ハッセルブラッドのミラーレスカメラ「X2D 100C」は、1億画素センサー搭載で精緻な画像を撮影できるが高額だ:製品レビュー

ハッセルブラッドの中判カメラ「X2D 100C」は、1億画素を誇るセンサーにより、驚くほど鮮明な画像を撮影できる。オートフォーカスの機能は競合製品に軍配が上がり、動画撮影もできないが、用途と予算に合うなら現在入手できる最高のカメラのひとつだ。
ハッセルブラッド「X2D 100C」レビュー:1億画素のセンサーで精緻な画像を撮影できる
PHOTOGRAPH: HASSELBLAD

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ハッセルブラッドの名前は、中判カメラの代名詞となっている。同社の象徴的なフィルムカメラである「500」シリーズから、2016年に発売された初のデジタルで(比較的)コンパクトな中判ミラーレスカメラである「X1D 50C」まで、どれもがこれに該当する。「X1D」シリーズの最初のカメラの画質は突出していたものの、残念ながらほかの部分では不満が残った。オートフォーカスや処理などを大幅に高速化した後続モデルでさえ、十分に満足できる性能ではなかった。

今回、ハッセルブラッドは「X2D 100C」に加え、レンズシリーズ「XCD」の新製品として製品名に「V」が付く数種類のレンズを発表した。うれしいことに、これはハッセルブラッドのファンが待ち望んでいたカメラだと言える。X2D 100Cは大容量だが、非常に美しいRAW画像を撮影でき、十分に高速で、本体もデジタル一眼レフカメラで撮影しているかのように感じるほど小型なままなのだ。

しかし、これがハッセルブラッドの製品であることに変わりはない。 価格は8,200ドル(日本では121万円)で、さらに追加のレンズが4,000ドル程度(日本では58万3,000円から)とアマチュアにとって手ごろなカメラではないのだ。しかし、一部の写真家にとっては卓越した実力を発揮してくれるカメラだ。

オートフォーカスが高速に

X2D 100Cの最大の特徴は、新しいイメージセンサーだ。このセンサーの物理的な大きさは「X1D II 50C 」と同じだが、画素数は2倍になっている。11,656×8,742ピクセルを誇るセンサーの画素数は1億をわずかに超え、アスペクト比は4:3だ。また、ハッセルブラッドは16ビットの色深度と、15ストップのダイナミックレンジで高画質の撮影ができると謳っている。この数字に見覚えがあるかもしれない。富士フイルムの中判ミラーレスカメラ「GFX100」もよく似たセンサーを使用しているからだ。

PHOTOGRAPH: HASSELBLAD

この巨大なセンサーサイズは細部における精緻なコントラストが非常に美しく、驚くほど鮮明な画像を生み出す。これはハッセルブラッドが「X1D」シリーズで使用していた以前のセンサーよりもあらゆる面で優れており、いま市場に流通しているカメラのなかでも最高のものだ。唯一の欠点は、画像ファイルも巨大になってしまう点である。

X2D 100Cを購入するなら、予備のSSDによるストレージ容量をいくらか用意しておこう。なぜなら、このカメラのRAWファイルは1枚の画像あたり200メガバイトを超えるからだ。画質を「良い」に設定して書き出したJPEG画像でさえ、場合によっては60〜80メガバイトになる。

より重要だと個人的に感じているX2D 100Cの改善点は、新しいプロセッサーだ。巨大な画像ファイルはいいが、X1D IIでそうだったように、撮影に時間がかかるようではあまり優秀とは言えない。今回試したところ、X2D 100Cに驚異的な処理速度があるとは言えないが、ラグを感じさせないほど十分に高速であることがわかった。プロセッサーの改良は、オートフォーカス機能の改善と対になっている。オートフォーカス機能はセンサーのほぼ全域に対応する294点の位相差の検出をすることで、顕著な高速化を実現したのだ。

ただし、X2D 100Cのオートフォーカスシステムは大きく改善されているものの、ソニーのミラーレス一眼カメラ「α9」やキヤノンの「EOS R5」のようなフルサイズカメラのフラッグシップ機の性能には及ばない。X2D 100Cのオートフォーカス機能は、富士フイルムのものに似ている。スペックの数値自体はあまり印象的ではないが、実際に使用すると(少なくとも自分がするような撮影では)富士フイルムとハッセルブラッドのオートフォーカスシステムはどちらも9割方は十分な性能を発揮してくれた。

X2D 100Cはスポーツ系のイベントで使うようなカメラではなく、逆光での撮影には多少の問題もある(これはどのカメラのオートフォーカス機能もうまく対応できない部分だ)。とはいえ、オートフォーカスが機能しないことはまれにあったものの、ほとんどの状況では十分に正確だった。

もうひとつ注意すべきことは、新しいオートフォーカス機能の速度を十分に生かすには、ハッセルブラッドの新しいレンズを使用する必要があるという点だ。同社の従来のレンズもX2D 100Cと合わせて使用できるが、合焦速度は新しいレンズには及ばない。

X2D 100Cには手ぶれ補正が搭載され、ハッセルブラッドによると最大7段階の手ぶれ補正が可能だという。シャッタースピードが1秒までなら、手持ちでの撮影ができると同社は説明している。実際に試してみてこれは事実であることがわかった。幸運にも自分の手は安定しているので、シャッタースピードを1.5秒に設定してもぶれることなく撮影ができた。逆に言うと、このレベルの精緻さで撮影できるセンサーでは、手ぶれが非常に目立ってしまうということだ。

