「プロデューサー」ってよく聞くけれど、実際はどんなことをしているのか想像がつきにくい仕事。そこで今回は、様々な業界の第一線で活躍している方たちをクローズアップ。ドラマプロデューサー・祖父江里奈さんに、どのようなキャリアを歩み、なぜプロデューサーになったのか、話を伺いました。

祖父江里奈 ドラマプロデューサー

そぶえ・りな/〈テレビ東京〉所属のドラマプロデューサー。『来世ではちゃんとします』シリーズ、『生きるとか死ぬとか父親とか』など担当作多数。7月7日にドラマ24『初恋、ざらり』がスタート。

19歳:一橋大学社会学部入学。
23歳:〈テレビ東京〉入社。バラエティ番組の担当に。
34歳:制作局ドラマ室に異動。
36歳:『来世ではちゃんとします』放送。シリーズ化が決定する。
38歳:『初恋、ざらり』が放送開始。

ヒロインが印象的な『来世ではちゃんとします』シリーズ、40代独身女性と自由奔放な父親の姿を描いた『生きるとか死ぬとか父親とか』など、数多くのテレビドラマをうみ出してきた祖父江里奈さん。そもそもテレビ局を志望した理由も「ドラマをつくりたかったから」だが、最初に配属されたのはバラエティ番組の制作。異動希望を出し続け、11年目に念願叶って制作局ドラマ室へ。そもそもドラマプロデューサーとはどんな仕事なのだろうか。

“期限内に作品を納品する。放送終了後も仕事は続く。”

「まずはドラマの企画を考えることから始まります。〈テレビ東京〉では、各時間帯の枠ごとに企画募集があり、恋愛、サスペンスなど、枠のイメージに合った方向性で提案します。マンガ原作で考えるなら、出版社に電話して映像化権が空いているか確認。許可をもらえたら、キャスト、監督、脚本家の候補、登場人物表、セールスポイントなどを考えます。私は選考する立場でもあるので、多いときは一度に200通もの企画書を読みますが、テレビ番組の企画書はフォーマットがないことが多く、自由度が高い。どうやったら目立つか、そして伝わりやすいか、通りやすいかを工夫するのがポイントです。企画書が通り、制作が決まったら、監督、脚本家、俳優さんに依頼します。ドラマの設計図である台本づくりをしつつ、脇役のキャスティングと、撮影、照明、録音、編集などのスタッフを集めます。撮影期間に入ると、現場ではプロデューサー自身が作業することはあまりなく、撮影が無事に進むよう見守っています。現場を離れているときもトラブルがあった場合は電話がくるため、気が気ではありません。こまめに差し入れをするなど、その場を盛り上げてスタッフのテンションを上げるようにしています」
ここまでは、ドラマをつくる作業。プロデューサーは、完成した作品を、どのように売り出していくのかも考えなくてはならない。
「宣伝しないと本当に存在を知ってもらえないので力の入れどころ。最近、主流なのはツイッターやインスタグラムなどのSNSを活用した企画。予算があれば、宣伝部と相談し街中に広告を打ち出したり、メディア向けの取材会を開いて記事を書いてもらったり。闇雲に宣伝してもしょうがないので、ラブコメディなら若い女性をターゲットにするなど、作品のテーマによって方法は変えています。最終回放送後も配信やDVD発売などの二次展開、あわよくば続編制作と、仕事は続きます」

“みんなの「つくりたい」という想いをカタチに”

