竹野内豊 大好きになれるワンシーンを 

竹野内豊 大好きになれるワンシーンを 

#映画インタビュー
#竹野内豊
INTERVIEW
2023.3.27

自分にできることや使命を常に問う

新しい作品に入るたび、「なぜ?」と自分に問いかけるそうだ。「なぜ今の時代に、こういう作品を作るのだろう?」と。言うまでもなく、俳優として不動の人気で約30年駆け抜けてきた人。その彼から『with』が受け取った“新たな出発へのお守り”とは―?

「自分は、プロデューサーでも監督でもないので、いくら考えたところで、明確な答えが出せるわけじゃない。ただ、演じているときや、それを見た方たちからの反響で『あ、もしかしたらこういうことかな』と気づくことはあります」

2021年春のドラマ『イチケイのカラス』に出演したときも、その“気づき”はあった。竹野内さん演じる型破りな刑事裁判官・入間みちおは、事件に不審な点を感じると、裁判所主導で現場検証などの独自捜査を行う“職権発動”によって、真実を導き出していく。現実には、それはあり得ないと知った竹野内さんは、あるとき、監修を務める元判事の先生に、「こんな感じでやっちゃってますけど、大丈夫でしょうか?」と聞いてみた。すると先生は、「実は私も、できることなら入間さんみたいなことがやりたかったんです」と、ニコニコしながら答えたという。

「元判事に、ちょっとしたワクワク感を手渡せているとしたら、すごく光栄なことだなと。たとえば学生の方がこれを観て、『いつか法曹界に入りたい』と思うことだってあるかもしれないし、俳優として、誰かの頑張るきっかけになれたら、こんな嬉しいことはないなと。『この作品から勇気をもらった』という人が、一人でも多く出てきてくれたらいいですね。今この閉塞的な日本に必要なのは、型破りなエネルギーだと思うので」

竹野内さん自身も「こんなに『観ましたよ!』と幅広い層から反響をもらった作品は初めて」と語る『イチケイのカラス』が映画化。みちおは、2年前に東京地方裁判所を去り、今は岡山に異動していた。ドラマでバディを組んでいた黒木華さん演じる坂間千鶴は、裁判官の「他職経験制度」で弁護士となり、みちおの隣町に配属されて―。映画らしいスケール感で、地方が抱える闇に大胆にメスを入れていくみちおと坂間。笑って泣けて、「自分にとっての正義とは何か」を考えさせてくれる珠玉の法廷エンタテインメントに仕上がっている。また、沁みるセリフも多い。悩む坂間に、みちおがかける「結局、考えることでしか答えは見つからないと思うよ」という言葉には、竹野内さんも「その通り」と膝を打った。

「コロナ禍になって、エンターテインメントの分野でも、一時期全部ストップしてしまったので、とくに自粛期間中はいろいろ考えたんです。社会のこと、過去のこと、まだ見ぬ未来のことや『今の自分にできることは何か?』って。東日本大震災があったときもそうでした。でも、考えるたびに、『今自分にできることにベストを尽くすしかない』っていう結論に至る。演じた役が、観てくださった人たちの記憶の中で生きて、励みになったり、笑えるきっかけになったり。それが、一番望むところかなって思いますね」

もちろん芝居の現場は、すべてがスムーズで和気藹々というわけではない。28年にわたる俳優人生、監督の意図が汲めず戸惑ったこともあれば、自分の意見を飲み込まざるを得なかったことも。そして昨年は独立を決断。50歳を節目に新たなステップを踏み出す選択をした。

「どんな仕事も選択も、たとえ苦しいとかすごく嫌だなという瞬間があっても、不思議と時間が経つと、『ああいう時間もすごく大切だったんだな』と気づく。今は、自分の中に“やって後悔しない判断基準”があって、ワンシーンでいいから自分が大好きになれるシーンができたら十分だなって。あまり好みの作品じゃなかったとしても、『やってよかったな、この役』ってワンシーンだけ思えたらいい。ありがたいことに、今まで関わってきたすべての作品にそれがあります」

映画の中にも、斎藤工さん演じる弁護士に「なぜ裁判官をやっているのか」と聞かれ、「自分が“よし!”と思いたいから」と答える場面がある。竹野内さんの「ワンシーン」も、みちおの「よし!」も意味合いは同じだ。自分を認められる一瞬のために、苦しいことがあっても、腐らず目の前のことにベストを尽くす。

「本当はね、芸の世界では自己評価はしてはならないことだと思うんです。それは見る側に委ねるものだから。どんなに頑張っても伝わらないことだってある。だからせめて自分がそこにちゃんと逃げずに向き合って、後悔しないように、たくさん自問自答を繰り返す中で、最後に一つ『よし!』って思えた瞬間があると、次の作品に向かうためのお守りになる。ところがこれがプライベートになると、どんなにベストを尽くしたつもりでも、『よし!』って思える方向に持っていけないことの方が多いんですけど(笑)」

そう朗らかに笑ってから、「そこがまた、人生の面白いところなのかな」と呟いた。低い声の中に、大人のユーモアとペーソスがないまぜになった。

竹野内豊

たけのうちゆたか 1971年1月2日生まれ。東京都出身。モデルとして活躍後、’94年に俳優デビュー。ドラマ、映画、CMなどで活躍し、代表作多数。京都国際映画祭2022で三船敏郎賞を受賞。令和〝月9〟No. 1視聴率を誇るドラマ『イチケイのカラス』の劇場版は、2023年1月13日より全国ロードショー。竹野内豊主演の連続ドラマが映画化されるのはこれが初。

Photo: ND CHOW Styling: Rira Shimoda Hair&Make-up: CHIE (HMC Inc.) Interview: Yoko Kikuchi

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