地球が気候危機に陥っていることを示す10の事実

地球温暖化は、いまや無視できないほど明白なものとなったが、その主な原因は人間の活動だ。わたしたちは一刻も早く温室効果ガスの排出を削減しなければならない。そうでなければ、さらに過酷な異常気象に苦しみ、住みにくくなった地球を目の当たりにすることになるだろう。
地球が気候危機に陥っていることを示す10の事実
Illustration: Stocktrek Images; WIRED

人類が地球に及ぼしている壊滅的な影響について語るとき、国連機関の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は遠回しな言葉を使わない。IPCCの最新の報告書政策決定者向け要約の和訳はこちら)には、「大気、海洋、陸地の温暖化に、人間の活動が影響していることは明白だ」との記述がある。

猛暑や山火事から豪雨、洪水まで、2023年は人類が今後数十年から数百年にわたって経験するであろうさまざまな衝撃を、前もって知らされる年となりつつある。ひと言で言えば、うれしい知らせではない。温室効果ガスの大幅な削減策をただちに開始しなければ、地球表面温度の上昇幅が2015年のパリ気候協定で定められた1.5℃という目標値を超えることはほぼ間違いないだろう。

いまから温室効果ガスの排出を減らしても、今世紀中はほぼ確実に海面上昇が続くだろう。それどころか、今後数百年、数千年にわたり上昇し続けるかもしれない。1950年以降、異常気象が頻発化している。地球の気温が上がり続ければ、異常気象はますます頻度と過酷さを増していくはずだ。

そこに示されたメッセージはこのうえなく明解だ。すなわち、できる限りの手を打ち、一刻も早く温室効果ガスの排出を削減しなければならない。思い切った行動に出て排出を止めなければ、人類はすでに温暖化の進んだ現在よりさらに暑く、さらに過酷な異常気象に苦しみ、住みにくくなった地球を目の当たりにすることになる。気候危機の現状について、知っておくべき10の事実を紹介しよう。

1. 人類の歴史のどこを見ても、いまほど大量の二酸化炭素(CO2)が大気中に存在していた時期はない

ハワイのマウナロア観測所は、大気中のCO2濃度を1950年代の後半から計測し続けている。2022年に記録された世界の平均的なCO2濃度は417.06ppmだった。産業革命前の数値が278ppmだったので、1750年から1800年までの期間に比べて人類は大気中のCO2濃度を2倍近くまで上昇させてきたことになる。

CO2濃度は季節ごとに変動するが、その上昇スピードは人間の活動の影響を受けて年々加速している。例えば、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの初期段階には、温室効果ガスの排出が減ったせいで大気中のCO2濃度の上昇は緩やかだったが、世界でさまざまな活動が再開された2021年には急速な上昇へと転じた。そしていま、年間の温室効果ガス排出量と大気中のCO2濃度の上昇傾向は再び鈍化している。

2023年の世界の平均CO2濃度は419.2ppmと予測されている。海洋の水位がいまより数メートル高く、南極に樹木が茂っていた300万年以上も前の時代を最後に、地球の大気にこれほど大量のCO2が含まれていたことはない。

2. 人類はますます速度を上げて上昇幅1.5℃を超える温暖化への道を進んでいる

2015年、パリ条約の加盟国は地球温暖化による気温上昇幅を1.5℃未満に抑えるという意欲的な目標を掲げた。しかし、IPCCの最新報告書に詳述されている通り、温室効果ガスの排出をいますぐ大幅削減できない限り、この制限を超えずにいることはかなり難しそうだ。この報告書には、排出量を「非常に高い」から「非常に低い」まで5段階に分けた5通りの未来のシナリオが示されている。いずれのシナリオにおいても、地球の表面温度の上昇幅が最低でも1.5℃に達する事態は免れないと予想されている。

5つのシナリオのなかで排出量が「非常に低い」場合のシナリオだけが、21世紀末までに“1.5℃未満”を実現できる可能性を示している。このシナリオでは、2041年から2060年の間にいったん1.5℃を突破するものの、その後、今世紀末までに1.4℃に戻るとされている。ただし、このシナリオを実現させるには、世界中で徹底的な排出削減策をいますぐ実行する必要があるだろう。

しかし、この世界が“1.5℃の壁”を初めて超える瞬間は、予想よりずっと早く訪れるかもしれない。世界気象機関(WMO)によると、2023年から2027年までのいずれかの年の平均気温が上昇幅1.5℃を超える確率は66%に上るという。実際、数週間から数カ月といった短い期間であれば、すでに1.5℃の壁は2015年、2016年、2020年、2023年に破られている。4日連続で最高気温の更新が続いた2023年7月は、観測史上最も暑い1カ月となった。

