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「世界遺産・宮島」が抱える観光・生活の課題にAI・IoTを駆使して挑むプロジェクト―「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開中

「世界遺産・宮島」が抱える観光・生活の課題にAI・IoTを駆使して挑むプロジェクト―「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開中

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世界遺産 嚴島神社を擁する観光名所、宮島。コロナ禍に陥る前には、インバウンド政策を追い風に急激に観光客が増大。人口1500名ほどの島に、世界中から年間450万人もが訪れるほどだった。この状況は島を潤す反面、自動車渋滞の多発、フェリー乗り場や島内の混雑といった、深刻な課題が生まれていた。


▲広島の主要な観光名所である世界遺産・嚴島神社。

NTT西日本 広島支店は、オーバーツーリズムとも言えるこの状況を改善させるべく、廿日市市や宮島観光協会などと連携してコンソーシアムを組成。カメラやセンサーを島の至るところに設置してデータを収集・分析し、混雑状況のリアルタイム情報や予測情報をLINEで発信している。

ひろしまサンドボックスによる「実証実験支援実績特集」の記事第二弾は、”宮島エリアにおけるストレスフリー観光”にフォーカス。世界遺産を擁する観光地ならではの規制、地域住民の巻き込み、コロナ禍の影響など、決して平たんではなかったプロジェクトの道程について、NTT西日本の山本麻祐子氏、大庭俊久氏、阪井勝彦氏、山藤眞氏、高見知美氏、そして廿日市市観光課の田宮憲明氏に話を聞いた。また、本実証事業の中でのひろしまサンドボックスによる様々な支援内容についてもお届けしていきたい。


特設LPにて、「ひろしまサンドボックス」を軸に産学官による9つの実証実験を随時公開!

観光客の増大による渋滞や混雑が深刻な課題に

――実証実験がスタートして3年目、ここまでのストーリーを伺っていきたいと思います。まずはコンソーシアム組成のきっかけを聞かせてください。

NTT西日本・山本氏 : 宮島では国内外からの観光客が急激に増大していることから、混雑など様々な課題が生じていました。私たちNTT西日本にも、広島県の観光課の方から宮島口の交通渋滞緩和についてのご相談をいただいており、IoTを活用して何かできないかという検討をしていたのです。

そしてひろしまサンドボックスが立ち上がったことから、ぜひ参加して、この課題解決に寄与したいと考えました。そこで、廿日市市さんや、宮島観光協会さんとも課題感を共有し、取り組みがスタートしたのです。


▲西日本電信電話株式会社 広島支店 ビジネス営業部 ビジネス戦略部門 主査 山本麻祐子氏/営業担当として、プロジェクト全体の推進や関係各所との調整を担う。

NTT西日本・大庭氏 : IoTのコンサルタントの方にもコンソーシアムに入っていただいて検討を進める中で、データ取得の観点から、宮島口だけではなく宮島島内のデータを可視化させることも重要だという話になりました。NTTではLoRaWANという長距離無線通信の技術があるため、技術フィールドとしてぜひ取り組めないかということで、提案を行いました。


▲西日本電信電話株式会社 広島支店 ビジネス営業部 ビジネス戦略部門 主査 大庭俊久氏/プロジェクトリーダー。実証実験に関わるソリューションの提案を行う。

――廿日市市の観光課としても、ぜひとも解決したい課題だったのですね。

廿日市市・田宮氏 : 宮島は、人口1500人ほどの小さな島です。そこに、ピーク時は世界中から年間450万人以上もの方々が訪れていました。当然ながら、渋滞や島内の混雑、観光地の一極集中という課題が噴出していたのです。こうした課題をデジタルの力で少しでも解決していけたらと考えました。

私は、これまで文化財の保存保護や、国立公園の維持管理など、市職員として、宮島に携わってきました。そこで廿日市市にこの話が持ち込まれた時、担当者として携わることとなりました。


▲廿日市市 環境産業部 観光課 田宮憲明氏/宮島の文化財保存保護、国立公園の維持管理などに関わっていたことから、コンソーシアムに参画。

――実証実験は、どのような計画で進めていく予定でしたか。

NTT西日本・山本氏 : 3カ年の内、1年目はまずデータ収集のために島内にカメラやセンサーを設置することから始まりました。そして2年目はリアルタイムの混雑状況を可視化し、それをLINEで情報発信し、さらには混雑予測をして混雑緩和につなげることを目的としました。そして3年目からは、フィールド実証を実施し蓄積したデータや既存の取り組みを連携し、新たな観光サービスの創出をするという計画を立てていました。


