【鈴木亮平】映画『エゴイスト』「演じる相手の色々な面を知って愛していけるタイプ」

【鈴木亮平】映画『エゴイスト』「演じる相手の色々な面を知って愛していけるタイプ」

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INTERVIEW
2023.1.31

エッセイスト・高山真の自伝的小説『エゴイスト』の実写映画にて主演の“浩輔”務める鈴木亮平さん。若くして母を亡くし、田舎町で同性愛者としての自分を押し殺していたが、上京して自由気ままながらもどこか虚勢を張って生きるゲイの浩輔が出会ったのは、宮沢氷魚さん演じる、母を支えて働く健気な龍太。龍太とその母との交流を描き、性別や血の繋がりなどさまざまなボーダーや、愛とは自分を救うためのエゴなのかを問う本作。インタビュー前編では、“自分の想像だけで役を作るのはおこがましい気がした”という役作りから、龍太役の宮沢氷魚さんとのエピソードまで、じっくりと教えてもらった。

――映画『エゴイスト』の原作となっている、故・高山真さんの自伝的小説を読んだ時の感想を教えてください。

 まずお話自体にものすごく興味を惹かれました。その先で、この高山さんという作者はどんな人なんだろうと考えたんです。そこで調べていくうちに、彼の本に描かれている、“愛”と“エゴ”というテーマは、僕が日頃ずっと思っていたことだということに気付いただけでなく、僕の大学の先輩であることもわかり、共通点が多いことに気付いたんです。

――共通点が多いからこそ、“こう演じたいな”と思うことはありましたか?

 クランクイン前に高山さんにお話を伺いたかったのですが、制作が決定する直前にお亡くなりになられてしまいました。だからと言って勝手に自分の想像だけで“浩輔”を作り上げるのは非常におこがましい気がして。そこで、当時の高山さんを知る人たちにたくさんお話を聞きに行き、作り上げていきました。さらに、僕が演じる浩輔のゲイという属性に関して、どれくらいカミングアウトしにくいものなのか、いまの社会的状況などを含め、LGBTQ+全体の基礎的なところから自分なりに勉強を始めていきました。

――勉強をすることで大事にしたのはどんなことでしょうか。

 調べれば調べるほど、決まったものはもちろんなくて。性のあり方も本当にグラデーションで、すべてを位置付ける、型にはめることはできないことがわかりました。だからと言って、自分の想像だけで何かを表現したときに、それが当事者にとってどう映るのか、リアルなのか、そして、それが社会に与える影響がネガティブなもの‥‥‥例えば差別や偏見を助長したり、ステレオタイプを助長したりということにならないかということのバランスは可能なかぎり保たなければいけないとも思いました。そこに関しては、監修のLGBTQ+インクルーシブディレクターの方と逐一確認しながら演じていきました。

――すごく大事なところですよね。

そう思います。そう言えば、高山さんのエッセイを読む中で、かなりの“毒”を感じたんですよ(笑)。

――たしかに、エッセイからは個性的な方だと言うことが伝わってきます。

 そうなんです。ですので、なんというか、ただの“いい人”にしたくないとは思っていたんです。原作小説で主人公の浩輔はすでにまろやかに描かれていますし、映画では、浩輔が好きな人たちといる時間だけ描いているからこそ、愛のある人間に見えると思うんですが、一方で嫌いな人との関係はハッキリさせる人にしたかったといいますか。そういった頭が良くて、冷酷さも持ち合わせた人間が好きな人だけに見せる不器用な愛情を表現できたらいいなと。どの役もそうですが、その人をイメージの一面だけでとらえてしまうと、観てくださるお客さんには人間性が伝わらない気がして。なので、僕はその反対側を分厚く作っておくことが多いです。そうすることで、役の人物が見せている表の面がより複雑になり、より鮮やかに引き立てばいいなと思っているんですが。今回も、冒頭に編集者としてスタイリストさんに絡んでいるシーンがあるんですが、あの雰囲気が、実は普段の浩輔なんじゃないかなって思いながら演じていました。

――あの冒頭で毒を吐くシーンも、後でしっかりと回収されていくところが、“人生”って感じがしますよね。

本当にそうなんですよ(笑)。人間って、いざ当事者になるとそういうものですよね。周りから見たら恥ずかしいことを言っちゃっていたりして。そこも愛おしいですよね。

――映画を観る中で、より自然体な鈴木さんを感じることが出来たのですが、実感はありますか?

 実は、台本を読んだ時に、余白があり過ぎて、“どうやって映像化するんだろう”と思ったんです。でも、それもそのはず、松永監督はリハーサルをやる中で、その余白に役者のアドリブのような形で演じていたことを追加したり、“台本の隙間で勝手に喋っていいですよ”と言ったりと、独特な作り方をされる方だったんです。僕はその作り方が好きで、いつかやってみたいなと思っていたんですが、そうするためにはみんなが同じ方向を向いて、自分の役を完璧に理解することが大事なので難しいんですよね。でも、松永監督はもともと俳優をされていたこともあり、僕たちの気持ちを非常に重視してくれたので、実現することが出来たんです。そのおかげで、僕自身、あまり見たことのない、新たな自分を自然と引き出してもらえた気がします。

――新鮮に演じることができたんですね。

 はい。自分がつねに現場では“浩輔”としていることが求められるので、他人が書いたセリフを俳優が上手く喋るということではなく、俳優自身のなかから、役として出てくるセリフ、所作、行動がにじみ出ていたと思います。

――恋人役である、宮沢氷魚さんと手が触れるシーンのアップも多かったように思います。そこに関して意識したことはありましたか?

手って、雄弁だなって思います。だからこそ演じる時にはあまり意識をし過ぎないようにしていますが、気持ちってどうしても手に出てしまいますよね。愛しい人への触れ方は、そうではない人への触れ方とは違うのが自然で。それは多分手だけを見ても分かるくらい。なんとなくですけど、人間って二足歩行で手を使うようになったから、手で触れ合うことで愛情を表現するようになったのかも、なんて思ったりもします。

――宮沢さんとのシーンは、美しさの中に脆さも感じました。撮影中はどのようにコミュニケーションを取っていたのでしょうか。

あまり演技や役について話すことはなかったですね。ただ、そのままの氷魚くんが、ものすごく龍太っぽい人だったので、「アメリカに長く住んでたの?」「どういうところだった?」など、本当にナチュラルな会話を良くしていました。そういった何気ない言葉の積み重ねで、お互いを好きになっていくような感覚でした。僕はどちらかというと、役としてだけ相手を愛するタイプではなくて、演じる相手の色々な面を知り、他人と思えなくなることで愛していけるタイプなのだと思います。今回も変わらず、本当に普段通りの会話をしながら心を近づけていきました。お互いリラックスをして、安心して、演技を出来るような関係を作ることが自然とできたので、相性がよかったのかなと感謝しています。

© 2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

『エゴイスト』

2023年2月10日(金)全国公開

<出演>

鈴木亮平 宮沢氷魚 阿川佐和子

原作:高山真「エゴイスト」(小学館刊)

監督・脚本:松永大司

脚本:狗飼恭子 

音楽:世武裕子

R15+

<衣装クレジット>

ブルゾン ¥594000、ニット ¥137500、パンツ ¥181500、シューズ ¥146300/
全てジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社)

[問い合わせ先]

ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社
03-6274-7070

Photo : Ken Okada Styling : Takashi Usui(THYMON Inc.) Hair&Make-up : Yasushi Miyata(THYMON Inc.) Interview : Kana Yoshida

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