湘南エリアの一角をなす神奈川県藤沢市。海が身近にある街として知られ、サーフィンをはじめとするマリンスポーツを楽しむ人が数多く訪れます。湘南エリアといえば2015年版の「住みたい行政市区ランキング」(リクルート住まいカンパニー調べ)で8位にランクインした神奈川県鎌倉市が有名ですが、今回SUUMO編集部が「次にくる街」として注目したのは、辻堂駅周辺エリア。
2014年11月1日には、藤沢市全体の人口が史上初となる42万人を突破しましたが、なかでも、近年は辻堂地区の人口増加が目覚ましいとか。大規模な駅前開発と先進的なスマートタウンの建設によって、新しい街へと生まれ変わっているそうなのですが、実際のところいかに……? というわけで、さっそく辻堂を深堀りしていきたいと思います。
まず、辻堂エリアの特徴をまとめてみました。
なお、辻堂駅周辺の家賃相場は以下の通りです。
1K・1DK 5万5100円
1LDK・2K・2DK 8万3500円
ちなみに、鎌倉駅周辺の家賃相場は、1K・1DKで6万2600円、1LDK・2K・2DKで11万4600円。両者とも都心までの通勤時間はさほど変わらないことを考えると、辻堂は穴場なエリアといえるかもしれません(SUUMO・家賃相場2015年3月16日時点)。
辻堂駅周辺が注目され始めたのは、2011年に駅北口一帯が改修され「湘南C-X」と呼ばれる地区が整備されたころから。2002年に関東特殊製鋼が工場の全面撤退を表明したのち、工場跡地を含む約25haの区域を活かすべく、都市ならではの利便性を持つエリアを目指し再開発が進みました。
こうしてみると、街の活気を生み出すと同時に地元住民の生活の質も向上させる、非常にバランスのとれたエリアであることが分かります。また、利便性を追求するばかりでなく街並みの統一感や景観を大切にしており、建物を建設する際にも富士山の眺望を損なわないよう配慮されるなど、景観美を守る意識も高いようです。
では、再開発によって大きく変貌した街の様子を見ていきましょう。
まずは駅前を中心とした「複合都市機能ゾーン」から。
「複合都市機能ゾーン」のメインともいえるのが、湘南エリア最大級のショッピング施設「Terrace Mall 湘南」。湘南のリゾートイメージにマッチするモールは、その名のとおり各フロアにテラスが設けられており、開放的に設計されています。施設内にはあちこちにベンチが置かれ、お弁当を食べたり読書に没頭する人の姿も。都心のショッピングセンターではあまり見られない、ゆったりとした空気感に包まれています。
「H&M」や「ZARA」、「ロンハーマン」といったファッションブランドをはじめ、女性に人気のライフスタイルブランド「Cath Kidston」の世界初となるカフェ併設店舗「Cath’s Cafe(キャス・カフェ)」、「Loft」や「無印良品」といったライフスタイルショップも充実。デイリーに使えるショップから、ファッション感度や環境への意識が高い人たちも満足できるショップまで多彩です。また、迫力の映像が楽しめるIMAXシアターを含め10スクリーンで上映する映画館「109シネマズ」もあります。
さらに、湘南ならではの名店の味が集結したフードコート「潮風キッチン」や、生鮮食品やスイーツ、デリなど、こだわりの食が目白押しの「湘南マルシェ」はたくさんの人でにぎわっていました。
次に、「広域連携機能ゾーン」へと足を延ばしてみます。こちらの目玉は「Cocco Terrace (ココテラス湘南)」。子育て支援を中心としたテナントや学童保育施設が1階から3階まで入居、ママたちにとっては心強いスポットです。「KUMON」や「COCO塾ジュニア」といった学習系のスクールをはじめ、格闘家の高田延彦さんが主宰する格闘技道場「高田道場」や、レゴブロックで遊びながら学ぶ「レゴ(R) スクール」などなど、施設の種類も多種多様。
ひとつの建物に子どもの教育関連の施設がまとまっているため、あちこち移動しなくてすむので便利。さらに、子どもの入退館をメールで知らせてくれる「安心でんしょばと」のサービスもあるので安心です。
さて、辻堂ではこうした再開発計画と並行して、未来へ向けたもうひとつの壮大なプランを描いています。それが「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」。地球環境や資源の保全を意識し、先端技術を盛り込みながら未来へ持続していく街づくりです。
