不動産売却の基礎知識や知っておきたいコツを分かりやすく解説します。売却の体験談もご紹介。

契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違い、免責特約、売主の注意点などについて解説

契約不適合責任とは?瑕疵担保責任との違い、免責特約、売主の注意点などについて解説

「契約不適合責任」とは、不動産売買において売主が買主に対して負う責任の一種です。は2020年4月の民法改正(債権法改正)により、それまでの「瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)」に代わって規定されました。

民法における名称が変わったことは知っていても、契約不適合責任と瑕疵担保責任の内容の違いまで詳しく理解していない人も多いのではないでしょうか。

ここでは、2つの責任の違いを具体的に解説するとともに、買主が行使できる権利の内容や不動産売却にあたって売主が気を付けるべき注意点などを紹介します。

記事の目次

契約不適合責任とは

2020年4月1日に改正民法が施行されました。
その中で、これまでの「瑕疵担保責任」に変わって登場したのが、「契約不適合責任」です。

売主や業務などを請け負う人は、売買契約や請負契約の内容にあった物を、買主など注文をした人に引き渡す義務を負っています。
「契約不適合責任」とは、これらの契約において売主や請負人が相手側に引き渡した物が、その種類や品質、数や量について「契約内容に適合していない」と判断された場合、いわゆる債務不履行になった場合、売主や請負人は相手に対して責任を負わなくてはいけないという「責任」が発生します。

契約不適合責任イメージ

この「契約不適合責任」は、以前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていたものです。2020年4月の民法改正にともない「契約不適合責任」として、中身のブラッシュアップと制度の整理・追加がなされました。
以前の瑕疵担保責任よりも売主側の責任が重くなっている点があるので、特に売主は内容をしっかりと理解しておきましょう。

最も大切なポイントは、売却前に売却する不動産がどのようなものであるかしっかりと把握することです。

契約不適合責任が問われるのは、「契約内容と異なるものを売却したとき」です。
契約内容とは、不動産においては多くの場合、売買契約書に内容を記載します。
売買契約書に売却する不動産の状況、契約の条件をしっかり書いておけば、責任を問われるリスクを減らせるでしょう。

契約不適合責任について、よく古い物件でみられる「雨漏り」を例に挙げてみましょう。
売却される物件に雨漏りがあることについて、買主側が説明を受けて了解済みであり、さらに売買契約書に「建物は雨漏りしています」という内容があれば、契約不適合責任は問われないケースが多いです(想定していなかった箇所からの雨漏りなどがあった場合は問われるケースもあります)。

その一方で、売買契約書に雨漏りのことが書かれていない場合は、売却後に雨漏り修繕の請求を受けたり、補償を要求される可能性があります。

このように、「契約不適合責任」は、住居として売却する際、その契約がしっかり適合しているかに加えて、物件の瑕疵(キズ)の内容が契約書に「書かれていたかどうか」が重要になるのです。

不動産の契約をする男性

(写真/PIXTA)

瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い

「瑕疵担保責任」と「契約不適合責任」にはどのような違いがあるのか、一覧表で確認してみましょう。

  瑕疵担保責任(民法改正以前) 契約不適合責任(民法改正後)
ベースの法的性質 法定責任説 契約責任説
適用対象 特定物(当事者が対象物の個性に着目して取引を行なったもの) 特定物・不特定物を問わず適用
責任の適用範囲 隠れた瑕疵 契約不適合
(目的物の種類・品質・数量が契約内容に適合しない状態)
売主の要件 無過失責任
(売主の故意や過失は不要)
損害賠償は帰責事由が必要
(それ以外は無過失責任)
買主の要件 善意無過失であること 善意無過失かどうかは不問
買主の権利 契約解除権・損害賠償権 追完請求権・代金減額請求権
催告解除権・無催告解除権
損害賠償権
損害賠償の範囲 信頼利益に限る
(買主が契約を信頼した結果、無駄になってしまった費用)
履行利益までおよぶ
(契約に適合していれば、買主が得られたはずの利益)
期間制限 買主は瑕疵を知ってから1年以内の請求が必要 買主は契約不適合を知ってから1年以内の通知が必要

民法改正以前の瑕疵担保責任では、売却後、瑕疵(=キズ)が発見されたときには売主が責任を負うと規定していました。
瑕疵とは、売買契約の目的物が通常もっている品質や性能を欠くことです。
買主は瑕疵の発見後1年間、売主に対し損害賠償を請求でき、契約の目的を達することができない場合は無条件で契約解除ができると定めていました。