現在の排出量と温暖化対策がこのまま続けば、地球は2100年までに2.7℃の気温上昇を経験することになるかもしれない。

3. カーボンバジェット(炭素予算)は残りわずか

本質的に、気候変動は非常にわかりやすい現象だ。人間が大気中に放出する二酸化炭素やその他の温暖化ガスの量が増えるほど、地球の気温は高くなる。1850年から2021年までの間に、人類は約2,500ギガトンのCO2を大気中に排出した。1ギガトンは10億メートルトンに相当する。こうした排出の積み重ねが、産業革命前に比べて1.1℃の気温上昇という現在の状況につながっているのだ。

気温上昇を1.5℃未満にできる可能性をせめて五分五分にしたいなら、人類が大気中に放出できるCO2の量は残りわずか250ギガトンだ。これには2023年の初めから放出してきた分も含まれる。2022年のCO2排出量は36.8ギガトンだったが、大局的に見ると世界の年間排出量は今後も増え続けるに違いない。つまり、人類は1.5℃の壁を守るための予算を盛大に浪費し続けているのだ。問題は、その一線を越える日が来るかどうかではなく、それがいつなのかということだ。

同じように考えると、目標温度を変えた場合の予算も算出できる。気温上昇を2℃未満に抑えられる確率を五分五分にするには、2020年以降のCO2排出量を1,350ギガトン未満にしなければならなかった。ところが、2023年半ばの時点で、予算は1,000ギガトンほどしか残っていない。

4. 猛暑による異常現象は頻度と過酷さを増している

カナダとハワイに壊滅的な被害をもたらした森林火災、米国南西部を襲った酷暑、そして大勢の観光客が避難を余儀なくされたギリシャの山火事といった最近の出来事を考えれば、気候変動に起因する猛暑が、より頻繁かつ重大な災害を引き起こしていることは一目瞭然だ。

1850年から1900年までは「10年に1度」とされていたレベルの猛暑が、いまでは10年に2.8回の割合で起きている。1.5℃の壁を突破した世界では、同レベルの猛暑が10年に4.1回の頻度で発生すると予想されている。かつて「50年に1度」と呼ばれたほどの猛暑についても同様だ。それらはいまや50年に4.8回となり、‟1.5℃超えの世界“では50年に8.6回に増えると言われている。

気候変動の影響による豪雨も頻発している。150年前には10年に1度だった規模の集中豪雨が、いまや10年に1.3回の頻度で起きている。1.5℃超えの世界では1.5回に増えているはずだ。頻度が増えれば、過酷さも増す。未来の異常気象は、これまでより激しい熱と水の被害をもたらすに違いない。

5. 人類はすでに1.1℃の温暖化を引き起こしている

IPCCの最新報告書によると、地球の現在の表面温度は1850年から1900年までに比べ、1.1℃上昇している計算になるという。1970年から現在までの50年間、地球の表面温度は過去2,000年間のどの期間よりも速く上昇しており、特に過去数年間の上昇スピードは顕著だという。

2023年から2027年までの年間平均気温は、1850年から1900年までの平均より1.1~1.8℃高くなると予想されている。また、この期間のいずれかの年が、史上最高の暑さとなった2016年の記録を超える可能性は98%と推定されている。

こうした現象の要因となるのが、世界を取り巻く気象の状況である。2023年はエルニーニョ現象の発生による太平洋中央部および東部の水温上昇が世界的な気温上昇につながり、異常気象のリスクが増大した。ただし、誤解のないように記すと、IPCCの最新報告書にも明記されている通り、地球温暖化の最大の要因はあくまで人間が排出した温室効果ガスなのだ。

6. 過去20年間に起きた異常気象の3分の2に人間が関与している

洪水や集中豪雨の発生は、1980年以降4倍に、2004年以降でも2倍に増えている。極端な気温上昇や干ばつ、森林火災も過去40年間で2倍以上に増加した。異常気象の原因をひとつに絞ることはできないが、洪水や熱波、干ばつ、暴風雨への人間の関与を示す証拠を探る気候科学者が増えている。

気候科学関連の情報を発信する英国のウェブサイト「Carbon Brief」は、異常気象の原因に関する400件の研究論文からデータを集め、過去20年間に研究対象となった異常気象現象の71%が、人間が引き起こした気候変動に起因する疑いがあることを突き止めた。また、極端な気温上昇現象の93%を含め、これらの異常気象は人間の関与によってさらに深刻化した可能性があることもわかった。

