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『TAIZO ~戦場カメラマン・一ノ瀬泰造の真実~』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2010/11/17   18:48
更新
2010/11/17   19:02
ソース
intoxicate vol.88 (2010年10月10日発行)
テキスト
text : 本村好弘

© Taizo Ichinose

1978年、『地雷を踏んだらサヨウナラ―  一ノ瀬泰造写真・書簡集』は刊行された。日本がベトナム難民の定住を認め、キャンディーズが普通の女の子に戻り、24時間マラソンが目玉となったチャリティー番組がスタートした年だ。この時、朝鮮・ベトナム戦争による特需景気を終えた日本は、いざなぎという心地よい波に、まだ酔いしれていた時期だ。映画『TAIZO』は、内戦混乱するカンボジアで(恐らくクメール・ルージュによって)殺害された一ノ瀬泰造の軌跡と彼の遺した撮影フイルムを紡ぎ写真集を完成させようとする両親の想いを機軸に、彼と親交のあった内外の証言を組み混ぜたセミドキュメンタリー映画である。

最初に記しておくが、若い世代の方には、出来得れば、カンボジアが内戦へと発展していった背景、朝鮮・ベトナム戦争が大国の代理戦争と呼ばれた所以、そして当時の日本がどの様なものであったかを少し学んで作品に臨んでもらえればと思う。本作品は、ある種のテーマ性を訴えるドキュメンタリーとは違う。それより、一ノ瀬泰造と言う人間がどのような時代を駆け抜けて行ったのかを伝えたい映画に思えるからだ。地雷の恐怖や戦場の過酷さを扱ってはいるが、ある時代のひとりの若き青年の時間を切り取った記憶ノートとでも言うべきものとして観客には観て貰いたい。それ故NINGEN TAIZOの生きた時代と共に彼の生きた記憶を蘇らせて欲しいと思う。

一己人間の生とは、いかにあやうく儚げなものか。戦場カメラマンと云う職業を通して、ファインダー越しの一己人間の生に出遭う彼の姿は、人間としての成長をも果たしてゆく。そして彼が出会った他者もまた、青年・一ノ瀬泰造の記憶を通じて一片の時代の記憶を甦らせてゆく………。