瑕疵担保責任の対象となる瑕疵とは、「隠れた(買主にとって発見不可能な)」瑕疵です。
買主側が通常の注意を払ったにもかかわらず発見できなかったキズや不具合は、その瑕疵とみなされます。
いっぽう、売主側が把握している瑕疵については瑕疵の告知義務があり、売買契約時に買主へ知らせなければなりません。

瑕疵担保責任を、例えば、先述の雨漏りのある物件で考えてみましょう。
購入前に買主が注意して物件の状態を確認したのに雨漏りがあることが発見できず、購入後に雨漏りに気が付いたとします。
この場合、雨漏りは瑕疵担保責任を負う瑕疵となります。買主は定められた期間内に申し出れば、売主に損害賠償を請求できるほか、瑕疵によって購入の目的が達成できない場合には契約を解除することができます。

瑕疵担保責任では、買主が通常の注意をはらっても発見できなかった「隠れた瑕疵」かどうかがポイントになります。

一方の「契約不適合責任」は、契約に適合しているか否かで責任が発生します。
つまり、前述の雨漏りを例に挙げると、「雨漏りがない」と契約書に書かれていたにもかかわらず、住んでみたら雨漏りがあった場合、『契約に適合していないことから』売主が責任を負う必要があります。

瑕疵担保責任でも雨漏りは「隠れた瑕疵」の一つで売主に責任が発生したことから、同じではないかと思われるかもしれませんが、契約不適合責任では「契約に適合していないから責任を負う」という考えに立っており、隠れていたか否かは論点にならない点が違いです。
明文化されていることも根拠になることから、「契約書に書かれているか、書かれていないか」もポイントの一つになります。

両者の違いは法的な性質に由来します。瑕疵担保責任は法定責任説がベースとされてきました。法定責任説では特定物の取引において、目的物を買主に引き渡しさえすれば売主の債務は履行されるという考えが根底にあります。ただし、目的物に瑕疵があると不公平が生じるため、売主はその瑕疵に対し責任を持たなければなりません。それにも関わらず、瑕疵担保責任での適用対象は特定物のみ、適用範囲は隠れた瑕疵に限られ、買主に認められる権利は契約解除権・損害賠償権のみでした。

これに対し、契約責任説へ転換を図ったのが契約不適合責任です。契約責任説では、種類・品質・数量に関して契約に適合する目的物を引き渡すことが買主の責任であるとします。つまり、瑕疵が隠れている/いないに関係なく、引き渡した目的物が契約内容と異なっていれば債務不履行になるということです。よって、特定物以外にも適用対象がおよび、買主側は「追完請求」「代金減額請求」「催告解除」「無催告解除」「損害賠償」の5つを請求できるようになりました。

契約不適合責任への見直しにより、売主、買主側双方にとってわかりやすくシンプルな概念になったといえるでしょう。

マイホーム点検イメージ

(写真/PIXTA)

不動産売却における契約不適合とは?

シロアリの食害による損傷が激しい木造住宅の基礎部分

(写真/PIXTA)

前章では雨漏りを例に瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを解説しましたが、不動産売却においてどのようなケースが契約不適合に該当するのでしょうか。

よくあるのが、シロアリの食害により基礎が腐朽している住宅を気付かずにそのまま売却してしまうパターンです。瑕疵として買主へ通知することなく契約を締結し、買主が入居後に気付いた場合、契約不適合であるとして売主の責任を問われるリスクがあります。他にも、付帯する設備の故障、配管の経年劣化による漏水・水道トラブルなども契約不適合責任を問われやすい箇所です。

これらの事例に共通するのは、通常生活していても目に見えない部分の不具合であることです。床下・屋根裏・壁の内部といった構造部の不具合に目視だけで気付くのは難しいものがあります。売主が契約不適合責任のリスクを軽減するには、売却活動に進む前にインスペクションを実施するなど、目に見えない部分に潜む瑕疵を見逃さない工夫が必要でしょう。

契約不適合責任では買主は5つの権利を持つ

契約不適合責任が発生した場合、購入した側は下記5種類の請求をする権利を認められています。

●5つの請求方法

  • 追完請求
  • 代金減額請求
  • 催告解除
  • 無催告解除
  • 損害賠償

追完請求

追完請求とは、あらためて完全な給付を請求するということです。

種類や品質または数量が契約内容と異なっていれば、追完請求により完全なものを求めることができます。
ただし、不動産は基本的に世界で同じものがない特定物ですので、数量を追加するという概念はありません。

