東方我楽多叢誌(とうほうがらくたそうし)は、世界有数の「同人」たちがあふれる東方Projectについて発信するメディアです。原作者であるZUNさんをはじめとした、作家たち、作品たち、そしてそれらをとりまく文化の姿そのものを取り上げ、世界に向けて誇らしく発信することで、東方Projectのみならず「同人文化」そのものをさらに刺激する媒体を目指し、創刊いたします。

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日光は東方元ネタの宝庫――東葉旅人の聖地巡礼手引き

東葉旅人の聖地巡礼手引き【日光・茂林寺】

 東方我楽多叢誌をご覧のみなさん、こんにちは。東方の聖地巡礼を主な活動としている東葉旅人です。

 今回の記事では、栃木県と群馬県の聖地巡礼スポットを紹介します。

 現在は新型コロナウイルスの影響により外出が厳しい情勢ですが、落ち着いた後の聖地巡礼計画の参考にしていただければ幸いです。記事の内容や営業時間などはコロナ禍における感染拡大防止策が影響しているので、収束後に訪れる時とは違う可能性があります。ご注意ください。

 

日光二社一寺の元ネタ

 世界遺産として登録されており、海外からの観光客にも知れ渡っている日光の二社一寺。

 その内の一つである「日光二荒山神社」には、『東方地霊殿 〜 Subterranean Animism.(以下:東方地霊殿)』エンディングでスタッフロールの背景として使われている場所があります。二荒山神社といっても、修学旅行などで定番の東照宮に近い「本社」ではなく、中禅寺湖のほとりにある「中宮祠」が該当します。

 バス停近くの鳥居を抜けた先に階段があり、登り切った場所から振り返ることで『東方地霊殿』スタッフロールと同じ光景が望めます。

 撮影した画像に明るさを強調する加工を施すと、車道や湖などが光で隠されて原作に近い状態になります。比較用の画像は載せていませんが、EASYでもエンディングを迎えることは可能ですので是非見比べてみてください。

 この二荒山神社は、その名の通り二荒山(男体山)を尊崇している神社で、「マウンテン・オブ・フェイス」ともいえる場所です。

 山の神は大蛇に変じたという伝説があり、境内にある登山口の近くには大蛇御神像があります。『東方地霊殿』の黒幕ともいえる守矢神社の神と共通点を感じさせる要素があふれています。

 また、スタッフロールで浮かんでいる霊のようなものは、二荒山神社の神紋である三つ巴を思わせます。『東方地霊殿』と同じく、技術革新がテーマにある『東方非想天則 〜 超弩級ギニョルの謎を追え』のジャケットなどでも、似たような紋様が使用されています。

 神社の前には大きな湖もあることですし、ZUN氏は二荒山神社中宮祠に守矢神社の一側面を見いだしているのかもしれません。

 二社一寺の一つである「日光山輪王寺」。三仏堂(本堂)から離れた場所にある「常行堂」という建物では、摩多羅神が祀られています。摩多羅神は、『東方天空璋 〜 Hidden Star in Four Seasons.(以下:東方天空璋)』で6面とEXのボスを兼任している「摩多羅隠岐奈」の元ネタと思われる存在です。

『東方天空璋』で隠岐奈が語っていた肩書きと同様に、摩多羅神は常行堂の内部で後戸の神として鎮座しています。

 常行堂の正面から見て右側奥には、隣の法華堂に接続された歩廊があるのが外からも確認出来ます。その歩廊がある方角で、御本尊である阿弥陀如来の護法神として祀られています。

『闇の摩多羅神 変幻する異神の謎を追う(以下:闇の摩多羅神)』という書籍があります。『東方天空璋』のジャケットが発表された時点で、元ネタになったのではという意見が挙がった書籍です。この表紙には、輪王寺に伝わる「摩多羅神二童子図」が使われています。2017年の時点では「日光東照宮宝物館」で展示されていましたが、2020年11月に筆者が訪れた時には残念ながら確認出来ませんでした。

 ちなみに画像に写っている書籍の帯には、「究極の絶対秘神!」と『東方天空璋』を意識していると思わせる文字が使われています。これは『東方天空璋』の頒布後に初版の在庫が売り切れたので、新装版が発行されたという経緯があるためです。新装版で追加された後書きを読むと、編集担当者や著者が『東方天空璋』を認識していることがわかります。

「日光東照宮」の境内にある神輿舎の中にも、摩多羅神に関係するものが存在しています。左側に確認出来る「抱き茗荷」の紋が付いた神輿(みこし)が該当し、『闇の摩多羅神』によると、輪王寺に伝わる「御神祭之図」で「摩多羅神神輿」と書かれているようです。

