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井村幸治
2016年11月11日 (金)

「卓越風」ってなに? 風を味方につける住まいづくりのコツ

「卓越風」ってなに? 風を味方につける住まいづくりのコツ
写真/PIXTA
木枯らしの季節がやってきた……。冬場の強風はできれば避けたいものだけど、夏場には恋しくなるのが涼風だ。風を味方にできれば住まいはもっと快適になるかもしれない。そのカギを握る「卓越風」について調べてみよう。

あるエリア、ある期間に最も頻繁に吹く風が「卓越風」

先日、兵庫県明石市の住宅建設会社を訪ねた際に「播州は南風がよく吹くエリアなので、南側に風を取り入れる開口部、北側に風の抜け道となる開口部をつくるように設計します」という話をお聞きした。筆者は毎日の風向を確認している風フェチでもある。そこで思い出したのが「卓越風」という言葉。皆さんはご存じだろうか?

気象庁のサイトには「卓越風向」という用語の解説があり、「ある地点で月ごと、または年間を通して一番吹きやすい風向」と書かれている。あるエリアで、ある期間に最も頻繁に現れる風向きの風を「卓越風」と呼ぶのだ。東北地方で夏場に吹く「やませ」、冬場に関東地方で吹く「空っ風」、「六甲おろし」や「赤城おろし」など独特の名前が付けられた局地的な風も、卓越風の一種と考えることができる。

注目したいのは、こうした特有の名前が付けられていなくても、それぞれの地域ごと、季節ごとに「卓越風」があるということ。

地域ごとに月別の風向を示した、とても面白い気象データがある。「一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構」が自然風の利用・制御の参考資料として公表しているもので、都道府県別にそれぞれの主要都市の風向データをチェックできる。

【画像1】明石の月別風配図(風向ごとの出現頻度を表したもの)。(出典/一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構ホームページ 自立循環型住宅への設計ガイドライン 3.1自然風の利用・制御の参考資料)

【画像1】明石の月別風配図(風向ごとの出現頻度を表したもの)。(出典/一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構ホームページ 自立循環型住宅への設計ガイドライン 3.1自然風の利用・制御の参考資料)

【画像2】同じく明石の開口面設置に適した方位の判定表(出典/一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構ホームページ 自立循環型住宅への設計ガイドライン 3.1自然風の利用・制御の参考資料)

【画像2】同じく明石の開口面設置に適した方位の判定表(出典/一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構ホームページ 自立循環型住宅への設計ガイドライン 3.1自然風の利用・制御の参考資料)

同じ県内や隣接エリアでも「卓越風向」が違うケースは多い!

この風向データは自然風の利用によって冷房エネルギー削減を考えるための資料として作成されているため、特に注目したいのは夏場の風向だ。また、起居時(7時〜23時)と就寝時(23時〜7時)では、海風と陸風の影響を受けて風向が逆となる地域も多いことから、特に熱のたまりやすい起居時の風向に注目する必要がある。

冒頭で例示した兵庫県播州地方の主要都市「明石」のデータを見ると、夏場の起居時には南寄りが「卓越風向」だということが分かる。また「開口面設置に適した方位の判定表」を見ると二重丸がつけられているのは南南西、南、南南東になっており、「南に開口部を設ける」という冒頭の話が、自然風を利用することを考えると理論的にも正しいことが分かる。

この風向表を見ると、同じ県内や隣接する地域でも卓越風向は微妙に違っているのが分かる。兵庫県と大阪府での「開口面設置に適した方位の判定表・起居時」の二重丸風向を挙げてみると……
 ●姫路⇒南南東、南、南南西、南西
 ●明石⇒南南東、南、南南西
 ●神戸⇒南西、西南西、西
 ●大阪⇒北北東、北東、南西、西南西、西
 ●堺⇒西南西、西、西北西
 ●枚方⇒東

姫路や明石では南寄りだが、神戸や大阪では西寄りになり、堺ではさらに西北西も範囲に入ってくる、内陸部の枚方になると真逆の東となるのだ!

「卓越風」を味方につける住まいづくりのポイント

では、こうした卓越風を取り入れて快適な住まいを手に入れるためにはどうすればいいのか?
「自然とつくる環境共生住宅」をテーマとした活動している「一般社団法人環境共生住宅推進協議会」が発行する冊子「風の5カ条」から、家の中に上手に風を導くヒントを抜粋して紹介させていただこう。

風を住まいに取り入れたい季節は夏場なので、まず夏の卓越風向をベースにして住宅の向きや周囲の建物との関係、窓の設置位置や窓のカタチを考える必要がある。

●ヒント1 建物配置で風を導く
風向を考慮した建物配置、開口部の設置によって風の道をつくってあげる。風を取り入れるために小さな庭を設けることも効果的なようだ。

【画像3】風を取り込むための建物配置のポイント(出典/一般社団法人環境共生住宅推進協議会発行「風の5カ条」より)

【画像3】風を取り込むための建物配置のポイント(出典/一般社団法人環境共生住宅推進協議会発行「風の5カ条」より)

●ヒント2 ウインドキャッチャーも活用して風の入り口を増やす

都市部などで風の主方向に開口部設置が難しい場合には、卓越風が流れる風上側に縦型のすべり出し窓を設けて、風を取り入れる“ウインドキャッチャー”とする

【画像4】風を取り込みやすいのは「縦すべり出し窓」(画像/SUUMOジャーナル編集部)

【画像4】風を取り込みやすいのは「縦すべり出し窓」(画像/SUUMOジャーナル編集部)

●ヒント3 家の中に上手に風の通り道をつくる
風上だけでなく風下側にも同等の面積の開口部を設けて風の道をつくる。マンションでは廊下の扉を開けることも必要。欄間付きのドアであればドアを閉めていても風の抜け道をつくることができる。

【画像5】風の流れを止めない工夫が大切(出典/一般社団法人環境共生住宅推進協議会発行「風の5カ条」より)

【画像5】風の流れを止めない工夫が大切(出典/一般社団法人環境共生住宅推進協議会発行「風の5カ条」より)

ちなみに、こうした風を考慮した住まいの設計は一般的なものなのだろうか? 一般社団法人環境共生住宅推進協議会にお聞きしてみた。
「日本では、卓越風を意識した住まいづくりが行われてきました。例えば群馬県など関東地方では、冬季の空っ風対策として、防風目的で屋敷林を持つ農家もまだ残っています。日本海側の砺波(となみ)あたりでは、冬季の雪対策として、屋敷林を持った農家もあります。」とのことだ。

太陽や雨・水、緑、風……。住まいを取り巻く自然環境を快適な住まいづくりに活かすために、まず自分の住む街の卓越風向を調べてみてほしい。風の向きや強さを知ることで、夏は涼しくて冬は寒風を防ぐような住宅設計が可能になるはずだ。

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