共同開発
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昨今では企業の生き残りをかけて、「共同開発」に取り組むケースが多く見られる。ただし、共同開発には魅力がある反面で、深刻なリスクも潜んでいるため要注意だ。共同開発を検討中の経営者は、不利益を被らないように正しい知識や情報を身につけていこう。

目次

  1. 共同開発とは?今注目される理由と重要性
    1. 共同開発の費用負担と成果の帰属はどうなる?
  2. 共同開発のメリット
    1. 1.開発スピードを急激に速められる
    2. 2.コストやリスクを分散できる
    3. 3.知的財産権の権利者になれる
  3. 共同開発のデメリットやリスク
    1. 1.利益や権利を独占できない
    2. 2.情報漏えいのリスクがある
    3. 3.技術やノウハウの転用リスクがある
  4. 共同開発には思わぬ落とし穴もある?知っておきたい成功・失敗の事例
    1. 共同開発の成功事例
    2. 共同開発の失敗事例
  5. 共同開発契約書を交わすときのポイント
    1. 1.「業務負担の割合」と「共同開発の期間」を明確にする
    2. 2.権利・義務にかかわる部分は慎重に
    3. 3.専門家に相談をしておく
  6. 共同開発の契約関係は、妥協しない姿勢が重要

共同開発とは?今注目される理由と重要性

共同開発とは、複数の企業が協力関係を築いて新製品や新技術を開発することだ。資本提携や販売提携と同じく、いわゆる「企業提携」のひとつに含まれる。

共同開発と聞くと大企業をイメージするかもしれないが、近年では中小企業やベンチャー企業などが共同開発契約を結ぶケースも珍しくない。共同開発に参加する団体の中には、大学のような研究機関もいくつか見受けられる。

このように、共同開発に注目が集まりつつある要因としては、「市場環境の変化」が大きい。現代社会では、プロダクトライフサイクル(製品が市場から衰退するまでの期間)が短命化してきているため、単独の力では生き残れない企業が増えてきているのだ。

昨今ではそのような企業同士がそれぞれの強みを活かし、共同開発契約を結ぶようなケースも多く存在している。つまり、共同開発は生き残りをかけた戦略となり得るため、技術力や開発力に悩みを抱えている中小経営者は、これを機にしっかりと基礎知識を身につけておきたい。

共同開発の費用負担と成果の帰属はどうなる?

経営者が共同開発を検討するにあたって、特に気になるポイントが「費用負担」と「成果の帰属」の2点だろう。

費用負担については、共同開発に参加する各企業が納得できる形をとるケースが一般的だ。たとえば、業務負担に基づいて費用負担の割合を決めれば、公平性を保った形での共同開発を実現できる。

では、知的財産権などの成果については、どの企業のものになるのだろうか。成果の帰属はケースによって異なるが、貢献した割合に応じて利益が配分されるような形をとれば、費用負担と同じく公平性を保った共同開発となる。

後述でも解説するが、費用負担と成果の帰属は契約内容によって変わってくるため、契約書の内容はしっかりと確認しておきたい。

共同開発のメリット

ここからは、共同開発のメリット・デメリットについて解説していく。まずは、多くの共同開発に当てはまる3つのメリットを紹介していこう。

1.開発スピードを急激に速められる

開発スピードを急激に速められる点は、共同開発の最大のメリットとも言えるポイントだ。共同開発では、お互いの強みとなる経営資源を共有しながら研究・開発を進めていくため、スピーディーな開発を実現できる。

流行の移り変わりが激しい現代では、開発期間の長期化は致命的な弱点になってしまう。たとえば、製品に関して優れたアイディアを思いついても、開発スピードが他社より劣っている場合には、先を越されてしまう可能性があるだろう。

他社に先を越されると費用も時間も無駄になるため、企業にとって開発スピードを速められる意味合いは非常に大きい。

2.コストやリスクを分散できる

開発にかかるコストを分散できる点も、共同開発ならではのメリットだ。共同開発では、参加企業の間で開発費用を分担するため、必然的に1社あたりのコスト負担が抑えられる。

また、コストの負担が小さくなれば、開発に万が一失敗したときのリスクも分散できる。開発が失敗したときのダメージは非常に大きいため、開発リスクを抑えられる点は想像以上に大きなメリットになるだろう。