 境内からは少し離れた場所にありますが、「日光東照宮宝物館」でも茗荷(みょうが)の神輿を目にすることができます。

 摩多羅神の影響が見え隠れする場所だからか、『東方茨歌仙 〜 Wild and Horned Hermet.』9巻第42話で描かれている、「高麗野あうん」が具現化する前に宿っていた石像の元ネタかもしれない狛犬も存在します。

 東照宮の奥宮拝殿前に配置されている狛犬は、背中の扉の魔力による影響を受けた石像と全く同じではありませんが、共通点をいくつか見いだせる外見をしています。

 他にも東照宮の境内には、『東方求聞口授 ~ Symposium of Post-mysticism.』で紹介された「四猿ちゃん」の記事で言及されている「三猿」の代表例ともいえる彫刻や、『東方鈴奈庵 〜 Forbidden Scrollery.』3巻第21話で登場した「ウルトラソニック眠り猫」の元ネタと思われる「眠り猫」の彫刻もあります。

 学校行事などで日光を訪れる人も少なくないと思います。その際は該当箇所を探してみると、より楽しめるのではないでしょうか。

住所・アクセス

二荒山神社 中宮祠
栃木県日光市中宮祠2484

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
駅前の2A乗り場より東武バス「湯元温泉行き」に乗車
「二荒山神社中宮祠」バス停まで53分 降車後すぐ

 

日光山輪王寺 常行堂
栃木県日光市山内
拝観時間 9:00~17:00 11月~3月は16:00まで
拝観料:無料(内部の撮影は禁止)

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
出口より約2.6km 徒歩33分程度
駅前の2B乗り場より東武バス「世界遺産めぐり」に乗車
「大猷院・二荒山神社前」バス停まで14分 降車後すぐ

 

日光東照宮(宝物館)
栃木県日光市山内2301
拝観時間 9:00~17:00(受付は30分前まで) 11月~3月は16:00まで
東照宮拝観料:1,300円 宝物館とセットの場合は2,100円
宝物館拝観料:1,000円

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
出口より約2.3km 徒歩29分程度
駅前の2B乗り場より東武バス「世界遺産めぐり」に乗車
「大猷院・二荒山神社前」バス停まで14分 降車後に約400m 徒歩5分程度

 

奥日光の自然と元ネタ

『弾幕アマノジャク 〜 Impossible Spell Card.(以下:弾幕アマノジャク)』で「河城にとり」が使用するスペルカード、瀑符「ケゴンガン」。

 これはその名の通り、日光の代名詞ともいえる「華厳滝」をモチーフにしていると思われます。同じく『弾幕アマノジャク』で使用する瀑符「シライトフォール」とは対照的に、華厳の滝のように一つの線が迫るような弾幕に仕上がっています。

 エレベーターから観瀑台に向かう途中には、ここで散った者の慰霊を目的とした像があります。

 『弾幕アマノジャク』でのシーン選択時に「曰く付きの入水銃」とあるように、この華厳の滝は「東尋坊」や「青木ヶ原樹海」のような意味合いを持っています。景勝地であると同時に、妖怪がいてもおかしくなさそうな空気の名残を感じさせます。

 華厳の滝と同じく、奥日光三名瀑に数えられる「竜頭ノ滝」。

 この場所を撮影した『素材辞典 Vol.94 四季・やすらぎの風景編 DW138』という写真素材が、『東方風神録 〜 Mountain of Faith.(以下:東方風神録)』のスコアや残機が表示されている場所で背景として使用されています。他にも素材などが重なっているため複雑でわかりづらいですが、ゲーム画面で『東方風神録』の「東」と表示されている部分の左側と、写真素材の中央右側付近の滝が一致しています。

 同じ光景が見られる具体的な場所は、「龍頭之茶屋」という施設の観瀑台となります。食事処や土産物屋としての営業時間外でも、観瀑台から景色を楽しむことは可能です。

 『東方風神録』と似た眺めを望む場合は紅葉の時期ですが、毎年見頃になると渋滞で自動車が全く進まないことが珍しくありません。行き帰りに通常の数倍近く時間が必要になり、バスの運行計画が乱れに乱れるので充分にご注意ください。

 龍頭之茶屋右奥に祀られている龍頭観音の前には、「知足の心を図案化した蹲踞(つくばい)」があります。

 中央に口をあけて「吾唯知足」の4字を表しているこの形状は、『東方緋想天 ~ Scarlet Weather Rhapsody.』サウンドトラック・アレンジディスクの左端にも使用されています。最も知れ渡っているのは京都・龍安寺にあるものですが、この場所の蹲踞も趣旨に沿ったものです。竜頭の滝を訪れた際には、こちらも是非のぞいてみてください。