基本的に不動産売買における追完請求とは、具体的には修補請求が該当します。
修補請求は「直してください」という請求です。

契約不適合責任が発生するかしないかは、契約書に「書かれていたか、書かれていなかったか」という点が大きなポイントになります。
契約書の内容が大切になりますので、「雨漏りしていません」と契約書に書いてあったのに、雨漏りしていれば「雨漏りを直してください」というのが追完請求になります。
当然のことながら、契約書に「雨漏りしています」と書かれていれば買主側から追完請求をすることができません。

ただ、たとえ契約書に書かれていなくても、住むための用として契約する不動産の契約書で、雨漏りについて書かれていない物件で雨漏りがあった場合、そもそも住むことを前提として契約がなされている=契約内容とは異なる(住むための用を満たさない)ものを売った=契約不適合責任を負うことになります。

一部、築70年や100年などかなりの築年数がたっていたり、手入れが長いこと行われていない空き家物件などの場合、経年による劣化が容易に想像できたりすることから、雨漏りなどの記載がされていなくても責任を負わずに済むケースもあります。

売主が追完請求を受けないようにするためには、売却する物件の内容をしっかりと確認し、細部まで明記することが重要なのです。

代金減額請求

上記の追完請求を売主側が実行しない場合、買主は契約不適合責任では次の一手として、代金減額請求をすることができます。 名前のとおり、売買価格を減額する請求です。

基本的に、追完請求したのに売主が実行しなかった場合に行うことですが、例えば履行の追完が不能(土地面積が足りないなど)であったり、売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表したりした場合などは、最初から代金減額請求ができます。
ちなみにこの代金減額請求も、瑕疵担保責任では請求できませんでした。

代金減額請求権は、追完請求の補修や修正請求をしても売主がその行為を行わない、行えないとき、もしくは、補修自体ができないときに、買主側に認められる権利です。

代金減額請求は、まず「買主側が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないとき」に認められるものです。

もちろん直せるものであれば、まずは追完請求を行って、それでも直してもらえないときに「であれば、代金を減額してください」と請求します。

また、明らかに直せないものなど、追完の補修が不可能である場合は、催告なしで買主はただちに代金減額請求することもできます。

つまり、代金減額請求権は、直せるものは直してもらい、「直さない」「直せない」場合に使える請求になります。

催告解除

催告解除とは、追完請求をしたにもかかわらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告(相手側に対し一定行為を請求すること)して契約解除をすることです。

売主が追完請求に応じない場合、多くのケースで買主は代金減額請求では納得できないことがあります。
不動産の場合、売買代金が減額されても、住めない、住むために多額の費用がかかる、こうした致命的な欠陥があるケースが多いからです。
そのような場合、「購入を止める」と売主側に伝えるのが催告解除です。
契約解除と同じ意味と考えてよいでしょう。
通常、契約後に契約を取りやめると違約金が発生しますが、この催告解除で契約解除されれば契約はそもそもなかったものとなるため、売主側から買主側に無条件で売買代金の返還が必要になります。

ただ、民法の条文には「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間(定めた期間)を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」(541条)とも記載されているので、権利を行使する際は不動産会社や弁護士に相談してみましょう。

無催告解除

催告解除とは、追完請求をしたにもかかわらず、売主がそれに応じない場合に買主が催告(相手側に対し一定行為を請求すること)して契約解除をすることと紹介しました。

一方、無催告解除は、契約の目的が達成できない、つまり相手方の履行が期待できない、履行が不可能であると考えられる場合にできる契約解除を指します。
旧民法の瑕疵担保責任でも契約の目的が達成できないときに契約解除ができました。
瑕疵担保責任でもあった契約解除を引き継いだのが無催告解除になります。
これは催告をすることなく、ただちに契約を解除することができるものとなります。

催告によらない契約解除の適用可能なケースとして、改正民法542条で次の5つが定められています。
(1) 債務の全部の履行が不能であるとき、
(2) 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
(3) 債務の一部の履行が不能である場合または債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき
(4) 定期行為の時期を経過したとき
(5) 催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき

