工業製品×プラモデルで“近未来“を生む造形作家・池内啓人が、最大規模の個展で見せてくれる世界

誰もがよく知るガジェットや日用品を、機能はそのままにまったく別の外見へと昇華させる造形作家・池内啓人。『WIRED』イタリア版の表紙やバレンシアガのキャンペーンヴィジュアルを手がけた彼の個展が、東京・渋谷で2022年1月30日(金)まで開催中だ。プラモデルと工業製品の“かけ算”で、いったい彼はどんな世界を見せてくれるのか。
工業製品×プラモデルで“近未来“を生む造形作家・池内啓人が、最大規模の個展で見せてくれる世界
映画『マトリックス』に登場する戦闘兵器「APU」に着想を得た作品。PHOTOGRAPH BY HIROTO IKEUCHI

ヘッドフォンやシュノーケリングマスク、VRゴーグルにロボットスーツ──。造形作家・池内啓人の手にかかれば、身の回りのどんなものも近未来感と懐かしさを併せもつ作品に変わる。幼少期に観ていた「機動戦士ガンダム」や「ゾイド(ZOIDS)」といった日本のアニメや「スター・ウォーズ」のような海外のSF作品に影響を受けたというその造形物は近未来的であり、同時にどこか懐かしい。

その世界観に浸れる個展「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」が、渋谷のミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)内のギャラリー「SAI(サイ)」で開催中だ。『WIRED』イタリア版の表紙のほか、バレンシアガやshu uemura(シュウ ウエムラ)といったブランドへも作品を提供してきた池内のこれまでの作品が並ぶほか、それらの作品の制作プロセスやインスピレーションの源も鑑賞できる展示となっている。

PCが秘密基地に見えた

池内が既製品のプラモデルや工業製品のパーツを組み合わせたスタイルの作品を初めて本格的につくったのは、大学の卒業制作だ。きっかけはPCを解体したことだったと、彼は2016年の『WIRED』イタリア版のインタヴューで語っている。「パソコンの中を開いてみたら秘密基地のようで素敵だなと思い、それがどういった目的をもった秘密基地なのかを考えたんです」

例えば、内部のハードディスクドライヴを守る基地であったり、サーヴァーであればいろいろなところに情報を送るための基地だったり、といったことだ。これを機に、見た目と機能にインスピレーションを得たジオラマをつくり始めたのだという。材料として使ったのは、大学在学時から大好きだったというプラモデルとPCの部品だ。「模型は何でもつくれる夢のアイテムです」と、彼は語る。

現在はPCを使ったジオラマに限らず、さまざまな工業製品とプラモデルを組み合わせた造形物を生み出している池内。しかし、土台となっている製品の見た目と機能を大切にする姿勢は変わらない。その証拠に、彼はヘッドフォンやVRゴーグルといった製品の見た目をガラッと変えながらも、音楽や映像の再生といったプロダクト本来の機能をしっかり維持させている。

作品のスケールもさまざまだ。個展で10種類以上が展示されるヘッドセットやフェイスマスクから、“乗れるロボット”として知られる身体拡張ロボット「スケルトニクス」の開発チームと共同制作した作品まで、その一つひとつに池内の感性が光っている。

池内にとって最大規模の個展である「IKEUCHI HIROTO EXHIBITION」は1月30日(日)まで。プラモデルと工業製品の“かけ算”が生み出す近未来の世界を堪能しよう。

池内啓人|HIROTO IKEUCHI
1990年東京生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。学生時代の多くをプラモデル制作に充てる。卒業制作にあたり、自分の最も身近な存在であったコンピュータの内部が秘密基地に見えるという着想からプラモデルを組み合わせたハイブリッド・ジオラマを制作する。第17回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞の受賞をきっかけに世界最高峰のメディアアートイベント「アルスエレクトロニカ」に招待されるなど国内外から高い評価を受ける。