▲本コンソーシアムの構成

宮島をまるごと実証フィールドにするダイナミックなプロジェクト。まさに、“作ってはならす”試行錯誤を繰り返した3年間の歩み

――続いて、実際に3年間の実証実験で、具体的にどのような取り組みを進め、どのような課題に直面したのか伺っていきたいと思います。まず1年目は、データ取得のためにカメラやセンサーの取り付けからスタートしたということですが、スムーズに進みましたか。

NTT西日本・大庭氏 : カメラをひとつ取り付けるだけでも、色々な苦労がありました。宮島は、特別史跡・特別名勝・天然記念物、国立公園として法的規制が厳しく、許認可にかかる申請が必要だったり、設置の仕方にも注意したりしなければなりませんでした。

嚴島神社の混雑状況を把握するために、本当は入り口のポイントにカメラを取り付けかったのですが、規制があるため難しく、少し離れた場所に設置するなど、最適な場所にカメラやセンサーを設置できないこともありました。

NTT西日本・山本氏 : 実証実験を進めるには、市民の方々にプロジェクトの趣旨をご理解いただき、協力していただくことが不可欠でした。しかし、はじめは「商店街は混雑してなんぼ」という声があったり、監視カメラと勘違いされて断られたりすることもありました。

廿日市市・田宮氏 : 宮島は高齢化率40%を超えており、デジタル技術を活用した取り組みには、理解が難しい部分もあり、慎重な姿勢の方が多かったです。そこはNTTさんに趣旨・目的・仕組みなどを粘り強く丁寧にご説明をいただき、市民の方々を一緒に巻き込んでいきました。

もちろん、相当の時間がかかり、厳しい制約もありましたが、最終的には混雑回避のためのデータ取得に必要なカメラやセンサーの設置はできたと思います。これこそ、色々な組織や人がコンソーシアムで一体となって動いたからこその成果だと考えています。


▲長距離通信に優れたIoT向け通信規格「LoRaWAN」を設置し、現地調査を進めた。

――阪井さんはプロジェクトマネージャーとして、どのようなご苦労がありましたか。

NTT西日本・阪井氏 : 当社は通信事業者のため、LoRaWANネットワークを活用したソリューションには実績があったのですが、AIやIoTを絡めた取り組み事例やノウハウはほとんどありませんでした。「ソーシャルICTパイオニア」を掲げるNTTとしては、地元が抱える課題を何とか解決したいという気持ちがあります。

そこで、なんとか社内で交渉を進め、AI分析の専門チームを立ち上げることにしました。それも建て付けが非常に難しく、何度も大阪本社に足を運んで調整をしていきました。


▲西日本電信電話株式会社 広島支店 ビジネス営業部 公共営業部門 課長 阪井勝彦氏/コンソーシアム組成当時のプロジェクトマネージャー。

――現地の宮島ではない場所でも、コンソーシアムメンバーの方々の様々な取り組みがあったのですね。続いて、2年目以降はLINEでの情報発信も始めたということですが、その詳細についても聞かせていただけますか。

NTT西日本・山本氏 : 2年目の4月にLINEアカウントを開設し、設置したカメラからリアルタイムの情報発信を始めました。ここで直面したのは、情報を発信するLINEアカウントを普及させない限りは、混雑緩和という目的は達成されないということです。

そのため、アカウント普及のためのプロモーションを打つことにしました。しかし、なかなか登録数が上がらず、色んなイベントをして、何とか普及させていきましたね。

廿日市市・田宮氏 : ポスターを貼ったり、チラシを配ったり、花火大会や牡蠣まつりの時にはブースを設けて、観光客の方にLINEアカウントの登録を呼びかけたりしました。ローカルメディアにも積極的に露出しました。地元新聞はもちろん、FM廿日市に山本さんと2人で出演したりもしましたね。


NTT西日本・山本氏 : 阪井や大庭にも、ローカルテレビ局の番組に出演してもらいました。IoTやAIを活用した実証実験ですが、その周辺には、こういったアナログな活動が多かったですね。