損害賠償

損害賠償請求は、旧民法の瑕疵担保責任でも認められていたものの、契約不適合責任とは少し内容が異なるので注意が必要です。

何が違うのかというと、瑕疵担保責任の損害賠償請求は売主の<無過失責任>でしたが、契約不適合責任では売主の<過失責任>になります。

無過失責任とは、損害の発生について故意・過失がなくても損害賠償の責任があるということを指します。
いっぽう過失責任とは、故意や過失がなければ損害賠償の責任を負わなくて良いという考え方です。
つまり、契約不適合責任では、売主が故意に隠した不具合や、売主の過失で生じた損害でない限り、買主は損害賠償請求をすることができません。

ただし、瑕疵担保責任の損害賠償請求ができる範囲は<信頼利益>に限られていましたが、契約不適合責任の損害賠償請求の範囲は<履行利益>も含まれます。

信頼利益とは、契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害を指します。
不動産売却の場合では、例えば登記費用などの契約締結のための準備費用が該当します。

また、履行利益とは、契約が履行されたならば債権者が得られたであろう利益を失った損害を指します。
例えば転売利益や営業利益などが該当します。

改正前の旧民法であった「瑕疵担保責任に基づく損害賠償」と「債務不履行に基づく損害賠償」の2本立てであったものが、今回の改定で1つに集約されたというイメージです。

契約不適合責任の通知期間と消滅時効とは

住宅と砂時計のイメージ

(写真/PIXTA)

契約不適合責任には買主側が権利行使できる通知期間が設定されています。期間は契約不適合の内容によって異なるため種類別に見ていきましょう。

品質・種類に関する契約不適合

契約不適合の内容が目的物の品質・種類に関するものである場合、買主は不具合があることを知ったときから1年以内に売主へ不適合である旨を通知する必要があります。通知後、民法第166条における消滅時効に基づき、買主は「権利を行使することができることを知ったときから5年間」または「権利を行使できるようになったときから10年間」の間に請求を行います。

数量・権利に関する契約不適合

契約不適合の内容が目的物の数量・権利に関するものであるケースでは、買主の売主に対する通知義務はありません。つまり、何も規定しなければ、民法における消滅時効の到来まで、買主はいつでも売主へ請求可能ということです。

売主からすれば、いつ買主からの請求が来るかわからないまま時効の到来を待つしかなく不安でしょう。そのため、売買契約時に3ヵ月などの通知期間を定めるのが一般的です。契約不適合責任は任意規定のため、買主と合意していれば通知期間は任意に定められます。

買主が企業だった場合

買主が個人ではなく企業である場合、上記の通知期間は適用されません。企業の買主は目的物を受領したらすぐに検査を行う必要があります。検査中に契約不適合を発見した場合は、売主に対してすぐに通知しないと買主の権利を行使できなくなります。

不動産売却で売主が注意すべき契約不適合責任のポイント

契約不適合責任を問われれば、売主に大きな手間や費用負担が発生するリスクがあります。不動産売却時には、次に挙げる注意点を意識してリスクの軽減を図りましょう。

特約・容認事項を契約書に記入しよう

契約不適合責任が発生する不動産売買では、住宅の設備を契約不適合責任の対象外とする(免責する)ことを契約書に書いておくことも大切になってきます。

なぜなら、中古住宅は住宅設備に何らかの故障や不具合があることが一般的であり、設備まで厳密に契約不適合責任を適用させてしまうと取引自体がスムーズにいかなくなることが想定されるからです。
中でも水道設備・衛生・換気・冷暖房・電気配線・照明などの設備は築年数とともに劣化していることが多くなります。
そのほか屋根の雨漏りや断熱材の劣化、事故などの心理的瑕疵の告知の有無などもよくトラブルの要因になります。

契約不適合責任のトラブルを避けるためには、まず売主側が、設備の契約不適合責任の取り決め内容を売買契約書でしっかりと確認することが重要です。

瑕疵担保責任では、築年数がとても古い建物を売る場合には、売主の瑕疵担保責任を全面的に免責するような特約を締結することがよく見られました。

契約不適合責任も、瑕疵担保責任と同様に特約で免責することは可能です。
民法で規定されている契約不適合責任は、当事者の特約を有効とする任意規定に該当するものだからです。

契約不適合責任は任意規定ですので、契約当事者が合意すれば免責できます。
よく見られる特約内容としては、前述の築古物件の瑕疵や、土地の土壌汚染について売主の契約不適合責任を免責するなどが該当します。

