大泉洋「演じるのが辛かった」それでも挑戦しようと思った理由

大泉洋「演じるのが辛かった」それでも挑戦しようと思った理由

#大泉洋
#映画インタビュー
INTERVIEW
2022.12.23

コメディにもシリアスな作品にも溶け込み、圧倒的な演技力で観る者の感情を揺さぶってきた大泉洋さん。12月2日に公開となる最新主演映画『月の満ち欠け』では、不慮の事故で妻と娘を失ってしまった男・小山内堅を熱演。深い悲しみに直面し、精神的に追い込まれることが明らかな役柄ながら「演じたい」と思った理由とは? 作品への愛情や、仕事を受けるときに大切にしていることを語ってもらいました。

小山内を演じることがとにかく辛かった

――『月の満ち欠け』は究極の愛を描いた物語で、切なくて胸が苦しくなるようなシーンも多いです。大泉さんはどんな映画だと捉えていますか?

僕が演じた小山内は事故で妻と娘を失ってしまうので、どうしても悲しくなるような描写が多いのですが、でも、気持ちが温かくなる場面もあって。全部観た後に、一歩踏み出そうと思えるような映画になっていると感じました。複雑な要素を見事にまとめてくれた廣木監督の手腕に脱帽しましたね。

――それだけ小山内に深く感情移入してしまった、と。

僕にも妻と娘がいて、あまりにも小山内と自分が似ていたので、最初に台本を読んだ時点で重い気持ちになってしまいまして。小山内と同じ状況になったら、誰だって現実を受け入れられないし、精神的につらくなってしまうと思います。実際に、撮影用のセットではあるものの、遺体安置場で変わり果てた妻と娘に対面するシーンでは、言葉では言い表せない感情になりました。「これはダメだ!」って思って、一旦、その場から立ち去った記憶があります。

――劇中でも、後半の小山内は頬がこけて憔悴しているように見えました。実際に体重を落として撮影に挑まれたそうですね。

ありがたいことに、今回はほぼほぼ物語の時系列に沿って撮影を段取ってくれたんです。最初に若い頃に家族と過ごした幸せな日々を撮影して、後半は一人で孤独と向き合っていく。僕としては気持ちが作りやすかったですし、50代の小山内を演じる段階ではすっかり精神的にすり減っていて。撮影現場でスタッフさんから「老けましたね」と言われたことがあって、最初「え?失礼な!」と思いましたけど、あ、そうだ役で老けたんだと後で気づきました(笑)。

――それほど精神的に追い込まれる役柄に挑戦したいと思った理由とは?

自分で言うのも何ですが、僕はこんなに愉快で面白い人間だけれど、俳優としては“重い”役柄をいただくことが多かったんです。そういう役柄って、やっぱり勇気がいるんですよ。辛くなってしまうので。でも僕にとって、この作品は重いだけではなかったんです。小山内は劇中で、「自分の娘が他の誰かの生まれ変わりだったのかもしれない」という話を聞かされます。そして、数々の不思議な出来事に巻き込まれていくのですが、最初に言ったように、映像を観て最終的に僕はポジティブな気持ちになれたんです。希望を見出せる物語だったからこそ、小山内を演じる覚悟を持てたのかもしれません。重いだけだったら、引き受けられなかったですね。

柴咲さんの懐の深さに助けてもらった

――20代から50代に至るまでの小山内を演じていますが、お芝居の方向性について廣木監督からはどんなリクエストがありましたか?

監督は細かく具体的な指示を与えるのではなく、まずは役者の演じたいように演じさせてくれるタイプだった気がします。その代わり、セットの作り込み方や撮影を進める段取りが抜かりなくて、演者が演技に集中できるような環境を提供してくれるんです。だから本当に居心地が良くて、大きく悩むこともなく、集中することができました。今回は幅広い年代の小山内を演じましたが、年齢のことはほとんど意識していませんでした。28歳のシーンでも、「若く見せなきゃいけない」とは考えていなくて、その時の状況や、目の前にいる妻や娘との関係性を意識して、そこがしっかり伝わるような芝居ができたらいいな、と。28歳っぽく見えるような芝居を意識すると、逆に不自然に見えてしまうと思いますし(笑)。

――小山内という人間に入り込めたのは、共演経験のある柴咲コウさんがパートナーを演じていたことも大きいですか?