もともとパナソニックグループの関東1号となる工場が2007年に閉鎖したあと、東京ドーム4個分にあたる19万haの広大な土地をどう活用するか藤沢市と協議した結果、「Fujisawa SST」の開発構想が生まれたのだそう。2014年4月に第一期となる戸建街区が完成し、現在はファミリーを中心に約130世帯が入居しています。2018年度に街全体が完成する計画で、最終的には一戸建て住宅600区画、集合住宅400戸、健康・福祉・教育施設も建設される予定です。
Fujisawa SST協議会の代表幹事企業であるパナソニックの和田昌子さんに、街のことについてお話を伺いました。
「工場のように雇用を生み出す施設ではなく、何か別の方法で地域貢献できる場所として活用できないか考えた結果、自然環境や文教施設に恵まれたエリアでもあることから、自然の恵みを取り入れた”エコ&スマートなくらし”が100年持続できるような街をつくれないかという方向になりました。100年続いていくということは、1世代30年として孫の代まで住み続けるということになるわけですが、そのためには環境に配慮することはもちろん、快適で安心かつ愛着をもって住める街にする必要があります」(和田さん、以下同)
家電のイメージが強いパナソニックですが、やはりこれだけの広大な街づくりは初めての試みだったとのこと。そこで、住宅ディベロッパーを始めインフラやサービス事業者など様々なパートナー企業(現在18社1協会)を募り、協議会を発足してコンセプトを作り上げてきたのだそうです。
「通常、街づくりというと、インフラを作ってから家を建設し、住まい空間を提供するものです。一方、Fujisawa SSTでは、『暮らしを楽しむ要素は何か』ということを考えたうえで街づくりを進めています。『住む』『健康』『住民のつながり』というような要素を、快適に実現させる街にするためには何が必要か、分析するところからスタートしているのが今までにない特長だと思います。分析を踏まえたうえでどんなインフラや住まい、施設があるといいかを考え、コンセプトを現実のものにするべく計画を練っていきました」
具体的には、「エネルギー」「セキュリティ」「モビリティ」「ウェルネス」「コミュニティ」の5つに分けてサービスを展開。それぞれの内容については次の通りです。
【エネルギー】
・藤沢の風や光、熱などの自然の力を十分に取り入れられるような街区をデザイン
・一戸建て住宅には最新の創蓄連携システムである太陽光パネルや蓄電池を設置
・災害が起きたときには太陽光発電や蓄電池に取り込まれた電気を使えるようにして、3日間自宅で過ごせるシステムを導入
・公共用地を活用して県道沿いに約400mにわたりソーラーパネルを設置。平常時は売電をして収入を街の維持費に充てる。非常時は周辺地域の電源として活用
・電線を地中化、ガスも中圧ガス導管という災害に強いものを使用
・住宅には街の情報と各家庭のエネルギー情報を見える化したタウンポータルを装備。テレビやタブレットで電力使用量を知らせてくれるほか、家の電気使用状況を分析して、月1回省エネのアドバイスもしてくれる
【セキュリティ】
・街のなかには「見守りカメラ」と呼ばれるセキュリティシステムを導入。多数のカメラを設置
・進入検知、火災検知、非常通報をはじめとしたホームセキュリティを装備
・センサーで人が来たことを察知して照度を上げるという、よりエコで効率的なLED街路灯を設置
【モビリティ】
・電気自動車や電動自転車のシェアリングサービスが利用可能
・デリバリーによってレンタカーが家の近くまで運ばれる
・環境に優しい移動手段を提案、提供してくれるトータルモビリティサービスセンターを設置。常駐するコンシェルジュが、訪れる場所や交通量を考慮して移動手段をアドバイスしてくれる
【ウェルネス】
・各種クリニックやサービス付き高齢者向け住宅、学習塾や保育所などを集めたウェルネススクエアを現在建設中
【コミュニティ】
・辻堂や藤沢という周辺地域限定で住民同士がつながれるSNS『SOY LINK』も用意。ご近所で醤油(SOY)を貸し借りしていたような、日本に古くからあったようなネットワークにちなみ、現代的なツールを使ったご近所づきあいを生み出す
・街自体も生活者が主役となって自治会とタウンマネジメント会社が連携し、サービスを考えて提供する
また、Fujisawa SSTの一角には、暮らしをさらに豊かにしてくれそうな施設も誕生。昨年12月にオープンした「湘南T-SITE」は、4年前に大きな話題を呼んだ「代官山T-SITE」に続く国内第2号の施設。
