街を一望できるタワーマンション(超高層マンション)。そこでの住み心地はどのようなものなのでしょうか。高層マンションならではの特徴について、メリットだけでなくデメリットも紹介。最近のタワマンの傾向についても住宅ジャーナリストの大森広司さんに聞きました。物件探しの候補にタワマンを入れるなら、ぜひ知っておきましょう。
従来のマンションよりも高層のマンションがタワーマンションと呼ばれます。タワーマンションと呼ぶための法的なきまりはありませんが、20階以上の超高層マンションを指すのが一般的です。
これは、建築基準法20条1項一号からきているもの。20条は「構造耐力」について規定した法文で、そのなかの1項一号~四号では建築物の規模に応じた区分が明文化されています。一号は高さが60mを超える建築物で一号~四号の中では最も規模が大きく、これを超高層建築物とするのが一般的です。
高さ60mの建物は、マンションでは20階程度に相当するため、20階以上のマンションがタワーマンションと呼ばれているのです。
タワーマンションなどの超高層建築物は、構造の安全性や耐火性能、避難安全性能について審査を受け、国土交通大臣の認定を受ける必要があります。
また、高さが100m(30~33階くらい)を超えるマンションの屋上のヘリポートは、消防庁の「緊急離着陸場等設置指導基準」で設置基準が規定されています。火災発生などの緊急時に屋上からも避難できるよう、各自治体に対して推進を指導しています。
大規模な建築物であるタワーマンションは、建物の品質に関する厳しい審査を受け、安全対策もとられています。
高層階はもちろん、中層階、低層階でも享受できるタワーマンションならではの、さまざまなメリットを紹介していきましょう。
高層階はもちろん、低層階や北向き住戸でも日当たりが期待できます。
「タワーマンションは、エントランスのある1階部分に住戸がない物件が多くあります。また、1階部分の天井も高くとられていることが多く、その場合は住戸が従来のマンションの3階くらいの高さから始まります。建物の敷地も広くとられているため、低層階でも窓のすぐ近くに別の建物があって、一日中薄暗くなるということはないでしょう。また、北向きの住戸でも、直接太陽の光は差し込まなくても、窓の外が開放的であれば採光に問題はなさそうです」(大森さん、以下同)
窓からどんな景色が見渡せるのか、眺望には物件の立地や階数によって違いがあります。購入したい住戸が、どの方向に視界が開けているのか、購入前に確認をするといいでしょう。目の前が海や川、大きな公園などの場合、将来的に眺望の良さが無くなる可能性は低そうです。隣地が空地になっている場合、高層の建物が建つ可能性の有無についても調べておきましょう。ただし、その時点で高層建築物の計画がなくても、将来は建築計画が生まれ、眺望が遮られる可能性もあります。
「多くのタワーマンションには共用施設として展望室、ラウンジが高層階に設けられています。低層階や中層階に住んでいても、ラウンジに行けばまた違った眺望が楽しめるのはタワマンならではのメリットです」
マンションの居住者が共同で使用する共用施設は、住戸数の多いマンションほど充実する傾向があります。例えば、エントランスが広く、吹抜けで広々とした空間になっていたり、インテリアも豪華だったり。また、エントランスの目の前まで車でアプローチできる車寄せがあれば、雨や雪の日の乗り降りに便利です。
「以前からスタディールームとして、共用の書斎のようなスペースがあるタワマンはありましたが、このコロナ禍でリモートワークがしやすいように換気に配慮し、個室も設けられているコワーキングスペースを設置したマンションが注目されています。自宅では集中できないという人にはとても便利。会議室があるタワーマンションもあります」
防犯カメラや防犯センサー、24時間のオンラインセキュリティシステムの導入、エントランスから住戸までに、何重もの認証が必要なシステムなどもすでに一般的。厳重なセキュリティで守られている安心感がタワーマンションのメリットです。
「最近は、エントランスのオートロックもエレベーターも、触らずに解錠できる非接触キーが充実。コロナ収束後もスタンダードになっていくのでは」
ICチップ付のカードや、スマホなどのデバイスを使ったスマートキーを、かざしたり近づいたりするだけで解錠できるシステムのほか、顔認証を導入するマンションも登場し、今後は非接触キーの選択肢が増えるでしょう。
「日中はコンシェルジュが常駐している物件が多いのもタワーマンションのメリットです」
