インタビューココだけ | 映画『ゴールド・ボーイ』

映画『ゴールド・ボーイ』金子修介監督 インタビュー

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

3月8日(金)より映画『ゴールド・ボーイ』が全国公開!中国のベストセラー作家 紫金陳(ズー・ジェンチン)の代表作の一つである小説「坏小孩」(The Gone Child)を原作に、凶悪な殺人犯、東昇を演じる、実力派俳優の岡田将生を筆頭に、黒木華、松井玲奈、北村一輝、江口洋介ら実力派が結集。そして、東昇と相対する少年、安室朝陽をGo!Go!kidsのメンバーでもある羽村仁成が演じることでも話題となっている本作。そこで今回は、金子修介監督に、中国のベストセラーを映画化するうえでの制作秘話や、役者陣とのかかわり方などのお話を伺った。

──『ゴールド・ボーイ』について、日本ではこれまでなかった本格的なクライムサスペンスという声が多いです。制作の経緯をお聞かせください。

金子修介(以下 金子)(製作プロダクションの)チームジョイさんからの依頼で、中国の紫金陳(ズー・ジンチェン)の原作を読んだのですが、面白いけど、日本にそのまま置き換えるのは難しいというのが最初の感想で。原作では冒頭で主人公が山の中を行き、崖から義父母を突き落とすシーンがあるんです。中国の場合は、急峻な崖があって、それが観光地になってもいるので、そういう場所に義理の両親を連れて行く犯罪はありえるんですが、日本にもそんな崖があるのかどうか。しかも、子どもが突き落とす現場を偶然撮ってしまうような崖との位置関係が成立するのかは、結構悩みました。と同時に、脚本は港岳彦君じゃないと、まとまらないんじゃないかと思い、オファーしたら、キツキツのスケジュールの中で受けてもらえることになったんです。

──港さんとは、映画『百年の時計』(2012年)からのお付き合いですよね。「最も信頼する脚本家」とおっしゃっていましたが、港脚本の魅力とはどんなものでしょうか。

金子港君は古今東西の戯曲やシナリオを研究しているので、いろんなパターンを知り尽くしている上で、パターンにないオリジナルのセリフを生み出してくるんです。今回、義父母が崖から突き落とされる設定についても、日本にも崖の観光地があるか探したんですが、実際に事故や殺人が起こりうるからという理由で断られました。私有地でそれなりの場所を見つけても、今度はそこに行く理由は何だ、ということになる。観光地でもない崖になぜ行くのか考える中で、義父が義母にプロポーズしたとき、若かったから、崖っぷちで今の幸せをつかんだという原作にないオリジナルのセリフを港君が書いてくれました。そこから物語が自然に動き出したんです。

──舞台を沖縄にしたのはなぜですか。

金子港君との打ち合わせの中で沖縄という話が出てきたんです。原作だと、犯罪に対して警察庁に相当するような全国組織が出てこないんですよ。その点、日本の場合は、マスコミの追及があって犯罪者は逃げられないので、マスコミがすぐに駆け付けられない、少し離れた地域である必要があった。格差や競争社会を日本に持ってきて、さらに沖縄にしたことによって、既視感がない独特のクライムサスペンスになりえたのかなと思います。

──外から見た沖縄は、青い海青い空と美しい自然というイメージで描かれがちですが、格差、若者の貧困問題なども舞台にした理由だったのでしょうか。

金子これは大人と子どもの戦争なんです。戦争の本質は、利己主義の結果始まり、人の命を奪ったら、それがエスカレートしてとんでもない方向に行くというもので。沖縄の空気も映画の中に活かせたかなと感じています。ただし、中国でも上映するので、沖縄弁はやめて、ほとんど標準語にしました。

