろんな壁を作って、勝手にそこにぶつかって、勝手に1人でもがいている、みたいな(笑)」と振り返る30代に、その壁をぶち破ってくれたのは、緒形拳さんの主演ドラマ『帽子』(NHK広島放送局開局80周年記念ドラマ、2008年)との出会いだった。

インタビュー前編では、「若い頃は、コンプレックスとプライドがないまぜになっていた」と語っていたが、筆者からすると、竹野内さんは昔から演技に対してとても真面目だった印象がある。もう四半世紀ほども前のことになるが、あるエンタメ誌の対談に、竹野内さんと、当時一斉を風靡していたドラマプロデューサーに登場してもらったことがある。いつの時代も、プロデューサーというのは弁が立つもので、1時間ほど用意されていたインタビュー時間のほとんどが、プロデューサーの俳優論、ドラマ論に費やされていたが、残り時間があと10分程度になったとき、意を決したように竹野内さんが、「昨日から、これだけは聞きたいと思っていたことがあって」と切り出した。

「俳優に欠かせない武器ってなんだと思いますか?」

のめり込むような姿勢で、竹野内さんはプロデューサーに質問した。

「俳優の武器は人によっても違うし、作品によっても違う。その都度、プロデューサーや監督や共演者と話し合いながら、探していかなきゃいけないものなんじゃないのかな」

当代きっての敏腕プロデューサーは、確かそんなことを話していた。

このエピソードを本人に伝えると、「俳優の武器かぁ。今も、誰か知っているなら聞いてみたいです」と言って、照れくさそうに笑った。

歩んできた人生が芝居に滲み出ることが役者の醍醐味

「でも、今の自分が何となく思うのは、緒形拳さんの芝居じゃないけれど、『日常を精一杯生きること』が、役者の一番の魅力になるのではないかということ。役の中に、自分の生き様をさらけ出せるかどうか。この入間みちおという役柄も、今50の僕が演じるのと、10年後に60の僕が演じるのとでは、全然違うと思うんですよね。役者の醍醐味というのは、そういうことなのかなとも感じますし、同じことをやっていても、自分が演じるベースとなるものには、自分が歩んできた人生が、きっと滲み出るものだと思うから。そこがおそらく役者の面白さというか……。昔の自分のように小手先で演じようとしたら、薄っぺらい芝居になってしまうでしょうね。自分自身が人として、ただ歳を積み重ねるのではなく着実に生きていないと、おそらくどんな演技のトレーニングを積もうが、役柄に深みや奥行きは出てこないような気がするんですよね」

30代半ばで、「役者って何なんだ?」と自問自答する長いトンネルを抜け、仕事も少しずつ、長く、じっくり取り組める作品を増やしていった。すると、不思議なことに、監督から「好きにやって」と言われることも増えた。

「40代になって主演した『ニシノユキヒコの恋と冒険』という映画があるんですが、レトロな映画館でチャンバラ映画を観たあと、阿川佐和子さん演じる主婦と映画談義をするシーンがあるんですが、そこなんかまったくのアドリブでしたからね。主に、阿川さんが喋ってくださったんですが、実際の映画にも、その長回しは編集せずにそのまま5分ぐらい使われています。若い頃、自分で勝手に作ってしまっていた“ガチガチの脳内プラン”から解放されてからは、芝居を自由に任されることや、委ねられるようなことも増えてきたので、入間みちおみたいな風変わりな役柄も、自分の中で取り入れられるものは全て取り入れて、とりあえずやってみようっていう、そういう境地になれたのはよかったですね」

一つでも「よし!」と思える瞬間があれば

「何でもあり」と思えるようになったと言っても、物事を達観するようになったわけではない。ただ自分の中で、「まあいいか」と自分や周囲の失敗や過ちを受け入れ、許せるようになったことは、いい傾向だと思っているそうだ。

「余裕っていうのとはまたちょっと違うかもしれないですけど、執着を手放すやり方を覚えたのかもしれない。今回の『イチケイ〜』のみちおのセリフにもあるんですけど、『仕事をするとき、何か一つでも自分で、“よし!”って思える瞬間があればいい』って。それは真理かも知れないなと思います。ものづくりの現場では、物事が想像通りにうまくいくことなんてほとんどなくて、自分自身のことを振り返っても、反省したりすることばかりなんですが、たとえば作品の中で1箇所でも、『素晴らしいシーンが生まれた』と思えたら、それだけで十分なんじゃないかなって。物事のいい面を一つでも見つけられたら、それを糧にして、次に進んでいけるものだと思うんですよ」

どう演じるかということと同じくらい、もしくはそれ以上に、今をどう生きるかに真剣に向き合っている竹野内さんは、『イチケイ〜』の現場でも、人間味溢れるキャラクターとして、共演者やスタッフに愛され、頼られていたという。でも、当の本人は、「僕は逆に、若い世代の人たちからすごく刺激を受けます」と話す。

「最近の若手俳優の方たちは、お芝居がものすごく上手で、自分が20〜30代だった頃、そんなふうにはとても演じられなかったと思うような、奥行きのあるお芝居をされるので本当に素晴らしいと思っていて、今はむしろ後輩たちから学ばせてもらうことのほうが多いんです(笑)」

そんな飄々としたユーモラスな雰囲気も、今となっては竹野内さんにしか醸し出せない絶対的な武器の一つである。

竹野内豊(たけのうち ゆたか)

1971年1月2日生まれ。東京都出身。モデルとして活躍後、94年に俳優デビュー。ドラマ、映画、CMなどで活躍し、代表作多数。今年、京都国際映画祭2022で三船敏郎賞を受賞。令和月9No. 1視聴率を誇るドラマ『イチケイのカラス』の劇場版が現在大ヒット上映中。主演の連続ドラマが映画化されるのはこれが初。

映画『イチケイのカラス』

入間みちお(竹野内豊)が東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称:イチケイ)を去って2年。岡山に異動したみちおが担当することになったのは、主婦(田中みな実)が史上最年少防衛大臣・鵜城英二(向井理)に包丁を突きつけたという傷害事件。事件の背景には、不審点だらけのイージス艦と貨物船の衝突事故があった。ただ、イージス艦の航海内容は国家秘密のため、みちおの伝家の宝刀「職権発動」が通用しない。同じ時期、坂間千鶴(黒木華)は、裁判官の「他職経験制度」で弁護士として、みちおの隣町に配属されていた……。

Photo : ND CHOW Styling : Riku Shimoda Hair&Make-up : CHIE(HMC Inc.) Interview : Yoko Kikuchi

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