エントランスの受付などに待機して、居住者へのサービスに対応するのがコンシェルジュ。共用施設の予約受付や居住者を訪ねてきたゲストの受付や案内のほか、クリーニングや宅配便などの取り次ぎ、デリバリーやケータリングサービスの手配、タクシーやハイヤーの手配など、サービス内容は物件によって異なりますが、さまざまです。
これらの共用施設やサービスはタワマンに限ったものではありませんが、住戸数が多く、共用施設にコストがかけやすいタワマンでは導入されるケースが多いといえます。
「物件によりますが、最寄駅に直結しているタワーマンションも。雨の日でも傘をささずに駅まで行けるのはポイントが高いです」
駅直結なら、帰宅が深夜になったときの帰り道も安心です。
再開発によって誕生したタワーマンションも多く、その場合、商業施設やオフィスのビルも新設され、入居時から機能が充実した街で暮らせることに。買い物や外食も家の近所で楽しめます。
そのほか、24時間いつでもゴミだしができる物件が多かったり、高層階には蚊などの虫が入ってきにくいなどもメリットでしょう。
タワーマンションのデメリットについて考えてみましょう。なかには、デメリットと感じるかどうかは人それぞれだったり、物件によっては対策がされていたりするものもあります。
タワーマンションでは、そもそもベランダがなかったり、あっても安全性の面から洗濯物を干したりものを置いてはいけないルールになっていたりすることも。特に、中高層階の住戸では、洗濯物はベランダで干せないケースが多いと考えておきましょう。
「せっかくタワーマンションの素敵な部屋で暮らしているのですから、部屋干しの洗濯物を毎日目にするのも残念。乾燥機や浴室乾燥機を上手に活用するといいですね」
特に高層階の場合、外へ出るのにエレベーターに乗るのが面倒という声もあります。家にこもりがちになると、運動不足やストレスの原因にもなります。また、今は気軽に外出がしにくいという状況でもあります。棟内のトレーニングジム、屋上や敷地内のドッグランがある物件なら、共用施設を積極的に使うようにするといいでしょう。
通勤通学時間帯のエレベーターが渋滞。最寄駅までは近いのに、住戸から1階のエントランスまで時間がかかってしまう、というケースも。
建築前に建物の規模や住戸数から推測される人の流れを考慮して、利用者数のピーク時でも待ち時間が一定時間内におさまるようエレベーターの定員や速度、台数が決められている物件なら安心でしょう。
「最近は、どのタワマンでもそれなりのエレベーター台数を確保しています。また、どのエレベーターも1階から最上階まで停止するのではなく、低層階用、中層階用、高層階用など、停止する階数を分けてあるケースが多いです」
ただし、注意したいのは中古のタワーマンションの場合。台数が少ないなどの理由で、毎朝のエレベーター待ちが避けられないケースもあります。
気になる場合は、モデルルームや現地でデベロッパーや不動産仲介会社の担当者に確認するのがオススメです。
携帯電話がつながりにくい原因はさまざま。電波は金属以外の物質は通過しますが、例えば通常のガラスよりも、鉄線入りやUVカットを施したガラスは電波が通りにくくなるなど、電波を送る基地局から携帯電話までの間にあるモノの材質や種類によって電波の届きやすさが違います。
高層マンションの場合は、高さが問題になります。基地局からの電波は、基本的には下方向に出ているので、近くにある基地局の電波は届きにくくなります。遠くにある基地局の電波は、遮るものが少ないため届きやすくなりますが、基地局との距離があるため、携帯電話からの弱い電波は基地局へ届きにくくなります。
携帯電話各社では改善策として最寄の基地局の電波を上向きにするなどの工夫をしています。また、ユーザーから報告があれば、電波状況や環境に合わせて、窓際まで届いている電波を増幅させる装置や、携帯電話エリアをつくり出す装置といった電波改善装置を無料レンタルするなどの対応をしてもらえる場合もあります。
基地局からの電波を使ってインターネット環境をつくるポケットWi-Fiも同様です。
タワーマンションは隣の住戸の音が聞こえやすい、高層階は風の音が気になるなど、騒音で悩むケースがあります。どのような騒音がなぜ問題になるのか、対処法はあるのかなどは下の記事を参考にしてください。
タワーマンションの騒音の原因と対策についてもっと詳しく
タワーマンションでの騒音。トラブルや悩みが大きくならないよう、できる対策は?
