第一線で活躍するヒーローたちの「仕事」「挑戦」への思いをつづる
Vol.84俳優 平岡祐太
反骨精神で進んできた芝居の道
Heroes File Vol.84
掲載日:2012/9/28
爽やかな笑顔が印象的な俳優・平岡祐太さん。しかし中身は意外に骨太で勇ましい。デビューから9年。様々な映画やドラマ、舞台で活躍しているが、最近になってさらに役者という仕事が面白くなってきたと言う。その真意を伺った。
Profile
ひらおか・ゆうた 1984年生まれ。2002年ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞。04年映画『スウィングガールズ』で第28回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。現在、映画『人生、いろどり』がシネスイッチ銀座ほか全国で上映中。10月からドラマ「TOKYOエアポート ~東京空港管制保安部~」に出演。
やりたいことが人生を彩る
「年なんて関係ない。自分のやりたいことが見つかれば、人生はこんなにも豊かになるんだと教えられました」
平岡さんがそう語るのは、映画『人生、いろどり』のこと。過疎地に暮らすおばあちゃんたちがビジネスを成功させた実話ベースの物語だ。平岡さんはその仕掛け人でもある農協職員を演じた。おばあちゃんたちの働きを傍らからそっと見守る優しい好青年の役柄が、おのずと自身のほんわかとした雰囲気と重なって見える。だが、意外に攻めの人である。
10代後半、ギタリストを目指して上京。昼間は音楽の専門学校へ通い、夜はひたすら自宅でギターを練習した。しかし、ある時ふと思った。「このままずっと一人の世界で引きこもっていては、人生腐ってしまう。もっと外へ向けて何かしないとマズイ」と。
そこで応募したのがジュノン・スーパーボーイ・コンテスト。「何となく聞いたことがある」くらいの感覚で受けたら、何とグランプリ獲得。だが、その瞬間もピンとこなかった。「いやあ混戦でしたね」と他人事(ひとごと)のようにコメント。それぐらい実感がなかったと言う。
「その後、事務所が決まり、役者をやってみたらと勧められるまま、この世界へ入ったわけです。ただ、そこからが大変でした。映画やCMのオーディションにことごとく落ちまくり、全然出演が決まらなかったんです」
『スウィングガールズ』で全てが始まった
悔しくて、自己を鼓舞するような啓発書も読みあさった。そんな中、初めて合格したのが映画『スウィングガールズ』だった。
「ああ、ようやく始まったという感じがしたのを覚えています。撮影中はとにかく必死で、自分の出番になる度にびびっていたのですが、現場の雰囲気はすごく好きだなと思ったし、そこに居ることが楽しくてたまらなかった。だから、ここでまさに役者でやっていこうという覚悟が自分の中にできたんだと思います。ラッキーなことに、ドラマ『WATER BOYS 2005夏』を始め次々にいろんなドラマや映画にも出演させてもらえました」
しかし続けていく中で、また新たな葛藤や苦悩が平岡さんを襲ってきた。
「雰囲気はいいんだけど芝居がよくないね、下手だねと言われることも多かったんです。悔しかったですが、同時にそこでまた危機感を持って何とかしなくちゃと思い、先輩の芝居を観(ひ)たり、映画を観まくったりして勉強しました。何かそういうことの繰り返しでここまできたような気がします」
同時に、オフは思い切り遊んだ。普段の生活を充実させないと面白い芝居もできないと思ったからだ。
「椅子に座るな」が教えてくれた役者の居方
平岡さんが映画デビューして間もない頃のことだ。撮影中、カメラマンに「お前ごときが現場で椅子に座るな。高倉健さんだって座らないんだ」と怒鳴られたことがあった。
「その言い方に腹が立ち、けんかみたいになったのですが、あの時、ガツンと言われたことは今でも僕の中に強く残っています。椅子に座ることがいい、悪いではなく、現場とは何かということ、役者はどういう姿勢で現場に臨むべきかということを『椅子に座るな』という言葉で教わりました」
現場では、できる限り先輩たちの芝居を観(み)るようにしている。「映画『人生、いろどり』では吉行和子さんや藤竜也さんという先輩方と共演させて頂いたのですが、スクリーンで見ると、そこに居るだけでとても存在感がある。しかも、生き方や培ってこられたものもそのままにじみ出ていて、ああ、こういう俳優になりたいとしみじみ思いました」
だからこそより一層、役者は遊び方一つでも侮れない、普段の生き方を大事にしないといけないなと思ったという。
最初はギタリスト志望だった平岡さんだが、コメントの随所から、今は役者一筋であることがひしひしと伝わってくる。実際、役者という仕事が楽しくてたまらないと語る。
「少し前までは、音楽をやったり、自分で脚本を書いたりもしていたのですが、どうもうまくいかなかった。たぶん気持ちが中途半端だったから。それもあって、新しいことに手をつけるのではなく、自分がいる場所=役者という部分で、もっと先に進んでいくことをしていこうと決めました」。何よりどんどん映画が好きになっている。その気持ちに従って突き進みたくなっているそうだ。
焦っている時こそチャンス
それでもつらいことはある。「そんな時は先輩方の経験談を聞いたり、あるいは、なりたい自分へ引き上げるため、ちょっと背伸びをして高価な腕時計を買ってみたりします。モノの力に頼っていて少々恥ずかしいのですが(笑)」
ただ、「何とかしなくちゃ」と土壇場に立たされた時の方が、案外すごい力が出るものだと平岡さんは言う。「物事がスムーズに進んで、これはイケると思っていると、意外に足をすくわれてイケなかったりするから危ない。だから、ちょっと焦ってヤバイなと感じたら、これはチャンスなんだと思うようにしています」
いろんな役に挑戦する度、課題に直面し、苦しむ。でも、それによって新しい自分を開拓できることこそ役者の喜びだと言う。草食系に見えるが芯は強く太い。まだまだ大きく変貌(へんぼう)していきそうな気配だ。
ヒーローへの3つの質問
現在の仕事についていなければ、どんな仕事についていたでしょうか?
スタジオミュージシャンですね。
人生に影響を与えた本は何ですか?
デビュー当時に読んだ『質問力 話し上手はここがちがう』(斎藤孝著)。もともとコミュニケーションが得意ではなかったので大変勉強になりました。最近だと『ジェノサイド』(高野和明著)と『おおきな木』(シェル・シルヴァスタイン著、村上春樹翻訳)にすごく刺激を受けました。
あなたの「勝負●●」は何ですか?
気合を入れたい仕事の前はたいていジムへ行っています。
Infomation
四国で一番小さな町で起こった「奇跡」の実話
映画『人生、いろどり』
典型的な過疎地である徳島県・上勝町の農協職員が、山で採れる葉っぱを料理の「つまもの」として販売することを発案し、70代80代の女性たちを主戦力に事業を起こした結果、年商2億円以上を稼ぎ出すビッグビジネスに成長した。そんな実話を基にして作られた映画『人生、いろどり』。幼なじみの女性3人が、事業を通して夫婦と親子の情愛や、女性同士の友情を見つめ直す感動作。
映画『人生、いろどり』
シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
監督/御法川修 プロデューサー・脚本/西口典子
出演/吉行和子、富司純子、中尾ミエ、平岡祐太、村川絵梨、藤竜也ほか
公式サイト/http://www.irodori-movie.jp