家づくりでは、長さや幅をあらわす際に、間(けん)、尺(しゃく)、寸(すん)という言葉が出てきます。これは日本で古くから使われてきた尺貫法によるサイズです。でも、メートルやセンチメートルで長さをあらわすのが一般的になっている今、なぜ、間や尺を使うのでしょう。ここでは、間、尺、寸の基礎知識と、家づくりに使われている理由を解説します。
家づくり、特に間取りのプランニング段階などで耳にすることが多い「間(けん)」「尺(しゃく)」「寸(すん)」という言葉。これは、日本に古来から伝わる度量衡(どりょうこう。長さや体積、質量を測る計量法のこと)のひとつである「尺貫法」による長さの単位です。
ちなみに、「尺貫法」の「貫」は質量を測る単位のことです。
家づくりの場面では、「主寝室のクロゼットは幅一間半」「廊下の幅は半間」などのように使われる尺貫法による単位の間、尺、寸。度量衡の国際的な標準規格として使用されているメートル法でそれぞれ何メートル、または何センチを指すのかは下の表の通りです。
この表を見ると、「主寝室のクロゼットは幅一間半」なら約273cm、「廊下の幅は半間」なら約91 cmと置き換えることができます。
尺貫法 | メートル法 |
---|---|
一間 | 約181.8cm |
1尺 | 約30.3cm |
1寸 | 約3.03cm |
ものの長さをあらわす単位には、体のサイズをもとにしているものが多くあります。例えば、インチは親指の先から第一関節までの長さからきており、1インチは2.54cmです。近くに定規があったら測ってみましょう。人によって差はありますが、おおよそ25 mmではないでしょうか。また、フィートは足の先からかかとまでの長さがもとになっています。
このように、人の体の一部の尺度を決めた単位を「身体尺」といいます。
尺貫法も身体尺を基本にできています。
「尺」という漢字をよく見てみましょう。これは象形文字で、親指と人差し指を広げてテーブルに立て、手で長さを測る様子をあらわすもの。この指を広げた長さは約15cm。2倍にすると1尺に当たる約30cm。この倍数の180cmが建築寸法の一間(=6尺)になり、人が余裕をもって寝ることができるサイズ。畳の長辺の長さもここからきているのです。
なお、広さをあらわす単位として使われる「坪」も尺貫法によるもので、1坪は6尺×6尺。つまり、人が大の字で寝たときに余裕をもっておさまる広さです。
実は、尺貫法は現在では廃止されています。
701年に大宝律令が制定されたころから使われてきた尺貫法ですが、日本が1886年に国際的な度量衡の統一を目指すメートル条約に加盟したころから、メートル法と併用される時代が続いていました。しかし、1959年に尺貫法は廃止され、1966年には国際的な統一規格であるメートル法に統一されました。
尺貫法が廃止されている現在、住宅設計の正式な書類や図面では「間」「尺」「寸」といった単位は使われなくなっています。ところが、実際の住宅設計の場面では尺貫法の単位による尺モジュールが多く使われています。
モジュールとは、基準になる単位や寸法のこと。在来工法の住宅設計では、タテとヨコがそれぞれ910mm、つまり3尺(半間)の長さのマス(グリッド)を1単位として構成されるのが主流です。
下の間取図を見てみましょう。家を構成する長さや部屋の区切りなどの間取りが910mm×910mmの尺モジュールをもとに考えられているのがわかります。また、キッチンやユニットバス、洗面台といった設備機器も910mm(3尺)の単位に納まるようにつくられ、配置されています。
上の間取図には和室は設けられていませんが、実は、畳(江戸間)は約880 mm×約1760mmで、尺モジュールの2グリッド分の3尺×6尺(一間)に納まるサイズです。洋室が中心の間取りが一般的で、和室が設けられないプランも多い現代の住宅ですが、尺貫法がもとになっている畳のサイズの影響が、今も尺モジュールが使われている理由のひとつといえるでしょう。
長さの単位はメートルやセンチメートルであらわされる現代でも、尺モジュールが使われるメリットはあるのでしょうか?
前述のように、キッチンやユニットバス、洗面台、トイレといった既製品の設備機器の多くが910mm(3尺)の単位に納まるようにつくられています。そのため、それを配置する家の間取りも尺モジュールにすることで無駄なスペースが出にくくなります。
石膏ボードや各種合板といった家を建てるために必要な面材は3×6板(3尺×6尺)のサイズが基本です。このサイズよりも大きな面材が必要な場合は、特注品になるケースがあります。尺モジュールで納まる流通材を使用することで材料費のコストアップを抑えることが可能になります。
昔に比べて体格がよくなっている日本人ですが、それでも人類のなかでは比較的小柄です。間や尺や寸は、小柄な日本人の身体サイズをもとに生まれた単位。そのため、尺モジュールでつくられた空間は、大き過ぎず、小さ過ぎず、日本人の身体の動きになじみやすいのではといわれています。
これまでにお話しした「尺モジュール」のほかに、「メーターモジュール」という言葉も耳にしたことがあるかもしれません。尺モジュールは910mm(3尺)×910mm(3尺)の1マスを1グリッドとしてプランを考えますが、メーターモジュールは1000 mm×1000mmを1グリッドとする規格です。
例えば、1グリッドの廊下の幅でイメージしてみましょう。尺モジュールの場合、柱の中心と中心の間が910 mmになりますが、壁の厚さ分をマイナスすると、人が通る空間の実際の幅はおよそ80cm弱。それに対して、メーターモジュールの場合は実際の幅は90 cm弱となり少し広くなります。
このように、1グリッドが大きくなる分、廊下だけでなく、居室や収納スペース、水まわりスペース、階段などが全体的に広くなります。ゆったりとした空間を希望する場合や、将来、車椅子の使用や手すりの設置を見据えて廊下や階段、水まわりを広くとっておきたい場合などは、メーターモジュールを採用している建築会社を探してみるといいでしょう。
和室は欲しいけれど、メーターモジュールでゆったりとした家を建てたいという場合など、尺モジュールとメーターモジュールを併用することはできるのでしょうか。注文住宅の場合、併用することは不可能ではありません。しかし、建材のサイズの種類が増えたり、特注サイズが必要になったりでコストがアップすることもあり、あまり一般的ではありません。
古来から尺貫法がもとになった尺モジュールにも、大柄になった現代人がゆったり感じられるメーターモジュールにも、どちらにも良さがあります。それぞれの特徴を知っておくといいでしょう。
間、尺、寸は日本で古くから使われてきた尺貫法による長さの単位
尺貫法は廃止されているが、住宅の設計には間、尺、寸のサイズ感が残っている
間、尺、寸がどれくらいの長さなのか、知っておくと間取りのプランニングの際に空間をイメージしやすい
住宅の基本的な設計単位であるモジュールには、尺モジュールのほかにメーターモジュールもある