3.知的財産権の権利者になれる

共同開発によって生み出した知的財産は、それぞれの共同開発者が権利者として実施権を得ることになる。たとえば、共同開発によって独自の技術が生み出されれば、その技術の特許権の権利者になることが可能だ。

特許権などの知的財産権は、活用次第で大きな利益につなげられる。

共同開発のデメリットやリスク

共同開発には魅力的なメリットがある反面で、注意するべきデメリットやリスクも潜んでいる。メリットだけに注目していると、契約を結んでから深刻な事態に陥りかねないため、以下で紹介するデメリット・リスクもしっかりと確認しておこう。

1.利益や権利を独占できない

前述でも触れた通り、共同開発では参加企業と利益や権利を分け合う形になるので、収益などを独占することはできない。各企業の貢献度が同じであれば、利益や権利を分け合っても公平性を保てるが、ケースによってはこの点が深刻なデメリットになることもある。

たとえば、自社の力だけで技術開発に成功したとしても、共同開発契約を結んでいる以上は、利益や権利を契約通りに分け合う形となる。つまり、ほかの企業の貢献度が低い場合は、本来得ていたはずの利益や権利の一部を失うことになるだろう。

2.情報漏えいのリスクがある

綿密な連携をとる共同開発では、お互いの企業の距離感が近づく分、どうしても情報漏えいのリスクが高まってしまう。仮に自社の機密情報が洩れると、将来的に経営を脅かされてしまう恐れがあるので、情報の取り扱いには細心の注意が必要だ。

一般的な共同開発では、このようなリスクを抑えるために「秘密保持契約」を結ぶケースが多い。特にお互いの重要事項を共有するような共同開発では、契約書の内容にも強くこだわる必要がある。

3.技術やノウハウの転用リスクがある

共同開発では、自社の開発体制を公開したうえで開発が進められていくため、技術やノウハウが転用される恐れがある。特に自社のほうが優れた開発体制を築いている場合には、パートナー企業が「できるだけ良い部分を盗もう」と考える可能性が高いので注意が必要だ。

仮に技術やノウハウが流出すると、将来的にパートナー企業が「競合」になる恐れがある。その結果、自社の市場での優位性が損なわれることも十分に考えられるので、共有する技術・ノウハウの範囲については慎重に検討することが重要だ。

共同開発の主なメリット共同開発の主なデメリット
・開発スピードを急激に速められる
・コストやリスクを分散できる
・知的財産権の権利者になれる
・利益や権利を独占できない
・情報漏えいのリスクがある
・技術やノウハウの転用リスクがある

中小企業にとって共同開発は貴重な生き残り戦略となり得るが、場合によっては深刻なリスクに直面する可能性もある。少しでもリスクを抑えるには、上記のデメリットをしっかりと理解したうえで、パートナー企業や契約内容を慎重に検討しなければならない。

共同開発には思わぬ落とし穴もある?知っておきたい成功・失敗の事例

共同開発のイメージをもう少しつかむために、ここからは共同開発の成功事例・失敗事例をいくつか見ていこう。

共同開発の成功事例

まずは、共同開発の成功事例を2つほど紹介する

○共同開発の成功事例①
航空会社のAeroTEC社と電気飛行機用モーターメーカーのmagniX社は、共同開発によって電気のみで稼働する航空機「eCaravan」を開発した。2020年5月28日にはテストフライトにも成功しており、「空飛ぶタクシー」の実現化の第一歩として、同事業は世界中から注目を集めている。

この共同開発は、航空機をAeroTEC社が、電気エンジンをmagniX社が提供するという非常に分かりやすい構図の成功事例だ。お互いの技術力をうまく共有し合い、見事に新技術の開発を実現している。
○共同開発の成功事例②
米国アリゾナ州で設立されたLocal Motors社は、未来型自動車の共同開発に取り組むために、自動車愛好者や設計者などとコミュニティを形成した。このコミュニティには、ほかにもエンジニアやデザイナー、加工業者などが参加している。

共同開発者が多いと、思わぬ混乱やトラブルが発生する可能性も高まるが、この共同開発ではコミュニティ内での投票によってプロジェクトを決めることで公平性を保っている。その後、Local Motors社は第一号市販モデル「ラリーファイター」を開発し、すでに公道を走るための認可も受けている。