――蓄積したデータをもとに混雑予測を行うという計画は、スムーズに進みましたか。

NTT西日本・大庭氏 : 駐車場や島内の混雑予測、そして渋滞予測を進めていきました。渋滞予測に関しては、当初はセンサーやカメラのデータではなく、Google APIの取得データを利用しようとしていたのですがデータの二次利用ができないことが分かったことから、我々自身が道路カメラを設置して、そのデータを分析するように方針を変更しました。

NTT西日本・山本氏 : カメラを置く場所がなく、電柱を新しく建てたりもしましたね。関係各所と何度も議論をして、1年くらいかけて宮島口に6台、宮島島内に16台取り付けました。


▲島内にカメラを設置し映像を解析することで、どの程度の滞留が発生しているかをカウントする。

メディアへの情報発信、基礎自治体や連盟とのマッチング機会の提供、ハッカソン開催など、広島県ならではの様々な支援

――ひろしまサンドボックスの支援内容について聞かせてください。

NTT西日本・山本氏 : 3つあります。まずは、資金面です。3年間で10億円という実証実験プロジェクト9つの中の1つに採択されたこと、そして失敗してもいいからとにかくやってみようという環境で試行錯誤ができたことは、本当にありがたいことでした。

2つ目は、メディアへの露出です。LINEアカウントの広報はもちろん、この取り組み自体の取材をいただくことで、様々なところから問い合わせをいただいております。3つ目は、実証実験地となる廿日市市さん、宮島観光協会さんとの出会いをはじめ、様々な企業とのマッチングの機会、新たな出会いの機会をいただけたことです。

NTT西日本・山藤氏 : 広島県観光連盟さんに、本コンソーシアムのバックアップメンバーとしてご支援をいただいています。その引き合わせ、折衝についてもサポートをしていただきました。


▲西日本電信電話株式会社 広島支店 ビジネス営業部 ビジネス戦略部門 担当部長 山藤眞氏/2020年8月より、プロジェクトの責任者を務める。

NTT西日本・阪井氏 : 2019年3月、観光課題や島内の様々な課題に対してICTによる解決案を創出する「宮島Digitalization Hack」と称したハッカソンを、当社主催で開催しました。そこでは、後援に廿日市市さん、広島県さんには協力として入っていただき、大変ありがたかったです。

――新型コロナウイルス感染拡大により、3年目は計画を変更せざるを得ない状況があったかと思いますが、現状について聞かせてください。

NTT西日本・阪井氏 : 我々の取り組みは端的に言うと、「LINEを活用して情報発信をして、それを見てもらい、行動変容を促し、混雑を回避してストレスフリーに観光をしていただくこと」でした。しかし、検証をしてみると、情報を見ただけでは人は動かないということが分かりました。

NTT西日本・山本氏 : そこで、ビーコンを活用した計画を立てていたところで、コロナ禍となってしまったのです。そこで2020年4月の緊急事態宣言下では、LINEを通じて、商店街の店舗や観光スポットなどの記事を投稿して、この状況が変わったら宮島に来ていただけるように情報発信を行いました。

NTT西日本・大庭氏 : 混雑マップは、設置したカメラから顔認証方式で人数を抽出して判定していました。しかし、コロナ禍でマスクを着用する人が増えたことから、混雑度が正確に判定できなくなってしまったのです。そこで骨格認証方式に変え、さらに混雑度を厚生労働省の「新しい生活様式」を基準として表示するようにしました。

――実証実験期間終了後の計画はいかがでしょうか。

NTT西日本・山本氏 : 来年度も継続していくための調整をしている段階です。NTTとしては、データを収集して「見える化」するところまでは実証できましたが、今後はデータを活用するステップに進むべく、引き続き検討していきたいと考えています。

自社単独では決してできない“観光(世界遺産)領域”の取り組みにおける、ひろしまサンドボックスの存在の大きさ。

――最後に、ひろしまサンドボックスの実証フィールドの魅力、これから共創を検討している企業・団体へのメッセージをお願いいたします。

NTT西日本・山本氏 : やはり、様々な企業や人と繋がることができることが、大きな魅力です。やりたいことはあるけれど、自社だけではできないという方は、一緒に実現できるパートナー企業が見つかるかもしれません。