 竜頭の滝から北東方面には、小田代原という場所があります。

『東方花映塚 〜 Phantasmagoria of Flower View.(以下:東方花映塚)』エンディングでスタッフロールの背景として使われた写真の一つが、ここを撮影した『素材辞典 Vol.94 四季・やすらぎの風景編 DW059』です。『東方花映塚』のスタッフロールでは3つの写真素材が重ねられていますが、時間が進むと映し出される上半分を見るとわかりやすと思います。

 小田代原は湿原から草原への遷移過程にあり、普段は水面が見当たりません。しかしながら、大雨が降ると湖が出現して、写真素材のように幻想的な光景になり得る場所です。低公害バスの「小田代原バス停」前に展望台があり、そこから周囲に木道が設置されていますので、景色を存分に楽しめる環境となっています。

 六十年に一度の「花の異変」ほどではありませんが、湖の出現は毎年出現するとは限らない貴重な機会です。その際は道路事情などに気をつけた上で、訪れてみてはいかがでしょうか。

 小田代原に向かう低公害バスの発着地である赤沼は、「戦場ヶ原」の玄関口でもあります。

『東方地霊殿』でジャケットなどの背景として使われている『素材辞典 Vol.94 四季・やすらぎの風景編 DW066』は、この戦場ヶ原で撮影されています。具体的な位置までは不明ですが、後ろに山が写っていることから、比較的見晴らしがよい木道付近かと思われます。

 戦場ヶ原という名は、「男体山の神である大蛇」と「赤城山の神である大百足」が争った伝説に由来するといわれ、「神さびた古戦場」という曲名を想起させます。小田代原と組み合わせて散策しやすい立地で、双方ともに人工物が視界に入らない雄大な自然を満喫できる場所です。

「幻の湖」や「神話の舞台」という要素もあるため、幻視するにはもってこいの場所ともいえます。

 奥日光の端には、温泉地として知られる湯元があります。ここで撮影された森林である『素材辞典 Vol.94 四季・やすらぎの風景編 DW011』は、『東方地霊殿』4面で「古明地さとり」が使用するスペルカードの背景として使われています。日光湯元ビジターセンター周辺などは、ちょっとした森林になっているので、そのあたりで撮影されたのかもしれません。

 また、『未知の花 魅知の旅』のCDレーベルでも、この写真素材が背景になっています。BOOTHでダウンロード販売されている『未知の花 魅知の旅』の画像は、より木々の形状が確認できるため、写真素材が使用されていることが判別しやすくなっています。

 日光は二社一寺や自然を合わせると、日帰りで全て回りきれないほどの東方ネタがあります。

 奥日光は温泉だけでなく、避暑地としても有名です。のんびりするには適している場所ですので、日程に余裕があれば宿泊をおすすめします。「夏は外務省が日光に移る」といわれていたことも考えると、西洋の文化と東洋の文化が入り交じった「上海アリス」的な雰囲気が残った場所ともいえます。

住所・アクセス

華厳滝(エレベーター)
栃木県日光市中宮祠2479-2

観瀑台へのエレベーター
営業時間 8:00~17:00 冬場は9:00~16:30など
連休や紅葉の時期は営業時間が更に長くなる
料金:570円

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
駅前の2A乗り場より東武バス「湯元温泉行き」に乗車
駅前の2C乗り場より東武バス「中禅寺温泉行き」に乗車
「中禅寺温泉」バス停まで45分 降車後に約400m 徒歩5分程度

 

竜頭ノ滝(龍頭之茶屋)
栃木県日光市中宮祠2485

龍頭之茶屋
営業時間 9:00~17:00 12月~4月は9:30~16:00

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
駅前の2A乗り場より東武バス「湯元温泉行き」に乗車
「竜頭の滝」バス停まで61分 降車後に約140m 徒歩2分程度

 

小田代原(展望台)
栃木県日光市中宮祠

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
駅前の2A乗り場より東武バス「湯元温泉行き」に乗車
「赤沼」バス停まで64分 降車後に約3km 徒歩40分程度
低公害バスで「赤沼車庫」から「小田代原」まで12分 降車後、展望台まですぐ

 

戦場ヶ原(赤沼バス停)
栃木県日光市中宮祠2494

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
駅前の2A乗り場より東武バス「湯元温泉行き」に乗車
「赤沼」バス停まで64分 降車後に木道付近まで約400m 徒歩5分程度

 

