岡山天音「自分を認めないと、他者も認められない」過去一の覚悟で挑んだ“笑いに取り憑かれた男”【vol.1】

岡山天音「自分を認めないと、他者も認められない」過去一の覚悟で挑んだ“笑いに取り憑かれた男”【vol.1】

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#笑いのカイブツ
INTERVIEW
2023.12.29

陰鬱とした人間も晴れやかな好青年も、弱々しい被害者も狂気を纏った犯人も見事なまでに演じ分けることができ、ドラマや映画に引っぱりだこの俳優・岡山天音さん。主演映画『笑いのカイブツ』は、笑いに人生を捧げた“伝説のハガキ職人”の半生を描いた作品。ネタ作りに没頭する男の狂気や苦悩を圧倒的な演技力で体現した。

10代半ばで俳優デビューした岡山さんも、これまで何度も理想と現実のギャップに悩み、もがきながら実績を積み上げてきた存在。「主人公の心情と共鳴した部分が多かった」という撮影時のエピソードを中心に、仕事との向き合い方やお気に入りのリフレッシュ術を語ってもらった。2記事にわたる本取材の1本目を公開。

自分の中で戦争が起こりながら、人間としての営みを継続させている人はなかなかいない

——『笑いのカイブツ』は「伝説のハガキ職人」として有名なツチヤタカユキさんの同名私小説を映画化した作品です。笑いにとり憑かれた男の激烈な半生を描いた人間ドラマですが、主演のオファーが届いた際の感想を教えてください。


岡山 もともと僕はラジオが好きだったので、ツチヤさんの存在は知っていたんです。でも“おもしろい人”というポップなイメージしか持っていなかったので、原作小説を読ませていただいたら内面にカオスが渦巻いていて……なんだか武者震いしましたね。全力で挑みたくなる素晴らしい役を任せていただいた喜びと、これから大変な時間を過ごすことになる緊張感を味わいました。

——これまで岡山さんは数々の作品で多様な役柄を体現されてきましたが、それでもツチヤタカユキというキャラクターは特殊でしたか?

岡山 そうですね。ここまで自分の中で戦争が起こりながら、人間としての営みを継続させている人って、フィクションのキャラクターでもなかなかいないので。キャリアの中でも強い覚悟が必要な役柄でした。ただ、劇中でツチヤが直面するカオスに関しては、丸ごと理解することができましたね。行動が極端ではあるものの、ツチヤが抱えているカオスって普遍的なものだと思うんですよ。だから僕も原作小説を読んで共鳴できましたし、今回の映画を観ていただけば、誰しも思うところはあるんじゃないかなと。

僕は本質的には感情の起伏が激しいタイプ

——もともと知っていた人物を演じることにプレッシャーはありましたか?

岡山 全部を原作通りに再現するわけでないので、最初はあまり気負っていなかったんですよ。主人公と原作者の名前が一緒ですし、ご本人の密着映像も見せてもらったし、実在する方だからこそ『大事に演じなければならない』というプレッシャーは芽生えました。

——先ほど「自分の中で戦争が起きている」と独特の表現をされましたが、岡山さんご自身にもそんな時期はありましたか?

岡山 ありますね。僕は16歳の頃に事務所に入ったのですが、その時期って自分の中で戦いがちじゃないですか。まだまだ自分の意思でコントロールできないことばかりの状況で、プロの先輩俳優の皆さんやスタッフさんに囲まれていたので、数えきれないほど理想と現実のギャップに打ちのめされていたと思います。僕は穏やかな人間に見られることが多いのですが、母親も認めるくらい本質的には感情の起伏が激しいタイプなんです。だから今でも自分の中で戦争が続いている感覚はありますが、折り合いの付け方がわかってきた部分もあります。

自分を認められないからこそ、他者を認めることもできないのかも

——劇中でツチヤは周囲に狂気を感じさせるほどお笑いのネタ作りに没頭しています。彼は何と戦っていたんだと思いますか?