契約不適合責任の免責は、瑕疵担保責任の全部免責のように一言で済ませにくいことも注意が必要です。
追完や減額代金請求など請求権について一つひとつ免責することが重要です。

懸案事項を一つ一つ契約書に記載し、買主に容認してもらったうえで、契約不適合責任を負わないことを明記すれば免責となります。
売買契約書の中で売主が負う責任の範囲や期間を取り決めていくことが大切です。

もちろん、設備の契約不適合責任の免責を有効にするためには、売主が知っている設備の不具合について、買主側にしっかり説明、告知することが基本になります。

下記のようなものが、特約・容認事項の一例になります。

免責事項の一例
●買主は、下記容認事項を確認・承諾の上、購入するものとし、下記事項について売主に対し、解除、損賠賠償、修補、代金減額請求等の一切の法的請求をなし得ないものとする。(免責事項)
□テレビなどの電波受信機器において、アンテナなど機器の設置や、ケーブル引き込みなどが必要になる場合、費用は買主の負担となる。
□本物件上に新たに建物を建築する際、建築会社から地盤調査を求められたり、地盤補強工事などが必要になったりした場合、費用は買主の負担となる。

このように買主と売主の責任区分を明確にしておくことが大切なのです。
基本的には地盤や立地環境などの内容が書かれることが多くなっていますが、契約不適合責任では、どのような「瑕疵」について免責するかの例示などが詳しくなるととらえておきましょう。
細かな点までしっかりと明記することで、後々の不安を取り除くことができます。

過大な「契約不適合責任」を追及されないよう、契約締結時に特約・容認事項・付帯設備表を丁寧につくりこんでいきましょう。
契約書の作成、条件の詰めを不動産のプロに依頼するのがおすすめです。

ちなみにこれは売主が個人に限ったことで、不動産会社が売主となる土地や建物の場合は、宅地建物取引法第40条により契約不適合責任を免責する特約は無効とされています。

■付帯設備表とは?

設備に関する説明をトラブルなく進めるために活用するのが「付帯設備表」です。
付帯設備表とは設備の撤去の有無や不具合状況を売主自身が書く書類で、現在の設備の状況を記載します。

付帯設備表は、不動産会社に仲介を依頼すると、不動産会社から記載を依頼されます。
最終的には、買主側へ引き渡す重要な書類の一つです。

旧民法の瑕疵担保責任では、「全部免責」という免責方法があったため、付帯設備表を用いない契約でも問題ありませんでしたが、契約不適合責任では「契約に書かれているか、書かれていないか」がポイントになるため、付帯設備表を必ず準備する必要があります。

契約不適合責任は、契約の対象で気になることは細部まですべて容認事項に書きだし、契約書と物件の現状を適合させる必要があります。
前述のとおり、売主側に故意や過失があった場合は賠償責任が重くなります。
トラブルを防ぐため、より心地よく売却をするために徹底してチェックしましょう。
もちろん不動産会社に相談しながら、注意点を洗い出し、進めることもおすすめです。

家の契約書イメージ

(写真/PIXTA)

契約不適合責任の通知期間を設定する

契約不適合責任では、通知期間を設定することが大切になります。
旧民法の瑕疵担保責任では責任期間と呼ばれていたもので、もし瑕疵があった場合は『一年以内に契約を解除するか損害賠償の請求を行う』必要がありました。

一方、新しくなった民法では、契約不適合責任の適用期間について以下のような定めがあります。

【目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限】

●新民法第566条
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

つまり、契約不適合責任に変わった現在は、買主は不適合を知った時から「1年以内に売主に対して不適合の事実を『通知する』だけで契約不適合責任の履行を求められる」ようになりました。
通知すれば後述する消滅時効の期間、追完請求などの契約不適合責任におけるさまざまな請求権利を行使することが可能になったということになります。

そこでポイントになるのが、この契約不適合責任の通知期間を決めることです。
契約不適合責任は任意規定ですので、買主側が了解すれば自由に通知期間を定めることができます。

契約不適合責任の通知期間を決めて記載するのは契約で取り交わす売買契約書が一般的です。
基本的には瑕疵担保責任と同じ3ヵ月が主流になるでしょう。

ちなみに民法には権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利を消滅させる「消滅時効」に関する規定があります。
契約不適合責任において、買主は不適合を知ってから1年以内に事実を通知すればよく、1年以内に権利を行使する必要はないものの、通知してからいつまでも権利を有するわけではありません。

