飛行機で「真ん中の席」を選びたくなる画期的なシート:米企業が開発

出入りしにくい、なんだか窮屈、ひじ掛けは気づけば両隣の乗客に奪われている──。そんなイメージから敬遠されがちな飛行機の中央席。この嫌われものの人気を高めようと、ユニークなアイデアが生みだされた。「真ん中の席」に予約が殺到するかもしれない、その画期的なデザインとは。
飛行機で「真ん中の席」を選びたくなる画期的なシート:米企業が開発

飛行機の座席表を隅々まで見回しながら、心臓がドキドキして息があがり始める。通路側か窓側の席、1つぐらいは空いているはず。「真ん中の席」に座らせるほど、世の中は残酷じゃないだろう、と思いながら。

機内インテリアのデザインを手がけるMolon Labe Designsの企画が商品化されれば、こんな思いをしなくて済むかもしれない。米コロラド州のスタートアップ企業である同社は、飛行機の中央席の悪評を駆逐しようと鼻息が荒い。

「飛行機での移動はうんざりするものですが、そんな最悪な気分はデザインで軽減できるのです」。こう話すのは、Molon LabeのCEOハンク・スコットだ。同社は独ハンブルクで開催されたエアクラフト・インテリアズ・エキスポに、満を持して試作品を出品したのである。

快適さのポイントは「互い違い」の座席

新たな座席のコンセプトは「スタッガー(互い違い)シート」。中央席が両隣の座席よりも少しだけ低く、後ろに下がっている。幅は窓側や通路側の座席よりも約7.5cmほど広い。

しかも、この中央席には専用のひじ掛けも付いている。ひじ掛けの後ろ半分に付けたカーブによって、中央席の人は少なくともひじ掛けの半分を確保できるようになった。「通路側や窓側に座る人は、中央席のひじ掛けを独占することはできません。ひじが後ろにいっておかしな角度になりますからね」と、スコットは言う。

幅広な中央席では、大きな18インチのスクリーンで機内エンターテインメントを楽しめる。両側の座席はひと回り小さい15インチのスクリーンのままだ。ただ、こうした“デザイン革命”をもってしても、残念ながら足元の広さは変わっていない。

これだけでは中央席に予約が殺到する理由にはならないだろう。それでも、みじめなフライトを少しでも快適にするアイデアは歓迎したい。スコットによると、2年以内に大型旅客機への搭載を目指しており、複数の大手航空会社から問い合わせも受けたという(企業名は教えてもらえなかった)。

席がスライドして通路が広くなるシートも登場

革新的なデザインが旅客機に導入されるまでには、たいてい認可に何年もかかる。しかしMolon Labeには、さらなる“秘密兵器”がある。それが短距離フライト用に考案された「サイドスリップシート」というアイデアである。

これは、中央席をスライドさせて隣の座席と重ねられる仕組みだ。座席ひとつぶん通路が広くなるため、より楽に、素早く乗り降りできる。このアイデアを政府が認可する可能性が極めて高い。

「スタッガーシート」は、この「サイドスリップシート」と同じサブフレームを使っている。後者はすでに社内の衝突実験に合格し、非常事態でも乗客の頭部は絶対につぶれないことを証明したという。

米連邦航空局(FAA)の試験でも同じ結果が得られれば、「サイドスリップシート」は2017年中には旅客機に導入できることになる。「スタッガーシート」が商品化される日もそう遠くはないだろう。

あとはこの快適なデザインを取り入れてみたいと名乗りを上げてくれる航空会社を探すのみだ。しかし、燃料価格が下落しているにもかかわらず、大手の航空会社はお金を払う旅客のお尻の数にしか興味がないようである。乗客の幸福度は、広くなる座席の背面に取り付けられるスクリーンほどの重みすらないのかもしれない。


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TEXT BY AARIAN MARSHALL

EDITED BY HIROMI SUZUKI