7. 海面上昇はかつてない速さで進んでいる

氷床や氷河が溶け、海水の温度が上がると、海面が上昇する。1900年以降、海面上昇は少なくとも過去3,000年間のどの世紀よりも急速に進んでおり、今後も長期にわたって続くことが予想される。

しかも、その進行はさらに速度を増している。世界の海面は過去140年間で21~24cm上昇しているが、そのうちの約10cmは1992年以降の上昇分である。

海洋の温暖化は長い時間をかけて進むので、将来的に大規模な海面上昇が起きることはすでに予想されている。気温上昇を1.5℃に抑えられれば、今後2,000年間における世界の海面上昇は平均して2~3mだが、この基準を2℃に引き上げると、世界の海面は現在より2~6m高くなる見込みだ。

8. 北極海の氷が急速に姿を消している

北極圏の温暖化は地球のどこよりも早く進んでいる。2011年から2020年にかけ、北極の海氷の総面積は少なくとも1850年以降で最少を記録し、夏の終わりに確認できた氷の量は、過去1,000年間のどの時期よりも少なかった。2022年時点の北極圏の海氷の総面積を1981年から2010年までの平均面積と比較すると、10年ごとに12.6%ずつ減少している計算になる。

IPCCの最新報告書に記された5通りの未来の排出シナリオすべてが、北極の海氷が最も少ない時期にその総面積が100万平方キロメートルを下回る瞬間が、2050年までに少なくとも一度は訪れるだろうと予想している。そのとき、北極海にはほとんど氷が浮かんでいないように見えるはずだ。

9. 世界の飢えと渇きはますます深刻化している

数十年ぶりの勢いで世界に飢餓が広がっている。その大きな原因となっているのが気候変動だ。干ばつから熱波まで、異常気象は作物の収穫高や栄養価に影響を及ぼす。場所によっては作物が育たなくなることもあるだろう。暑さによるストレスを受け続けると、動物は繁殖力が衰え、今後ますます増えるかもしれない害虫や病気に抵抗できなくなってしまう。

多くの国が食料不足にあえぐアフリカ大陸では、気候変動によって農業生産力が34%も低下している。気候変動の影響による飢餓と栄養不良のリスクは、2050年までに世界全体で20%上昇する恐れがある。

農作物、動物、生態系、そして人類も水に依存している。国連はすでに、世界の人口のおよそ半分が1年のいずれかの時期に水不足を経験しているとの試算を発表している。過去20年の間に気候変動の影響で土壌の水分が減ったせいで、水不足はさらに深刻化している。

気候変動による水質の悪化も目立つ。そのために都会への人口移動が加速し、結果的に水源の汚染がさらに進むことになる。気候変動が洪水や干ばつ、水温上昇を招くことによって、水中の沈殿物、病原菌、農薬の量が増える可能性もある。

10. 野生動物の平均個体数はわずか40年余りの間に60%も減少している

ロンドン動物学会(ZSL)と世界自然保護基金(WWF)が隔年で発表している『Living Planet Report』によると、哺乳類、魚類、鳥類、両生類、爬虫類を含む脊椎動物の平均個体数は、1970年から2018年の間に69%減少している。ただし、これは動物の数が全体で69%減ったということではなく、さまざまな動物の個体数の減少を相対的に表した数字だ。

例えば、10頭しかいないサイのうち9頭が死んだとすると、サイの個体数は90%減ったことになる。一方、スズメが1,000羽いて、そのうちの100羽が死んだ場合の減少率は10%だ。それぞれの個体数で計算すると減少率は10%強だが、サイとスズメの2つのグループの減少率を平均すると50%になる。また、これまで存在した動物の種のうち1~2.5%はすでに絶滅している。

数字をどう並べてみても、気候変動が重要な要因であることに違いはない。国連が後援する科学者たちの国際パネルは、気候変動がますます大きな役割を演じることによって、種の絶滅はさらに進むだろうと訴える

気候変動は、土地や海洋の利用法の変化、資源の乱開発に次いで3番目に大きい生物多様性損失の要因と考えられている。気温上昇幅の制限を2℃未満に緩めたシナリオにおいてさえ、動植物の5%が絶滅の危機にさらされると予想されている。サンゴ礁は特に猛暑に弱い。“気温上昇2℃”が現実のものになった場合、サンゴ礁の面積は現状のわずか1%まで減少する可能性がある。

WIRED UK/Translation by Mitsuko Saeki/Edit by Mamiko Nakano)

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