そうですね。柴咲さんも本当に素晴らしい女優さんです。映画『青天の霹靂』で共演させてもらったときは親子関係で、柴咲さんは母親役でしたが、今回は夫婦役で再会できたので、不思議な縁を感じました。柴咲さんは撮影現場で口数が多いタイプではないけれど、本番が始まると穏やかな微笑みでその場を包み込んでくれて、多少のアドリブが加わっても動じないんです。その懐の深さにとても助けてもらいました。

みんなが楽しく穏やかに過ごせる現場作りを

――大泉さんは“面白くて楽しい人”という印象が強いですが、撮影現場では積極的に共演者の方々とコミュニケーションされるのでしょうか?

昔は、自分がムードメーカーにならなきゃいけないと思っていた時もありましたが、今はたとえ主演の現場でも、自分が引っ張っていこうとかはあまり考えていなくて。ただ、最近は現場で僕が一番年上ということもあるので、みんなが遠慮したり気遣ったりしないように、楽しく穏やかに過ごしてもらえるような空気を作っていきたいとは思っています。

――日々たくさんのオファーが舞い込むなかで、大泉さんにとってお仕事を受ける優先順位の上位にあるものは何ですか?

エンターテインメントに関わる人間としては、シンプルに“面白い”作品に出たいと思っています。とはいえ僕は自分で企画を出しているわけではなく、声をかけていただいた仕事をやることが多いので、ひたすら面白い作品に出会えることを祈ることしかできないんです。そして、僕は人との繫がりや人間関係を大切にしたいという気持ちが強いので、一度深く繋がった方から「もう一度、一緒にやりませんか?」と声をかけてもらえることが本当に嬉しい。廣木監督とまたお仕事がしたいです。今回のように、素晴らしい作品になるはずですから。

大泉洋

1973年4月3日生まれ、北海道出身。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。北海道テレビ制作のバラエティ番組『水曜どうでしょう』出演後、数多くの作品で活躍。近年の主な出演作に、『恋は雨上がりのように』、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』、『そらのレストラン』、『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』、『新解釈・三國志』、『浅草キッド』など。

映画『月の満ち欠け』

12月2日全国公開

2017年に第157回直木賞を受賞した、佐藤正午による同名ベストセラー小説を映画化。小山内堅は、愛する妻と家庭を築き、幸せな日常を送っていたが、不慮の事故で妻の梢と娘の瑠璃を同時に失ったことから日常は一変する。悲しみに沈む小山内のもとに、三角哲彦と名乗る男が訪ねてくる。事故当日、娘の瑠璃が面識のないはずの三角に会いに来ようとしていたという。そして、三角は娘と同じ名前を持ち、自分がかつて愛した「瑠璃」という女性について語り出す。それは数十年の時を超えて明らかになるあまりにも切なすぎる恋の物語だった。監督は『余命1ヶ月の花嫁』などの廣木隆一。有村架純、目黒蓮(Snow Man)、柴咲コウらが出演。

【衣装】スーツ ¥143000、シャツ ¥45100、靴 ¥37400、ネクタイ 参考商品/BOSS(ヒューゴ ボス ジャパン株式会社)

【問い合わせ先】ヒューゴ ボス ジャパン株式会社 03-5774-7670

撮影/菅野恒平 スタイリスト/九(Yolken) ヘアメイク/西岡達也(Leinwand) 取材・文/浅原聡 構成/岩崎幸

※本記事は、これまで「with online」にて公開していた記事の再掲載です。年齢、肩書きは公開時のままです。また、作品情報に関しては、上映・放映・上演が終わっている可能性があります。

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