「男性として生きると決めた」中山咲月さんがトランスジェンダーでアセクシャルであることを公表した理由

9月17日に発売されるフォトエッセイ『無性愛』(ワニブックス)で、トランスジェンダーでありアセクシャル(無性愛者)であることを告白した、俳優の中山咲月さん。セクシャリティに悩み、苦しんでいた時期を振り返り、公表に至るまでの経緯やきっかけを聞きました。
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きっかけは親友のひと言。「もっとわがままに生きていい」 

2021年は自分にとって激動の年になりました。と言っても、本当に最悪のスタートで、人生で一番つらくて、毎日、本気で苦しんでいて……。今振り返っても、本当に危ない時期だったと思います。

なぜ、そんなに悩んでいたのかというと、今年の初めに生田斗真さん主演の映画『彼らが本気で編むときは、』を見て、「自分もトランスジェンダーなんじゃないか」と気づいてしまったから。でも、これは思い違いかもしれないと、1カ月ほどモヤモヤとした気持ちを抱えていました。その間もブログを書いては消してを繰り返して……。ようやく2月に、意を決して自分がトランスジェンダーでアセクシャルであることを告白しました。

背中を押してくれたのは、ルームメイトの親友です。「死ぬぐらいなら、全部言ってみたら。もっとわがままに生きていい」と言ってくれました。自分の人生を分かってくれた上でアドバイスをしてくれて、その言葉に涙が溢れました。親友は命の恩人です。

ブログで公表した時は、どちらかというと、世間からどう思われるかよりも、これしか道がない状態でした。しばらくして冷静になった時も、自分を抑えつけて苦しんでいた状態より、ネガティブな意見が来るかもしれないけれど公表する方を選んで、間違いではなかったと思いました。ちょうどその頃に、今回の写真集のお話をいただきました。

苦しかった頃の気持ちを隠さず書いた

自分の意思が固まったタイミングで写真集のお声がけいただいたので、これは絶対にみんなにちゃんと話したいなと思いました。でも、どうやって伝えたらいいのか……。そこで思い出したのが、これまで書き溜めていた言葉でした。

昔から、自分の中の違和感や納得していないことがあると、次の日に持ち越したくなくて、自分自身を見直す時間を取るようにしてきました。自分の中にある違和感を「まあ、いいか」で終わらせないことをルールとして決めているのです。

スマホのメモ帳は、感情をはき出す場所として、その時の思いを残しています。だから、その書き溜めてあった言葉からいくつかを抜粋して、フォトエッセイという形で出したいと提案しました。苦しかった頃の気持ちを隠さず書いたものなので、かなり生々しい内容になっているかも。でも、今の自分にしかできないものなので、できあがりに満足しています。

振り返ってみると、息苦しさから脱却したくて、いつも自分探しをしていました。「本当の自分とは」「自分が苦しまない方法とは何だろう」という答えを見つけるために苦しんでいたのです。この時期がなければ、今の自分はないと断言できるぐらい大切な時間だったと思います。 

あたたかかったファンの方の言葉

公表後はファンの方の反応に身構えていましたが、「知ってました」と言ってくれたり、「そうなんだ!」ぐらいの感じの方が思ったよりも多くて。ネガティブなことを言われることもなく、自分が怯えているほど世間は閉鎖的ではないんだなということも分かりました。何事も一歩踏み出してみないと分からないことがありますよね。

ファンの方たちが先に気づくぐらい、セクシャリティを受け入れられない時間が長くありました。自分自身にウソをついていた期間がすごくあったな、と。きっかけになった映画を見るよりも前に、気づくきっかけはたくさんあったのに、その度に気のせいだと無意識に自分に言い聞かせ続けてきました。だから、こんなに長い時間がかかってしまった。

これからは自分のために生きていく

フォトエッセイにも書きましたが、「死にたいと思った時に、自分のために生きてみよう」と決めました。今までは、周りの空気を感じ取ってしまったり、相手が心の中に抱えている気持ちにいち早く気がついて、その人がいちばん心地いいと思えるようにしたりして、生きていました。いつの間にか、自分と向き合う時間がなくなってしまうほど。誰かのために一生懸命やっても、それが返ってくることは、ほとんどありません。自分の中の“心の容量”を分け与え続け、気づいた時にはゼロになっていたのです。

生きていかれないかもしれないと思った時に初めて、自分を愛してあげる時間が少なかったと気づきました。これからは、自分のために生きなければいけない、今はそう思って過ごすことができています。ファンの方たちや周りの人たちのサポートのおかげで、徐々に“心の容量”が増えてきて、半分くらいは埋まってきたかなと感じています。

■中山咲月(なかやま・さつき)さんのプロフィール
1998年917日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。2021年、日本の結婚観に一石を投じたオンライン演劇「スーパーフラットライフ」に出演した。自ら手がけるブランド「Xspada」も人気。

『無性愛』

著者:中山咲月
発行:ワニブックス
価格:3,080円(税込)

「わかり合うための1.5歩の勇気」中山咲月さんが考える、生きやすい世の中の作り方
年間70回以上コンサートに通うクラオタ。国内外のコレクションをチェックするのも好き。美容に命とお金をかけている。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。