NTT西日本・大庭氏 : 宮島のように、世界遺産を擁する場にカメラやセンサーを設置できるのは、ひろしまサンドボックスがあったからこそだと思います。技術やソリューションの実証フィールドを提供していただき、ありがたかったです。

NTT西日本・阪井氏 : ひろしまサンドボックスの魅力のひとつは、「人との出会い」です。もうひとつは、「チャレンジできる環境を与えられること」です。

失敗しても、またチャレンジすればいいという環境がなければ、スタートアップなどは新しい技術を試すことはできないでしょう。そういったフィールドを探している企業にとって、ひろしまサンドボックスは、一歩踏み出す後押しをしてくれる場となるはずです。

NTT西日本・山藤氏 : 私は3年目の夏からプロジェクトに関わっていますが、この取り組みはNTT西日本単独では決してできないことでした。アフターコロナでは、また全世界から宮島に多くの観光客がお越しになるでしょう。そうなれば、また新たな課題が見えてくるはずです。その解決に向けて、次の実証実験をぜひ実施して、今後に繋げていきたいと考えています。

NTT西日本・高見氏 : 私も山藤と同じく3年目の夏からプロジェクトに携わっていますが、NTTが掲げる社会課題・地域課題解決というビジョンは、1社だけでできることではないと強く感じました。

ひろしまサンドボックスは、自社だけではできないことを、同じ想いを持った「同志」の出会いと共に可能にする場です。課題解決のために様々な企業が力を合わせて取り組むことが、これからの世の中では必要であり、今後もこの営みが続くことを願っています。


▲西日本電信電話株式会社 広島支店 ビジネス営業部 ビジネス戦略部門 担当課長高見知美氏/2020年8月、阪井氏の後任としてプロジェクトマネージャーに就任。

廿日市市・田宮氏 : 行政の立場で民間企業とお付き合いをする時、大抵は委託・受託の関係です。しかし、ひろしまサンドボックスでは、コンソーシアムメンバーはフラットな関係のもと、胸襟開いて議論を交わすことができることに魅力を感じました。

また、地域づくりや観光地の魅力向上、受け入れ環境の整備といった行政課題は、おそらく行政機関単独ではもはや対応できなくなっています。そこで、様々なスキルを持った企業、団体、人材がコンソーシアムメンバーとして集うことにより、行政単独では決して生み出せないアイデアが生まれてくると感じました。

さらには、ひろしまサンドボックスは失敗してもまたチャレンジすればいいという場であることから、心理的なリミッターを外すことができ、自由な取り組み、前向きな姿勢で取り組むことができるはずです。


※eiicon companyがオンラインで開催する日本最大級の経営層向けオンラインカンファレンス「Japan Open Innovation Fes 2020→21」にて、スペシャルセッション「オープンイノベーション3.0 産官学連携から見えるみらいのカタチ featuringひろしまサンドボックス」を開催[2/26(金)12:30-13:40]。「ひろしまサンドボックス」を牽引する広島県知事・湯﨑氏をはじめ、9つの実証プロジェクトを代表する担当者がそれぞれの成果をプレゼンします。ぜひ、オンラインでご視聴ください。

視聴方法やスケジュールなど詳細はこちらをご覧ください。 https://eiicon.net/about/joif2020-21/  


▲スペシャルセッションの詳細はこちら▲

取材後記

「広島県を丸ごと実証フィールドに」する、ひろしまサンドボックス。この宮島エリアストレスフリー観光実証実験は、まさに宮島をまるごと実証フィールドにするダイナミックなプロジェクトだ。現在はコロナ禍で、訪れる人の数も減少しているが、また世界中で人が自由に行き来できる状況は必ず来る。特にアフターコロナでは人との距離も重要な情報になることから、こうしたリアルタイムの混雑状況、そして予測情報というのは、多くの人々に求められる情報だろう。

(編集:眞田幸剛、取材・文:佐藤瑞恵、撮影:古林洋平)

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シリーズ

「ひろしまサンドボックス」共創事例

【共創事例】「ひろしまサンドボックス」は、AI/IoT実証プラットフォームです。技術やノウハウを持つ広島県内外の企業や人材を呼び込み、様々な産業・地域課題の解決をテーマとして、共創で試行錯誤できるオープンな実証実験の場を構築。本企画では、様々な実証事例を取材形式でお届けし魅力に迫ります。