岡山 一言でまとめるのは難しいのですが、やっぱり自分のことを許せないんじゃないですかね。誰よりもお笑いに時間を割いて、ネタ作りの物量にもこだわって、自分を認められないからこそ努力の量で不安を埋めようとしているような気がしました。自分を認められないからこそ、他者を認めることもできなくて、人間関係でも摩擦が起きてしまうのかなと。そして、当たり前ですがツチヤはお笑いがものすごく好きなんだと思います。あらゆるエンタメがあるなかで、お笑いに強烈なシンパシーを感じてしまったからこそ、まるで命を燃やすようにネタ作りに励んでいるんですよね。

——岡山さんもお笑いのパワーに救われた経験はありますか?

岡山 すごく印象に残っている記憶があります。仕事を始めたばかりの頃は、ドラマや映画のオーディションに落ちまくる日々が続いたんです。コテンパンになって家に帰ってきて、電気をつける気力もないんだけど、なんとなくテレビをつけたらお笑い番組が流れていて。それをぼんやりと眺めていたら、心がメタメタな状態だったはずなのに、なんだか笑っちゃったんですよね。瞬発的に人の気持ちを明るくできるお笑いのすごさを実感しました。

撮影中は、正直ただただ苦しかった

——今回の映画は精神的な負担が大きかったと思いますが、お笑いがテーマの作品ということもあり、撮影中にリラックスできる瞬間も多かったですか?

岡山 ツチヤは自分を追い込むようにネタを作っているので、撮影中はただただ苦しかったですね。そのモードでお笑いに接しても気分転換にはならないので、その日の撮影が終わったらランニングしてリフレッシュすることが多かったです。ポップなJ-POPを聴きながら走ったり、ジムで筋トレをしたりすると、身体に溜まった邪気を流せる気がするので(笑)。

——ツチヤは人間関係を築くのが苦手で壁にぶつかり続けますが、岡山さんも演じながらお芝居で壁にぶつかった瞬間はありますか?

岡山 普段は脇役を演じることが多いなかで、今回は座長というポジションだったこともあり、山場のシーンの前日や当日はめちゃくちゃ緊張しました。ツチヤが壁にぶつかるシーンでは、僕も壁にぶつかっていましたし……。ツチヤの目を通して、他者と対面していると、ツチヤにとっては他者こそが怪物に見えてくるんですよね。怪物たちの中に居ながら自分の大切なものを守ろうとする日々だったので、ツチヤと一緒に心をすり減らしながら何とか生き延びました。ただ今回の現場は、 監督をはじめスタッフさんやキャストの皆さんのサポート体制がすごく強力だったんですよ。そういう意味では、思い切り自分の演技に集中して、壁にぶつかることなく突き進むことができた現場でしたね。

インタビュー後編に続く

岡山天音の意外な自己管理術「パフェには幸せが詰まっている」【vol.2】

岡山天音

おかやまあまね 1994年6月17日生まれ。東京都出身。2009年、主演ドラマ『中学生日記 シリーズ・転校生(1)~少年は天の音を聴く~』で俳優デビュー。2017年公開の『ポエトリーエンジェル』では第32回高崎映画祭の最優秀新進男優賞を獲得した。近年は映画『キングダム 遥かなる大地へ/運命の炎』、『あの娘は知らない』、ドラマ『日曜の夜ぐらいは…』、『こっち向いてよ向井くん』などに出演。今後は映画『ある閉ざされた雪の山荘で』が2024年1月12日公開予定。

映画『笑いのカイブツ』

不器用で人間関係も不得意なツチヤタカユキは、テレビの大喜利番組にネタを投稿することを生きがいにしていた。6年が経った頃、ついに実力を認められてお笑い劇場の作家見習いになるが、笑いを追求するあまり非常識な行動をとるツチヤは周囲に理解されず淘汰されてしまう。失望する彼を救ったのは、ある芸人のラジオ番組だった。「ハガキ職人」として注目を集めるようになったツチヤは、憧れの芸人から声を掛けられ上京することになるが……。岡山天音が主演を務め、仲野太賀、菅田将暉、松本穂香が共演。2024年1月5日公開。

Photo: Yoko Kusano Styling: Haruki Okamura Hair & Make-up: AMANO Interview: Satoshi Asahara

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