──沖縄が背負わされた負の部分を内側から描くドキュメンタリーを見るような感覚もありました。

金子沖縄には40年前、監督になったばかりの頃に、森田芳光監督の『メイン・テーマ』という映画で助監督をやって、1カ月間滞在したことがあったんです。今回イメージの沖縄で作っていったので、そう言われると嬉しいです。実際に米軍基地の近くのコザという町でロケをして、スタッフも寝泊まりしていて、バスの移動で基地の近くを何度も通ったので、そうした空気は反映されているかもしれません。

──崖というと、2時間のサスペンスドラマで見る日本海側を思い浮かべる人も多いと思いますが。

金子日本海の曇天の感じじゃなくて、キラキラした沖縄の海のピーカンの中で突き落としたいな、と思ったんです(笑)。ただ、崖は風が激しいので、ドローンが安定してくれない問題があって、2回目のトライでちょうど風がピタッと止んで撮影できました。

──ピーカンの中で突き落としたいというのは、どういう心理でしょうか(笑)。

金子本作のヒントとなった作品の一つに、映画『太陽がいっぱい』があるんですね。主人公・東昇を演じた岡田(将生)くんがアラン・ドロンのように美しいこともあって。主人公が利己的な犯罪をするけど、それだけじゃ終わらないというところで『太陽がいっぱい』だと思い、そこからキラキラな中で突き落としたいという連想になりました。

──岡田さんの主演は、原作からのイメージか、それとも岡田さん主演が決まって、東昇というキャラができていったのか、どういう順番だったのでしょうか。

金子原作では学校の先生で、全然違うキャラなんです。港君との話し合いの中で、キャストは岡田君かなという案が出たのと、『太陽がいっぱい』のイメージとどちらが先だったかは忘れましたけど。夏月(星乃あんな)のキャラも、原作ではもっと小さな子で、朝陽(羽村仁成)と夏月の恋愛筋も原作にはありません。だから、ほぼオリジナルです。

──中学生3人組(羽村、星乃、前出燿志)も素晴らしかったですが、オーディションで選ばれたそうですね。

金子演技経験者の中からオーディションしたんですが、最初から3人とも傑出していました。羽村君は、最初はすごく普通な感じに見えるんですが、芝居をすると、爽やかで優等性的な雰囲気があって、それでいて問題ある雰囲気の芝居もできるので、多重的なお芝居ができるんだな、と。星乃さんはずっと夏月のまま現場にいるような印象で、前出君はどんどん話しかけて来る人懐こいタイプで、お芝居は少しやりすぎるところがあるのを抑えてと言いましたね。

──3人のお芝居は、作品の中で変わっていきましたか。

金子今回はオーディションのときからカメラでお芝居を撮って、研究してというのを繰り返したんです。特にリハーサルでは大人の役に代役を立てて、少年少女たちだけをカメラで撮って、その動画を見せて、自分で考えてもらうようにしました。結果、現場に入るときには完全にできていましたね。

──動画を本人に見せるのは、金子監督がいつも行う手法なんですか。

金子僕は新人俳優を起用することが多いんですが、フィルムの時代には、現場で何回もリハーサルを繰り返して、現場で成長していくのを目の当たりにしていました。そうすると、その映画1本の中の成長よりも、彼ら彼女らの成長がわかるのは、次の映画なんです。別の人が撮った作品の方がうまくなっていることに、悔しい思いもあって(笑)。たぶん1本経験した後に全部自分で観て、自分の中で総括し、それを次に生かして成長するんだと思うんですよ。それで、不定期に演技ワークショップで講師をやるとき、俳優さんのお芝居を動画で撮って観るということをやっていました。僕が指導するだけじゃなく、自分で考えて芝居するというワークショップの経験を、実際の映画で初めて取り入れたのが今回だったかもしれません。俳優さんが自分の演技を見ると、違ってくるんですよ。

──フィルムが高かった時代には、完成まで本人が観られなかったのに対し、今は動画などですぐにフィードバックできるようになったわけですね。役者さんにとっては学びやすい環境ですね。