この消滅時効の期間を算定するタイミングは2つあります。

「権利を行使することができることを知った時」と「権利を行使することができる時」です。

権利を行使することができることを知った時からは5年間、権利を行使することができる時からは10年間行使しないときは、契約不適合責任における買主の権利は時効により消滅することになります。

通知期間だけでなく、消滅時効期間も覚えておく必要があります。

このように売主は永久に契約不適合責任を負うわけではないものの、何もしなければ10年間は契約不適合責任を負う可能性があることになります。
そのため、売買契約時にはしっかりと通知期間を定めることが必要です。
売却後の不安を払しょくするためにも、しっかりと定めておきましょう。
詳しくは不動産会社や法律事務所などに相談しましょう。

カレンダーイメージ

(写真/PIXTA)

インスペクションを実施し物理的瑕疵を把握する

契約不適合責任では、売買契約書に目的物の内容を記載する必要があるので、目的物の内容を事前に明確にする必要があります。

この明確化で有効なのがインスペクションです。
インスペクションとは、建物状況調査のことです。

建物の専門家が目視や計測などによって調査します。
主な調査項目としては、住宅の基礎や外壁などのひび割れ、雨漏りなど「構造上の安全性」について。
それから「日常生活への支障があると考えられる劣化や性能低下があるか」どうかなどになります。

いわば専門家のお墨付きで物理的瑕疵があるかどうか、瑕疵があった場合、どの程度のものなのかを売主、買主双方が把握することができます。

▼関連記事を読む

インスペクションの実施イメージ

インスペクションにかかる時間は、30坪程度の住宅でおおむね2~3時間程度が目安です。
費用に関しては、構造上の安全性に問題がないかや、雨漏りの心配がないかなどを調査員が目視可能な範囲で検査する「一次検査(基本調査)」の場合、費用は以下のようになります。

木造一戸建て住宅(30坪程度)の費用相場は大体5万円~7万円程度
マンションの費用相場は5万円程度

もちろん、これらの金額は、物件の広さやオプションによって変わってきます。
一次検査以上に、例えば床下などの目視可能な範囲外の箇所や、機器を多く使う調査では10万円を超えることもあるので、検査会社に確認して、どのような内容でどの程度お願いするのかを相談してみましょう。

インスペクションで、物件に問題がないかを前もって調べておき、その結果を契約書・物件状況報告書・付帯設備表などに記載しておけば、後から大きな揉め事が起きるといったことがなく、スムーズな取引ができるでしょう。

またインスペクションは専門家による建物診断なので、物件の価値を算定するにも有用になります。
インスペクションで瑕疵がないことがわかれば、購入検討者に対してのアピールにもなるでしょう。
当然売却価格にも影響することが考えられます。
また構造的に弱い部分、補修したほうがいい部分なども明確になるため、リフォーム後の売却を考えている場合には参考になります。

こうした観点でもインスペクションは重要です。

不動産イメージ

(写真/PIXTA)

契約不適合責任に対応できる不動産会社を選ぼう

契約不適合責任は、まだ施行されて日が浅いので、しっかりと新民法の内容を把握している不動産会社を選ぶことが重要です。
特に買主から請求があった場合には、瑕疵担保責任と契約不適合責任の違いを理解していない担当者では対応が難しいでしょう。
こうなると売主側も買主側も後悔が残る売買活動になってしまいます。
現場責任者やスタッフが新しい民法をしっかりと勉強している不動産会社を選ぶことが必要です。

売買活動において、物件のことを細かく教えてくれる、ライフスタイルや希望を考慮してくれる、しっかりアドバイスをくれることなどに加えて、専門知識をもった信頼できる不動産会社に依頼することが今まで以上に重要になってくるのです。

不動産イメージ

(写真/PIXTA)

まとめ

  • 契約不適合責任とは契約内容と引き渡された目的物や権利内容との間に不一致があったとき、買主から売主に対して追及できる責任のこと
  • 「隠れた瑕疵」のみに適用されていた瑕疵担保責任に対し、契約不適合責任は隠れているか否かに関係なく適用される点が大きな違い
  • 買主側には5つの請求権が規定されている

監修/弁護士 横山宗祐さん
構成・取材・文/山口俊介
イラスト/タバタ画房

▼おすすめ記事を読む

ページトップへ戻る