多岐にわたるプロデューサーの仕事。大人数で一つのものをつくっていると、瞬間、瞬間で素晴らしいものが見られるそう。
「先日は、脚本家のあげてきた脚本が、涙が出るくらい素晴らしくて。俳優さんが印象的な演技をしたり、編集の仕上がりを観たら想像以上におもしろかったり。エンターテインメントが好きで、おもしろいものをつくりたくて集まっているので、プロデューサーである私も、一視聴者としてそういったものに出会えたときは感動します」
一方で、バラエティのディレクター時代とは違った苦悩も。
「期限内に、予算内で作品を納品することは当たり前のことであり、最大のミッション。日本のテレビドラマは、予告通りにきちんと放送しますよね。予算に関しては、どこを削って、どこにまわすかのすべての調整をします。大変なことといえば“複雑な人間関係の交通整理”。ドラマの現場にはたくさんのスタッフ、俳優さんが集まり、深夜帯でも100人以上。それぞれに強いこだわりを持っているので、ケンカが起きやすいんです。なので、プロデューサーは仲裁に入る。話し合いの場を設けたり、直接がむずかしそうであれば間に入って話を取り持ったり。誰かに教えてもらうのではなく、現場で学ぶことが多かったため、はじめのうちは業界の常識がわからず、謝ってばかりでしたね。この業界に入り、“お願い・謝罪・調整”の重要さは経験を積んで学びました。バラエティ番組のディレクター時代は、目の前のをおもしろくするのがミッションだったので体力的に大変でしたが、プロデューサーは莫大な予算の管理や人間関係の調整がとにかくむずかしいです。『ストレス発散方法は?』と聞かれたら、一番はドラマの感想をもらうこと。放送中はツイッターでコメントをチェックするのは欠かせません。視聴率だけでなく、SNSで視聴者の声が聞けるなんていい時代になりました。ちなみに、それ以外のストレス発散は大好きなお酒を飲んだり、スイーツを食べること。うまい具合にリフレッシュできていると思います(笑)」

スマホのメモ帳はシンプルなのがお気に入り。クラウドで常にパソコンと共有している。

おもしろい作品をつくるためには、アイデアがなくては始まらない。そのためにも、日々の情報収集は欠かせない。
「日常のすべてが何かしらドラマのネタになるので、生きているだけで情報収集は結構できます。私の場合は友人との会話。よく遊ぶのは広告関係と編集者の友人で、会うたびに2人から最近のはやりや話題になっていることを聞きます。次に、ツイッターで何が炎上しているのかチェックすること。炎上するということは、ネガティブな意味だけではなく、多くの人が関心をもっているということ。作品で失敗しないための“地雷発見機”の役割もありますが、なぜ批されているのか考えるようにしています。最後に、マンガを読むこと。自分でも本屋へ探しに行くことはありますが、最近は人の企画書で提案された作品を映像化できるのか確認するために読むことが多いですね。映画や舞台を観たときも「この俳優さんは、私のドラマに出てくれるかな』『この監督は依頼したら受けてくれるかな』と頭で考えながら観るクセがついてしまいました。もちろん、バラエティ時代の経験も貴重な財産。〈テレビ東京〉のバラエティって一般の方に密着する番組が多いですよね。否が応でも色々な人の人生に触れるので、ドラマではとても参考になります」

会社はフリーアドレス。パソコンとタブレット、スマホを同時に広げて作業する。

祖父江さんにとってドラマをプロデュースすることは、“想いをカタチにすること”。
「ドラマや映画をつくる人は、伝えたいものや表現したい気持ちが頭にあって、それをカタチにしてお届けする作業をしています。「俳優の〜さんが好きだから、よりかっこよく見えるドラマがつくりたい』でもいいですし、『苦しんでいる人たちに希望を与えたい』といった高尚なものでもいい。そういったモチベーションの源がどうやったらカタチになるのかという想いを作業して世の中に届ける人なのかなと思います」
7月には、ドラマ24『初恋、ざらり』がスタート。軽度の知的障害がある女性が主人公の、不器用だけど愛おしいラブストーリーだ。
「私はよく“等身大+α”と言っていて、自分自身の半径5m以内の世界をつくることが多いので、年を重ねていくごとに変わっていく心情を描いていきたいです。私もそうですが、今後は結婚せずに年を重ねていく人が増えていくと思うので、そういった人たちの終活とか、地方と都市みたいなテーマも気になりますし、はたまたファンタジーなんて全然関係ないことに挑戦してみるのもいいかもしれませんね」

仕事の気になるあれこれQ&A

Q1.仕事の日のルーティンを教えてください。
「起床して水を飲んだあと、大好きなコーヒーとチョコレートを摂取すること。元気のない日も、ぱっと目が覚める気がします。」

Q2.必需品を教えてください。
「みなさんそうだと思いますが、スマホは大切。メモ帳には読んだマンガや思いついたこと、会社の資料など何でも打ち込んでいます。」

Q3.大事なときの勝負飯を教えてください。
「勝負飯は特にありませんが、大切なプレゼンの日は、そのとき持っている中で一番状態のいい下着を身につけて気合いを入れます。」

O4.おすすめの手土産を教えてください。
「撮影現場には日持ちするものしかなかったりするので、冬場のロケにはフレッシュなみかんをダンボール箱ごと差し入れています。」

photo:Hikari Koki text:Moe Tokai

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