「湘南T-SITE」のメインともいえる「湘南 蔦屋書店」は、13万冊の書籍をそろえるほか、本の案内人となるコンシェルジュをジャンルごとに配置。コンシェルジュの肩書きも旅行作家や編集者、インテリアのプロデューサーなど、普段なかなか出会えない方々ばかり。
また、本から得た知識と実体験を連動させるという仕掛けも。例えば、カメラをテーマにした書籍コーナーの横にはカメラの専門店「カメラのキタムラ」を、料理のコーナーの横には合羽橋の老舗料理道具店「釜浅商店」というように、書籍のテーマに関連する個性派専門店が30店舗ほど展開しています。
さらに、年間1000本のイベントやワークショップも開催。3Dプリンタを使ったものづくりや最新のデジタル工作機械で先端の日曜大工を楽しめる場などもあり、1日いても飽きることはなさそうです。
これまでにも、環境に配慮したスマートシティやエコタウンは国内でもつくられてきましたが、「Fujisawa SST」がすごいのは規模や最新技術、インフラだけが優れているわけではないところ。生活者がいかに暮らしやすさを実感できるか、細かいところまで突き詰められています。特に、「地域コミュニティ」は日常的なつながりを生み、街に愛着をもつために欠かせないポイント。そうしたコミュニティをつくる足掛かりに現代的なツールを取り入れたり、タウンマネジメント会社が介入することで住民の負を取り除くという取り組みに新しさを感じます。
遠くない未来には、「Fujisawa SST」の仕組みやノウハウを日本のみならず、その土地土地の特徴や文化に合わせて世界にも展開していく予定。いまは先端的に思える「Fujisawa SST」ですが、スタンダードな街のカタチになる日も近いかもしれません。
こうした街の変化について、辻堂に長く住んでいた人はどのように受け止めているのでしょうか。現在は地元で愛される居酒屋「山吹」の店主を務めるかたわら、地域活性に取り組む団体「辻堂LOVERS」を立ち上げた藤田大輔さんにお話を聞きました。
「北口はテラスモールができたくらいから環境と人の流れが以前と大きく変わりましたね。ほんの3年くらい前までは、買い物に行くにしても茅ヶ崎や藤沢まで行かないと何もなかったのですが、今では辻堂ですべてそろうので本当に便利になりました。とはいえ、のんびりした風土は変わっていません。よく”辻堂時間”があるといわれているのですが、辻堂は人の歩く速度やペースなどがゆっくりしています。都内で仕事をされている方も、生活をリセットできるとよくおっしゃっていますね。山や海が近くにあるのどかな雰囲気はそのままに、商業施設も充実してきたので田舎と都会的な暮らしのバランスが取れてきているのかなと。あとはこれまで大きな犯罪とかもなく治安の良さも魅力なのかなと思っています」(藤田大輔さん)
「個人店の魅力も伝えたい」という藤田さんの思いに共感して集まった人たちによって生まれた団体「辻堂LOVERS」は、現在、神奈川県の地域ブランド創出事業として認定されています。おもな活動は創刊してから1年を迎えたフリーペーパー「Spend」の発行。若い人をターゲットにデザインや内容にもこだわっており、毎号定期購読をしてくれる人も増えているそう。
また、藤田さんいわくテラスモールがある北口の反対側、辻堂駅南口周辺にはこれまであった個人店にくわえて、感度の高い若手が手掛ける個人店も最近増えてきているのだそう。世界から集めたワインと中華料理を堪能できる「ドラゴンバル」や、トマトなどの変わり種もある「おでん Bar 信濃屋」など、店主のセンスが光る飲食店もずらり。ほかにも、「トーストサンド×雑貨」「へアサロン×雑貨」「コーヒーショップ×デッサン教室」といった、ユニークな組み合わせが魅力のショップが続々誕生しています。
大きな工場がいくつもあった街からクオリティライフが高まる街へと、わずか3年あまりで大胆にかじを切った辻堂。もともと地域に息づいてきた穏やかな自然や風土は保ちつつも、快適さと利便性を兼ね備えたことで生活の満足度も高まってきているようです。2018年に「Fujisawa SST」が完成したあかつきには、さらににぎわいを増すことでしょう。今後ますます、辻堂の発展から目が離せなくなりそうです。
辻堂は商業施設が充実しているがのどかな雰囲気で、人気の湘南エリアの中では家賃相場が安く穴場
再開発により、ショッピングや子育てなどそれぞれの関連施設がひとつの建物に集約されていて住みやすい
100年持続できる街を目指すスマートタウン「Fujisawa SST」を建設中、今後さらに発展していく