金子時代の変遷で、若い俳優のお芝居が昔よりも自然になっていると思うんです。自分のお芝居を気軽に見られて、自分で研究できるから、映画監督は形無しみたいな感じはありますけど(苦笑)。フィルムの時代はモニターも見せない方がいいという考え方でした。俳優は、監督が見て指示する言葉に従って芝居していれば良い、それが1番正しいことだということで。

──自分で観ることができるから、若い人もみんな上手になっている一方で、弊害もありますか。

金子弊害は、嘘がつきにくいこと。そういう意味で、本作は嘘のつき合いの物語なので、僕自身、現場で岡田君の嘘にまんまと騙され、悲しい気持ちになってしまうことがありましたが(笑)。妻を語るシーンで、本当に可哀想だなと思っていたら、実は……その答えは映画でご覧いただきたいですが。

──岡田さんの魅力を改めてどう感じましたか。

金子15~16歳でデビューしたときから、良いなと思っていたんです。『天然コケッコー』(2007年)なども素晴らしかったですし、一度ご一緒したいとかねがね思ってきた中で、ときどき悪人の役もやっているし、何でも挑戦する人じゃないかと考え、オファーしたら、やってみたいというお返事をいただけて。岡田君の一番の魅力は、「なりきれる」ところ、目が離せないところじゃないでしょうか。それに責任感も強く、クランクイン前には、3人の少年少女に対して自分は座長的な立場で彼らの指導もした方がいいんでしょうかと聞いてきてくれたんですね。僕は「それは必要ないから、自分のことだけ考えて」と言ったんです。

──仲良くなってしまうと、関係性が映像に出るということですか。

金子はい。映画やお芝居の理論でいうと、お芝居を役者同士のコラボーレーションとするような考え方もあるじゃないですか。相手がこうきたら、こう受けるみたいなことを共有し、シーンをみんなで作る、と。でも、本当にそうなのかなと思うんです。みんなでその場を作るんじゃなくて、一人一人が本当にその役柄の人物になっていれば良いんじゃないだろうか。一人一人なりきっていれば、芝居と芝居のぶつかり合いによって偶然出てくるもののほうがリアルじゃないかと思うんですね。

──それぞれの解釈などを言語で共有してしまうと、予定調和になるということでしょうか。

金子そうですね。相手が何を言っているか、何を言うのかわからないというのが、実際の事柄なので、常にスリリングな時間を作るためには、共有せずに一人一人がなりきってぶつけ合うほうがいいんじゃないかなと思うんです。実際、僕自身、撮影の現場では予期できないことが次々に起こるので、自分もハラハラドキドキしながら撮れて、そのハラハラ感がお客さんに伝わってほしいと思っています。実はスタッフの前で「新人監督のようなつもりでやりたい」と言ったら、「それは困る」と言われたぐらいです(笑)。

──カメラを担当されたのは巨匠の柳島克己さんですが、本作での印象はいかがでしたか。

金子柳島さんは僕よりもリアリズムの方なんですよね。僕自身が手掛けてきたのは、平成ガメラ3部作とか、『DEATH NOTE デスノート』2部作とか、本質的にはリアリズムじゃないんですけど、カメラマンがリアリズムの方なので、ファンタジー色ではない作品になりました。柳島さんはいろいろな監督と仕事をされている柔軟な方なので、今回は特に打ち合わせをしたわけではないですが、風景のロングサイズと人物のアップサイズのメリハリが効いていると感じました。彼らの世界に迫るという意味で、人間に対しては寄っていて、風景に対しては引きで綺麗に撮ってもらいながら、風景の中に人物がいる撮り方もあって、いろいろ勉強させてもらいましたね。

──ピーカンの中で突き落とすシーンの怖さ、爽快さも含めて、個人的には一種の怪獣映画だと思いましたが、そういった部分を意識されたところも?

