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POINT OF SOCCER by 長谷川望

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「日経エンタ」品田英雄さんから学ぶ「世界最大のスポーツビジネス」
by 長谷川望

 世界ナンバーワンを決める祭典、W杯まで約半年と迫りました。その規模の大きさは、オリンピックと並んで世界最大級。規模の大きさを知る一つの例として、前回の2010年南アフリカ大会によって得たFIFAの収入が約3000億円というのが挙げられます。FIFAの2006年から4年間の収入のうち、約90%がW杯関連によるものだそうです。開催国の南アフリカでは、1兆円を超える波及効果が算出されました。W杯がいかに世界中で人気のある大会かが読み取れますね。このように、ビッグイベントは経済へも大きく影響する事が分かります。

 そこで今回は、スポーツが及ぼす経済的影響について取り上げたいと思います。取材させていただいたのは、「日経エンタテインメント!」編集委員、日経BPヒット総合研究所上席研究員を兼任されている品田英雄さんです。品田さんは、エンターテインメントビジネスの専門家としてコメンテーターやパーソナリティを務めるなど、メディアでも幅広く活躍されています。また、流行・若者文化にも精通されている品田さんに、若年層による人気の重要性もお聞きしてきました。

「世界最大のスポーツイベントであると同時に、世界最大のスポーツビジネス」と、W杯市場の大きさを強調する品田さん。人間は生きるために衣食住が基本となりますが、現代は物が多すぎる時代。そこで「人間はどういう時に喜びを感じるのか」という考えが、スポーツビジネスに影響してきたそうです。「人間の喜びを大きく突き詰めると『感動』がある。『感動』を追い求めるとスポーツに繋がる。第二次世界大戦以降に西ヨーロッパ、アメリカから始まり、スポーツは世界的にみてビッグビジネスになってきている」。W杯やオリンピックは、世界共通の「感動」を生み出し、世界最大と称されるスポーツビジネスになったのですね。

 次にW杯がもたらす経済への影響をお聞きしました。品田さんは、開催国のメリットについて「64もある試合の入場料の収入があり、放映権料、スタジアムのスポンサーなどからの経済効果。スタジアムや交通機関の建設によって生まれる周辺の経済効果。その他にも、世界中から集まるサポーターたちの飛行機代、宿泊費、飲食代、関連グッズを買うなど、ファンの人たちによって波及する大きな経済効果がある」と、説明して下さいました。南アフリカW杯ではこの波及効果が、1兆円を超える規模になったのですね。W杯の波及効果は開催国だけではなく、世界各国の旅行会社やグッズ販売など様々なところで期待されています。

 しかしメリットもあれば、デメリットもあるのが現状です。「生産と消費という部分で、経済を大きく回すという意味で大きな効果があるが、環境への負荷や地元の人からすると物価が上がると生活が苦しくなる」。品田さんが指摘されるように、来年のW杯開催国のブラジルでは、抗議デモが問題となっていますね。スタジアムなどの建設費よりも、生活向上のためにお金を使って欲しいという国民の声が多いようです。W杯開催まで、あと約半年。拡大する抗議デモは、W杯にどう影響するのか、ブラジル政府の対応に注目していきたいと思います。

 とはいえ世界のスター選手たちが熱戦を繰り広げるW杯は、世代を問わず夢の祭典というのは変わりません。日本の子供たちにとっても、サッカーの興奮や感動を味わえる絶好の機会ですよね。それでは、より若年層の関心を得るためには、どのようなアプローチが効果的なのでしょうか。

「大学生くらいになると、自分で判断をして物やブランドを選ぶことが多いが、小・中・高くらいまでは、持っている世界がかなり閉じられているもの。親、友達、学校など周囲の環境に考え方や生活態度が左右される。子供たちの持っている価値観、限られた時間の奪い合いの競争ではある」。この子供たちの限られた世界から支持を得るために、若年層に人気が高いファーストフード業界では、出来るだけ物心がつく前に食べさせて、幼いうちからなじませるという戦略があるそうですよ。

 更に品田さんは「上からと下からというやり方」があると続けます。「上からは、テレビで取り上げられているスターなどから、マスメディアを使ってメッセージを発信してファンを掴むやり方。下からは、実際に子供たちがプレーに参加して、リアルな接点をつくって盛り上げるやり方。これはサッカーに限らず、エンターテインメントのやり方と言われている」。なかでも最もサッカー人気に拍車をかけたのは、なんと「キャプテン翼」だそうですよ。いつの時代も不動のスターは「大空翼」かもしれないですね。

 若年層に大きな影響を及ぼす、スター選手やメディアの存在。日本代表選手はもちろんのこと、ネイマール選手やC・ロナウド選手、メッシ選手など世界的スター選手が出場するブラジルW杯なら効果は十分期待できると感じます。

◆著者プロフィール◆
長谷川望(はせがわ・のぞみ)
1987年生まれ。福島県出身。ロンドン五輪でなでしこジャパンや女子レスリング金メダリストの伊調馨らを取材。フジテレビ「とくダネ!」に出演するなど現在スポーツライターとして活躍中。
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