湯元(候補地として日光湯元ビジターセンター)
栃木県日光市湯元

最寄り駅:
東武日光駅(東武日光線)
駅前の2A乗り場より東武バス「湯元温泉行き」に乗車
「湯元温泉」バス停まで85分 降車後に約200m 徒歩3分程度

 

妖怪狸と寺

『東方心綺楼 〜 Hopeless Masquerade.』『東方深秘録 〜 Urban Legend in Limbo.』『東方憑依華 ~ Antinomy of Common Flowers.』で「二ッ岩マミゾウ」が使用するスペルカード、変化「分福熱湯風呂」。この元ネタがある場所が、群馬県館林市にある茂林寺です。

 最寄りの駅名も寺から取られており、外に出るとタヌキが出迎えてくれます。寺に向かう道路には13枚の案内板が設置され、茶釜に化けたタヌキのおとぎ話である「分福茶釜」が絵本形式で紹介されています。

 境内に入ると22体ものタヌキ像が並んでいます。広く知られているおとぎ話では、助けられたタヌキが恩返しに茶釜に化けるという内容です。

 寺伝では少し違い、タヌキが化けた存在である守鶴和尚が、どこからか無尽蔵に湯が出る茶釜を持ってきたという内容となっています。やがて正体が現になったことで寺を去った守鶴和尚ですが、今でも境内にある守鶴堂で鎮守大菩薩として祀られています。

 おとぎ話と寺伝のどちらにも登場する茶釜は、宝物館として入れる本堂の内部で目にすることができ、「紫金銅分福茶釜」と称されています。

 本堂の中には、タヌキに関係する本なども数多く展示され、実際に読む事が可能です。他にも色々とありますので、訪問の際には拝観料を払って本堂内部に入るのをおすすめします。

 すぐ近くの茂林寺沼では、タヌキなどが生息する原風景が残されています。

 昔ながらの環境が維持され、妖怪狸の伝承も残る地域ですので、現代でも境内で像に化けて遊んでいるかもしれません。

 寺の門前にある土産物屋では、多種多様なタヌキの置物やお菓子などが購入できます。

 また、おとぎ話にちなんだ「分福茶釜の釜玉うどん」という名物料理が、館林市内の飲食店で提供されています。館林駅前にある「花山うどん」というお店では、タヌキの食器で出されているので視覚的にも楽しめます。

『東方鈴奈庵』1巻の「読み切り 妖怪おとぎ話」でも、マミゾウがもってきた絵本という形で分福茶釜が扱われています。そして同時に紹介されている「證誠寺の狸囃子」の元ネタとなる場所も、同じく関東である千葉県木更津市に実在します。この「證誠寺」の境内には狸塚があり、腹をたたきすぎて亡くなったタヌキが弔われています。

 近くの木更津駅周辺では、タヌキにちなんだものがあちこちに存在し、お菓子のデザインにも用いられています。

 館林市と木更津市の双方ともに、タヌキの影響が寺だけに留まらず、街そのものに広がっているような光景です。関東で妖怪狸関係の場所に興味があるのならば、この2つの街を選べば満足できると思われます。

住所・アクセス

茂林寺
群馬県館林市堀工町1570

宝物館(本堂内部)
拝観時間 9:00~16:00
拝観料:300円

最寄り駅:
茂林寺前駅(東武伊勢崎線)
出口より約620m 徒歩8分程度

 

證誠寺
千葉県木更津市富士見2-9-30

最寄り駅:
木更津駅(JR内房線)
出口より約580m 徒歩8分程度

 

後書き

 本記事をご覧いただきありがとうございました! 第6回目である今回の記事をもって、一連の関東聖地巡礼記事は完結となります。すべて読んでくださった方も、そうでない方にも、重ねて感謝申し上げます!

 本来、この後書きで「聖地巡礼」に関して何か語ろうと思っていたのですが、日光の東方ネタが豊富だったということもあって、これ以上は長くなりすぎてしまいそうです。そんな訳でして、次回に載せてもらう予定の「聖地巡礼」をテーマにした記事に持ち越させていただこうかと考えています。もしよろしければ、そちらの記事も読んでくださると幸いです。

 さすがにすべてではないですが、一連の記事である程度の聖地巡礼スポットは紹介できたと思います。新型コロナウイルスで大変な状況ではありますが、落ち着きましたら関東で東方の聖地巡礼をしてみてください。

 機会がありましたら、別の地域の聖地巡礼記事も書けたらいいなぁとか目論んでいます。何はともあれ、お付き合いくださりありがとうございました!

日光は東方元ネタの宝庫――東葉旅人の聖地巡礼手引き おわり

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