金子確かにある種のモンスターですからね。でも、怪獣の場合は実際にはいないから、それを映画を観ている間、いかに信じてもらえるようにするかという演出ですけど、今回はモンスターなので、逆に「信じるんじゃなくて疑う」演出をしているんですね。演出としては、とにかく本物に見えるように嘘をつきなさいと言っているので。撮るほうも、疑ってかかるという作業を徹底的にやったことによって、爽快な感じも生まれてきたところはあるかと思います。実際、お客さんから爽快感と言われるんですよ。自分はラストで重い感じになるんじゃないかなと思っていたんですけどね。

──最後に、監督の一番のお気に入りシーンや注目ポイントを教えて下さい。

金子ネタバレになるので詳細は控えますが、大人と子どもの戦争で、あるトリックが使われます。それを成立させるのは、警察やメディアを絡めた現代にも通じる背景があるという描写は、港君のアレンジの巧さ。また、嘘か本当か最後までわからない俳優たちの表情は一番の見所ですね。

PROFILE

金子修介(かねこ しゅうすけ)
『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(84)で監督デビューしヨコハマ映画祭新人監督賞受賞。『1999年の夏休み』 (88)はニューヨーク近代美術館ニューディレクターニューフィルムに選出。 平成『ガメラ』3部作で怪獣映画の第一人者となる。また『ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃』(01)、『デスノート』、『デスノート the Last name』(06)が国内外で大ヒットし、アジアでの人気も高い。

(文:田幸和歌子)

<作品概要>
映画『ゴールド・ボーイ』

イントロダクション
それは完全犯罪のはずだった。
まさか少年たちに目撃されていたとは…。
総再生数20億回!※
アジア最高峰のドラマ原作を日本映画化!
殺人犯と少年たちの頭脳戦が幕を開ける。
※iQIYI JAPAN調べ

スタッフ
企画:許 曄
製作総指揮:白 金(KING BAI)
監督:金子修介
原作:小説「坏小孩」(悪童たち)by ズー・ジンチェン(紫金陳)
プロデューサー:仲野潤一
脚本:港 岳彦
音楽:谷口尚久
撮影:柳島克己(J.S.C)
照明:宗 賢次郎(J.S.L)
美術:野々垣 聡
録音:小松崎永行
アクション監督:香純 恭
特機:奥田 悟
音響効果:柴崎憲治
編集:洲﨑千恵子
助監督:村上秀晃
キャスティングディレクター:吉川威史
装飾:山田好男
スタイリスト:袴田知世枝
ヘアメイク:本田真理子
スクリプター:吉田久美子
製作担当:間口 彰 大田康一

キャスト
岡田将生
黒木華
羽村仁成
星乃あんな
前出燿志
松井玲奈
北村一輝
江口洋介

公開日
2024年3月8日(金)全国公開

配給:東京テアトル/チームジョイ
宣伝:ブシロードムーブ

<劇場前売券>
ムビチケカード


ムビチケ購入特典:オリジナルポストカード


好評発売中
販売価格:1,600円(税込)
販売場所:全国上映劇場、ムビチケオンライン(https://mvtk.jp
購入特典:オリジナルポストカード
※ムビチケ前売券1枚につき、特典1枚のお渡しとなります。
※特典は数量限定のため、なくなり次第ムビチケ前売券のみの販売となります。
※内容・仕様は予告なく変更・終了する場合がございます。
※一部販売のない劇場もございますので、予めご了承下さい。

 


▼映画『ゴールド・ボーイ』公式サイト
https://gold-boy.com
▼映画『ゴールド・ボーイ』公式X
@goldboy_movie
▼映画『ゴールド・ボーイ』公式Instagram
https://www.instagram.com/goldboy_movie/
▼映画『ゴールド・ボーイ』公式TikTok
https://www.tiktok.com/@goldboy_movie

続きを読む

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

インタビュー

© Bandai Namco Filmworks Inc. All Rights Reserved.