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ファインダーも大幅に改善されている。X2D 100Cは576万ドットの解像度と、60fpsのリフレッシュレートをもつ有機ELディスプレイを搭載している。率直に言って、これまで使ってきたどのデジタルビューファインダーよりも優秀だ。背面のタッチ画面の性能もよく、スマートフォン並の品質と言ってもいいだろう。ハッセルブラッドの直感的に使えるメニューシステムとの相性もいい(迷宮のような設定メニューを見て回らなくても、必要な設定を素早く見つけて変更することができた)。

ハッセルブラッドは、以前のモデルにあった上部のダイヤルを本体右上の小さな液晶ディスプレイに置き換えている。このディスプレイから絞りやシャッタースピード、ISO感度、ホワイトバランス、露出モードなど、撮影時に使っている設定の概要をひと目で確認できるようになった。残りの撮影可能枚数や充電の状態も表示される。

動画の撮影機能はあるかって? そんなものはない。ひとつもないのだ。「13,000ドル(約169万円)もするカメラシステムで動画の撮影ができないのか」と、驚いた様子で同僚は語っている。その通りだ。しかし、どちらかというと個人的にはこの点を気に入っている。動画も撮影できる中判カメラがを探しているなら、先に触れた富士フイルムの「GFX100」をおすすめしたい。

ストレージと充電速度

センサーや美しいファインダー、より高速なプロセッサー、手ぶれ補正はどれも歓迎すべき改善点だ。しかし、このカメラで気に入っているふたつの特徴は、最初は見逃してしまうかもしれないものだ。以下に紹介しよう。

ひとつめは、1TBのSSDのストレージがこのカメラに内蔵されている点だ。おかげでカメラをノートPCに接続してファイルを移す作業がとても簡単で、メモリーカードを使うよりも格段に速い。なぜすべてのカメラメーカーがドライブを内蔵しないのか不思議に思うほどだ。CFexpress Type Bに対応するカードスロットもあり、これは主要なストレージとしてもバックアップとしても使用できる。とはいえ、SSDのストレージを搭載している点は非常に便利だ。

ふたつめは、充電の速さである。これまで充電するためにバッテリーを本体から取り外したことはない。その代わりにUSB3.2 Gen2のポートを経由してカメラをノートPCに接続し、撮影した写真を転送してからカメラの電源を切る。そして、画像の編集をしている少しの間そのままにしておく。カメラの電源が切れている間は、液晶パネルにバッテリーの充電量が表示される。

充電のためにカメラの電源を切る必要がある点は唯一の短所だが、1日の終わりにカメラの充電を完了すれば予備のバッテリーを用意する心配がない点はとてもいい。X2D 100Cを1回の充電で420枚の撮影ができるとハッセルブラッドは説明している。充電をすべて使い切ったことは一度もないが、写真を112枚ほど撮影したときのバッテリー残量は70%だった。これはスペックの説明にかなり近い水準である。

PHOTOGRAPH: HASSELBLAD

新しいレンズ

ハッセルブラッドはX2D 100Cとともに、レンズの「XCD」シリーズに「V」と付く新しい製品をいくつ発売している。現時点のラインナップは38mm、55mm、90mmのレンズだ。今回は38mmと55mmのレンズを試した。すでに「X1D」シリーズ用のレンズを持っているならX2D 100Cとの互換性がある点は覚えておこう。(「H6D」シリーズ用のレンズをもっている場合は、X2D 100Cで使用できるようにするアダプターがある)。とはいえ、新しいレンズの性能は驚くほど高い。

お気に入りの機能は優れたマニュアル制御だ。クラッチリングを前に倒して、存分に手動で焦点を合わせられる。フォーカスリングはよく動くので、正直に言うとあまり性能がよくなかった古い「XCD」シリーズのレンズよりも格段によくなっている。以前のレンズはフォーカスリングを動かして電気信号を発し、モーターでレンズの焦点を合わせる方法を採用していた。

ひとつ覚えておきたい点は、ほかのハッセルブラッドのレンズと同じように新しいレンズはリーフシャッターであることだ。つまりレンズにシャッターが内蔵されている。このためレンズは高価になってしまうが、非常に速い同期速度を実現しているのだ。ハッセルブラッドのカメラは、早い同期速度で環境光を制御できる機能のおかげで、被写体とその周辺環境を切り取った「エンバイロメンタル・ポートレート」と呼ばれる分野でほかの追随を許さない製品となっている。

これだけ改良され新しいレンズも優れているのだから、ついにハッセルブラッドの製品を買うべきだろうか。この質問に答えるには予算を考慮しなくてはならない。お金に余裕があり、真剣に写真撮影に取り組んでいるなら検討する価値は十分にある。とはいえ、撮影速度とオートフォーカスの速度はどちらも遅い部類に入るので、多くの人はハッセルブラッドの画質よりキヤノンやニコンのフルフレームカメラの速度をとったほうがいいかもしれない。そのような写真家にはX2D 100Cは向かないかもしれないということだ。

一方で、一部の写真家にとってX2D 100Cは現在入手できる最高のカメラである。RAW形式による細部の豊かな描写やハッセルブラッドの美しくも少しクールな色彩表現、そしてリーフシャッターのレンズによってこのカメラはほかのカメラでは撮影できないような素晴らしい写真を収められるのだ。

◎「WIRED」な点
1億画素の新しいセンサーで驚くほど精緻な画像を撮影できる。新しいレンズを使ったときの合焦速度が向上している。プロセッサーがより強力になった。有機EL画面のビューファインダーは優秀。ストレージを本体に搭載。充電が速い。

△「TIRED」な点
オートフォーカス機能はかなり改善されたが、状況によっては焦点を合わせられないときや、焦点が合っていないときがある。高額。

WIRED US/Translation by Nozomi Okuma)

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