上記の成功事例のように、不足している技術・ノウハウを補い合う形で共同開発契約を結べば、中小規模の事業者でも新しい技術を生み出せる。また、プロジェクトの決め方・進め方に工夫をとりいれることで、共同開発の公平性を保っている点も参考にしておきたいポイントだ。

共同開発の失敗事例

共同開発のコツを押さえるには、失敗事例にも目を通しておくことが重要だ。失敗から学べることは数多くあるので、以下の失敗事例にもしっかりと目を通しておこう。

○共同開発の失敗事例
最先端のロボットを開発するために、中小事業者のA社は大手企業のB社と共同開発契約を結んだ。しかし、共同開発は思ったように進まず、数年が経過したところで契約関係を解消。

さらにその数年後、大手B社は最先端のロボットを販売し、この製品が瞬く間に大ヒットを遂げる。A社がこのロボットについて調べてみたところ、自社のコア技術が知らないうちに使われていた。

上記のような技術・ノウハウの転用は、共同開発においては起こりがちなトラブルのひとつ。契約関係の解消から数年が経過していると、仮に専門家に相談をしても「時すでに遅し」といった回答が返ってくることもある。

そのため、秘密保持や競業禁止規定などの契約関係は、特に慎重に確認しなければならない。

共同開発契約書を交わすときのポイント

共同開発における混乱やトラブルを避けるには、契約書の内容にこだわる必要がある。そこで最後に、共同開発契約書を交わすときのポイントを解説していこう。

1.「業務負担の割合」と「共同開発の期間」を明確にする

業務負担の割合は、共同開発の公平性に関わってくる要素だ。コストや利益の割合にも影響するので、各共同開発者の業務負担は細かい部分まで決めておこう。

また、共同開発の期間が無制限になっていると、研究開発が事実上終わっているにも関わらず、製品・技術の権利を主張される可能性がある。このようなトラブルを回避するために、共同開発の「契約期間」についても明確にしておきたい。

2.権利・義務にかかわる部分は慎重に

知的財産権や情報管理など、権利・義務にかかわる部分は特に慎重に決める必要がある。具体的な条項としては、主に以下の3つが挙げられるだろう。

権利・義務にかかわる主な条項概要
・秘密保持義務特定の情報を、外部に漏らさないための条項
・目的外使用禁止義務技術やノウハウの使用範囲を定めることで、サンプルの流用などを防ぐための条項
・競業禁止規定第三者との同一テーマでの共同開発を禁止するなど、自社にとって競業になる恐れがある事態を防ぐための規定

秘密保持契約や共同開発契約は、ただ締結するだけではリスクを抑えられない。情報漏えいなどのリスクを確実に抑えるには、対象に含まれるものや範囲を明確にするなど、内容にしっかりとこだわることが重要だ。

3.専門家に相談をしておく

共同開発にはさまざまな権利・義務が関わってくるので、素人同士でベストな開発体制を築くことは難しい。したがって、共同開発の話が持ち上がったときには、特許事務所や弁護士事務所などの”専門家”に相談することをおすすめする。

なかでも弁護士は権利関係のスペシャリストと言える存在なので、契約に関するさまざまなアドバイスをもらえるはずだ。たとえば、契約前に契約書を確認してもらうだけで、不利な立場になることをしっかりと防げる。

相談時のコストは発生するが、契約後のリスクを大きく抑えられると考えれば、無駄なコストにはならないだろう。

共同開発の契約関係は、妥協しない姿勢が重要

共同開発は生き残りをかけた戦略となり得るが、秘密保持契約や共同開発契約の内容次第では、逆に深刻な事態を招いてしまうこともある。特に権利・義務に関するトラブルは発生しがちなので、その点を強く意識して契約内容を考えなくてはならない。

パートナー企業と普段から良好な関係を築いていても、権利・義務が関わった途端に関係が悪化する可能性も十分に考えられるため、契約内容については妥協しないことを心がけよう。

著:片山 雄平
1988年生まれのフリーライター兼編集者。2012年からフリーライターとして活動し、2015年には編集者として株式会社YOSCAに参画。金融やビジネス、資産運用系のジャンルを中心に、5,000本以上の執筆・編集経験を持つ。他にも中小企業への取材や他ライターのディレクション等、様々な形でコンテンツ制作に携わっている。
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