富野由悠季が断言「アニメブームは今が頂点」 デジタル化、いい作業環境が作品性を劣化させる

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──アニメ市場は膨れる一方、制作現場への還元が少ないなど、儲けの偏在が指摘されています。

実は業界でいちばん儲けているのは制作会社でも出資者でもない。

動画配信をしている業者だ。あの「プラットフォーマー」と呼ばれる連中が、本当に作品の知的財産権に対して、正当に支払いをしている仕組みになっているのか。それをいちばん懸念している。

ああいう、巧妙なシステムをつくり上げて、利用者を囲い込んで逃れられないようにしている連中から、儲けを奪われないようにするにはどうすべきか、昔考えたことがある。思いついたのは使っている電波自体に課金させることぐらいだ。そんなのSF以下だろうけど。

──それで制作現場は苦しいまま。

でも、あえて言うと、創作をする立場の人は、このままでもいいんじゃないか、とも思う。

バンダイナムコグループの組織統合の一環で、この荻窪の新しいビルに仕事場が移転して1年が経つが、新しい作品を作るうえではいい環境だとは思えない。

この立派なビルは、全部デジタル化して、空調が利きすぎている。今日のディズニーのデジタルな制作システムが作り出す作品のつまらなさと同じこと。創作をする人は、クレイジーな部分がないといけない。霊的感覚、土臭さ、インディーズっぽさ。空調を完全制御した空間で、土着性のある作品を作れるのなら作ってみろと思う。

長谷川町子の『サザエさん』を見返すと、戦後の生活の中で漫画が出始めた頃、隙間風がピューピュー吹く仕事場で描かれていたのではないか、というにおいがする。そういうにおいがなくなることのほうが、ぼくは危険な気がする。

製作プロデューサーがいちばん気をつけるべきは、アーティストという人種を活かす場を与えること。金をかけて、高層ビルのフロアを仕事場に提供すれば済むほど、事は単純でない。ものづくりの実務を知らないサラリーマンが、創作の「マネジメント」をできるとずうずうしくも思う。それで、プロデューサーが創作者ともめる。

現場を見るのをおっくうがるな

──今を生きるビジネスパーソンに伝えたいことは。

今言ったように、現場を見るのをおっくうがるなということ。農業で例えると、気候、地形、地質。それから土地の癖。複雑な特徴を踏まえてどう維持していくかという感覚を持つことが大事。伝票の数字だけを見ていたら、ダメ。

現場の痛みは、キレイな事務所にいても感じ取れない。だが、口が達者で現場感覚のない人が、出世してしまうことがある。テレビ局で多いのだが、そういう実務を知らない連中が指揮権をとると、つまらないものができる。だから、ちゃんと現場には足を運んでくださいね。

(聞き手:西澤佑介)

西澤 佑介 東洋経済 記者

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にしざわ ゆうすけ / Yusuke Nishizawa

1981年生まれ。2006年大阪大学大学院経済学研究科卒、東洋経済新報社入社。自動車、電機、商社、不動産などの業界担当記者、19年10月『会社四季報 業界地図』編集長、22年10月より『週刊東洋経済』副編集長

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