遊川和彦新ドラマ『となりのチカラ』1話。優柔不断な松本潤が「ご近所付き合い」を再生する

『女王の教室』『家政婦のミタ』(ともに日本テレビ系)などヒットドラマを多数手がける脚本家・遊川和彦がマンションの住民たちのコミュニティを描く話題作。松本潤がちょっとたよりないパパ役として奮闘する姿にSNSが沸いた1話を考察します。

遊川和彦脚本、演出の新ドラマ『となりのチカラ』がスタートした。
漫画や小説など、原作付きのドラマが多くなっている中、遊川はだいたい年1本ペースでコンスタントにオリジナル脚本の連続ドラマを発表している、数少ない脚本家の一人だ。
ただ、本人・ドラマともに、良くも悪くもクセが強いため、ドトウの展開で視聴者の心をガッシリわしづかみにしたかと思えば、身も蓋もないぶん投げ最終回で大炎上することもしばしば。

そんな遊川が脚本だけでなく、自らチーフ演出も務める『となりのチカラ』。嵐の松本潤が主演ということでも話題だが、遊川ファンとしてはやはり、『GTO』(フジテレビ系)『魔女の条件』(TBS系)『家政婦のミタ』(日テレ系)と遊川ドラマの常連だった松嶋菜々子が久々に登場するということにも注目したい。
どうやら遊川さん、今回のドラマにかなり気合が入っていそうだ。

「ご近所付き合い」の再生

遊川ドラマでは、これまで繰り返し「破綻したコミュニティの再生」を描いてきた。
現代社会の問題を反映した夫婦や家族、学校、会社……。そこに、やや特殊な能力を持った主人公が入り込んで、「家族はこうあるべきだ!」「会社の仲間はこうあるべきだ!」と人間関係を引っかき回していく。
……まあその結果、コミュニティが再生しないまま終わってしまうケースもあるのが遊川ドラマの恐ろしいところなのだが。

そして今回『となりのチカラ』で再生しようとしているのは「ご近所付き合い」ということになるだろう。
主人公・中越チカラ(松本潤)の家族が、都内のあるマンションに引っ越してくるところからドラマはスタートする。

「人々は今、その気になれば、どんな情報もすぐ知ることができると思っている。……が、いつまでたってもほとんど知らないことがひとつある。それは隣の人のことだ」

ナレーションの言う通り、今時、隣近所との付き合いなんてほとんどない。
引っ越し直後にあいさつくらいはしたとしても、その後の交流は一切ナシ。ヘタに関わると、厄介なご近所トラブルに巻き込まれるのがオチ。
子どもたちは名札を隠して防犯ブザーを常備。大人の方も、要らぬ疑いをかけられぬよう、知らない子どもには関わらない、声をかけない。
これが現代のご近所付き合いだ。

女児に声かけするシーンにゾワゾワするが……

ところがチカラは、気弱で優柔不断なわりに、関わらなくてもいいご近所のことに首を突っ込まずにはいられないという、少々厄介な癖を持っている。
一人ブランコに座っている女児に声をかけようか、かけまいか悩んだり、隣室から叫び声が聞こえてきたと強引に玄関を開けさせて駆け込んだり。しまいには、マンションの向かいのカフェに陣取って各部屋をのぞき見する始末。

ビジュアルが松本潤だからギリギリ成立しているものの、現代の感覚からすると、どれも即・通報モノのヤバイ行動だ。特に、女児に声かけしているシーンは、「ええーっ、いいの!?」と見ていてゾワゾワしてしまった。

しかし、こういう視聴者の感情こそが、遊川和彦が指摘したい問題なのだろう。
さびしそうにしている女児がいたら声をかけてもいいし、隣に虐待の疑いがあれば無理やり首を突っ込んでも当然。のぞき見……はちょっとどうかと思うけど。
そんな古き良き「ご近所付き合い」を再生したい、そんな思いがうっとうしいまでに伝わってくる。

601号室は「少年A」

管理人は「ここの人は、みんないい人ばっかりですから」と言っていたが、チカラたちの住むマンションは、相当な問題を抱えていそうな住人ばかり。
各部屋の住人を紹介しておこう。

402号室 高校生・柏木託也(長尾謙杜)とその祖母・柏木清江(風吹ジュン)。清江には認知症の気配が……。

404号室 占いにハマっている怪しげな女・道尾頼子(松嶋菜々子)。全身、その日のラッキーカラーでそろえている。

303号室 マリア(ソニン)はじめ、アジア系の女性数人で住んでいる。不特定の男が出入りしているようだ。

601号室 連続幼児殺人事件の犯人・少年Aとうわさされる謎の男・上条知樹(清水尋也)。

どの部屋も濃厚だが、やはり601号室が……。
上条知樹が少年Aであったとしても、ただそういううわさを流されているだけだとしてもキッツいマンションだ。

彼らを相手に、お節介なだけの男・チカラが「ご近所」再生に挑むわけだが……少年A事件なんて、とても手に負えそうにない。

上戸彩と松嶋菜々子の絡みにも期待

そして、チカラ自身の家族もクセが強い。
娘・愛理(鎌田英怜奈)は、あらゆることを数字に換算して会話をする。息子・高太郎(大平洋介)は手旗信号で下ネタを披露することに情熱を燃やしている。

何より上戸彩演じる妻の中越灯という名前。
『家政婦のミタ』で松嶋菜々子が演じた家政婦・三田灯とかぶってくる。

今のところ、妻・灯はチカラのサポート役的な描かれ方しかしていないが、この名前を付けられたからには、何か重要な役割があるのは間違いないだろう(松嶋菜々子との絡みにも期待!)。
濃厚な住人ばかりで要素盛り盛りの上、自身の代表作オマージュまで入れてくる気合の入りよう。
気合が入りすぎてずっこけないよう最後まで見届けたい。

『となりのチカラ』

■テレビ朝日系 毎週木曜夜9時〜
出演:松本潤、上戸彩、小澤征悦、映美くらら、風吹ジュン、松嶋菜々子 他
脚本:遊川和彦
音楽:平井真美子
主題歌:上原ひろみ『上を向いて歩こう』
演出:遊川和彦、本橋圭太、竹園元、松川嵩史 他
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)
チーフプロデューサー:黒田徹也(テレビ朝日)

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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