タワーマンションは築年数の浅い物件が多いため、大規模修繕を実施したタワーマンションのサンプル数は多くはなく、今後の大規模修繕の際にどれくらい費用がかかるかの想定しにくい状況です。
「高さや規模から、一般のマンションに比べて大規模修繕の費用は高くなるでしょう」
地震が起きたとき、地震波の周期と建物の固有の揺れやすい周期(固有周期)が一致すると、共振するため建物が大きく揺れます。高層の建物の固有周期は低層の建物に比べると長いため、長周期である地震の波と共振しやすく、高層階のほうがより大きく揺れる傾向にあります。
地震への対策は低層階でももちろん必要ですが、10階以上の高層階は特に長周期振動に備えて、家具や家電が移動・転倒しないように対策をとっておきましょう。また、上層階ほど揺れやすい、ということを知っておくだけでも、いざというときに落ち着いて行動できるかと思います。
地震や浸水などで停電が起きた際、部屋で電気が使えない、エレベーターが止まるなど、日常生活にさまざまな支障が出ます。水も停まり、給水車が来てくれたとしても、その水を階段で高層階まで運ぶのは大変です。普段から水や食糧などを備蓄しておく準備が必要です。
物件探しをする際には、新築・中古を問わず、災害に備えてどのような対策をとっているかを確認しておきましょう。
実際に住んでみたからわかること、住んでみなければわからないことがあります。そこで、タワーマンションに住んでいる人に、暮らし心地を聞いてみました。
●44階建ての34階・30代・男性
「東京の湾岸エリアのなかでも比較的新しいマンションが立つ場所です。新興エリアということもあり、価格が安いときに購入。今後、開発の中心が少し離れたところで起こってくることがわかっていたので、資産価値が上がるだろうという点が購入の決め手になりました。住んで良かったと感じるのは環境の良さ。周囲を運河や空地、公園に囲まれているため、マンションから一歩外に出たときの気分が良いです。子育ての面では、都内の教育環境はどのエリアにいても大きな差はないのではと考えました。一方で、道路が広い、公園が近い、自然を感じられるといったこの環境は唯一無二のものなのではないかと思います」
●28階建ての12階・50代・男性
「JR駅まで歩いて5分の便利なところで、近くにスーパーや総合病院があり徒歩圏で日常生活が完結するのは便利です。失敗したと思ったのは地面からの高さ。もともと高いところは苦手だったので12階を選んだのですが、暮らしてみて自分には12階でも高過ぎることに気がつきました。ベランダには出られないし、窓際にはできるだけ近づかないようにして暮らしています」
●40階建ての20階・40代・女性
「両親が眺望を気に入って購入したタワーマンションで一緒に暮らしています。駅前広場に面したリビングの眺望が変わることはなさそうなのですが、入居から5年後、私の部屋の窓の正面に28階建てのマンションができ、好きだった景色が見えなくなりました」
従来のマンションでは得られない眺望や、総戸数が多いことによる共用施設の充実、立地の良さなどのメリットもあれば、地震の際に揺れやすいなどデメリットも挙げられるタワーマンション。とはいえ、メリット、デメリットの両方があるのは、低層マンションや戸建てなど、他の物件でも同じです。
タワーマンションのメリット・デメリットの両方を知ったうえで物件探しをすれば、「こんなはずじゃなかった……」という失敗を減らすことにつながります。自分が何を優先して暮らしたいかを考えて、家探しを始めましょう。
20階以上のマンションがタワーマンションと呼ばれる
低層階、中層階でも採光や眺望は楽しめる
住戸数が多いため共用施設やセキュリティが充実する傾向に
地震で上階が揺れやすい、停電で生活に不便が出るなどデメリットも