賃貸の一戸建てでの暮らしにはどんなメリットがあるのだろう。そして、知っておきたいデメリットや注意点などはある? 最近の賃貸一戸建ての特徴や一戸建てと集合住宅との比較などを、賃貸物件の仲介・管理の現場に詳しいハウスメイトマネジメントの伊部尚子さんに聞いた。
一戸建てを「借りて」暮らす場合には、「購入して」暮らす場合とは違うメリット、デメリットがある。
「大きなメリットは引越しがしやすいことでしょう。近くにトラブルメーカーが住んでいた!など、暮らし始めてからご近所トラブルがある立地だったと気づいても、引越すことで解決ができます。でも、購入した一戸建ての場合、そう簡単には引越せません。その点、一戸建ての賃貸住宅は気が楽といえます」(伊部さん、以下同)
そのほか、賃貸は固定資産税や都市計画税、不動産取得税がかからない、エアコンや給湯器などの設備が壊れても、修理や交換の費用は大家さんが負担。
「ドアや窓の立て付けが悪い、冷暖房の効きが悪いなど、住んでいるとさまざまな不具合が出てくるもの。修理・交換に出費がないのはメリットです」
また、火災保険への加入も、建物については基本的に大家さんの負担となるため、入居者が加入するのは家財部分のみの保険というケースがほとんど。「賃貸の場合、保険料は建物の種別や構造、広さなどに関係なく、単身かファミリーかで決めているところが多いでしょう」
「家賃を払い続けても自分の財産にはならない」「欲しい設備があっても勝手に変えらない」「エアコンや暖房器具が古いと光熱費がかさむ」「退去時のクリーニング代はサッシが多い分、集合住宅より高め」などといったデメリットはあるが、維持管理のためのコスト負担や住み替えの制約が少ないのが賃貸の良さだ。
賃貸 | 持ち家 | |
---|---|---|
固定資産税・都市計画税 不動産取得税 |
かからない | 固定資産税(土地・建物各々)、都市計画税が毎年、不動産取得税は購入時に納税 |
住宅ローン控除での所得税の控除 | 対象外 | 住宅ローンを借りて購入した場合、所得税などの控除がある |
資産性 | 家賃を払い続けても自分のものにはならない | 自分の財産になる |
老朽化や故障による設備の交換や修理の費用 | 費用の負担はない | 費用を負担 |
設備や内装の変更やリフォーム | 勝手に変更やリフォームはできない。古いエアコンや暖房器具の場合、光熱費がかさむことも | 自由に変更やリフォームができる |
水害や地震などの災害で住めなくなった場合 | 引越しで解決できる | 住宅を再建するのに費用や時間がかかる |
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一戸建て賃貸は、都心よりも郊外、駅の近くよりも遠いエリアに多い傾向があるなど、そもそもの条件が違うため、単純に集合住宅の家賃相場との比較はできないが「実感値としては、立地条件や広さ、築年数などが同じ場合、集合住宅よりも一戸建てのほうが1割くらい高めになることが多いでしょう」と伊部さん。
ただし管理費は、一戸建ては共用部分がないこともあり、安めに設定される、または発生しないケースも多いようだ。
マンションやアパートと比較した場合、一戸建ての大きなメリットはのびのびと子育てがしやすいこと。
子育て時期で特に気になるのが子どもの『パタパタ』と走り回る足音。ソファやテーブルからジャンプした時の『ドンッ』という音にヒヤっとする親御さんも多いはず。
「足音は振動として躯体を伝わります。そのため、階下だけでなく、上階や隣の部屋にも聞こえてしまいます。騒音を気にしてマンションやアパートの1階を選んだとしても足音は上にも響くため、やはり気兼ねはしてしまうでしょう」
一戸建て感覚で暮らせるテラスハウスも、隣家とつながっているため足音は響く。
しかし、一戸建てなら上下階や隣に振動が伝わることがなく、泣き声などの声も窓を開けていなければそれほど気にしなくてすみそうだ。
一戸建てには、ほかにもさまざまなメリットがある。
子どもの泣き声や足音、テレビや楽器の音、深夜のシャワーや洗濯、掃除機の音、ドアや雨戸の開閉音など、集合住宅では自分の出す音が気になるし、隣接する住戸からの騒音に困ることもある。一戸建てなら極端に大きな音でなければ生活音は気にならず、のびのびと生活がしやすい。
駐車場付きの賃貸一戸建てなら、毎月の駐車場代がかからないケースが多い。敷地の広い郊外では2台分の駐車スペースがある物件も。
「ただし、都心部では駐車スペースがないケースもあるので、事前の確認が大切です」
「多方向に窓があり、採光や通風が確保しやすいのが一戸建ての良いところ。開放感あふれる暮らしがかないます」
庭付きの物件なら、子どもを庭で遊ばせたり、ガーデニングも楽しめる。
賃貸一戸建てでペットを飼えるかは大家次第。ペット可なら、マンションよりも一戸建てのほうが鳴き声をあまり気にせずにすんだり、庭で遊ばせたりできるので、飼いやすいといえそう。
一戸建てには、マンションと比べたときデメリットと感じられるポイントもいくつかある。例えば、冬の寒さ。築年数の古い木造一戸建ての場合、鉄筋コンクリート造のマンションに比べて断熱性が低く、冬になると家の中が寒いことも。マンションなどの集合住宅にはないデメリットを事前に知っておこう。
最近の住宅は気密性、断熱性が進化しているが、古い物件では断熱材が十分に入っていなかったり、隙間があって冷たい風が入ってきたり。そのため、冬の暖房費がかさむことも考えられる。ガス暖房で、プロパンガスの場合は、都市ガスに比べて料金が高くなることがある(ガス会社や物件によって異なる)。断熱性能は実際に住んでみないとなかなかわからないが、物件探しの際に、二重窓や複層ガラスなど断熱性の高い窓が採用されているかが、家の性能全体に配慮しているかの目安にもなるのでチェックしておきたい。
オートロックや防犯カメラなど、建物全体でセキュリティ対策がされていることが多いマンションに比べると、一戸建ては、玄関や窓など外と接している開口部が多く、セキュリティに自分で気を使う必要がある。人感センサー付き照明を庭や玄関に置いたり、防犯カメラの設置を大家さんに相談してみるといいだろう。
庭の雑草を取ったり、外構を掃除したり、一戸建ての場合は家の中だけでなく、外まわりの手入れも必要になる。
「平成23年に国土交通省から出た『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』に、庭の草取りが適切に行われず雑草が生い茂った場合、善管注意義務違反に該当すると判断される場合が多いと考えられるという内容が盛り込まれました。庭の整備費用が発生したり敷金で精算されたりする場合があるので、日ごろの手入れを心がけるようにしたいですね」
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一戸建ての賃貸物件は、もともと自宅だった建物を賃貸に出している場合と、そもそも賃貸用に建てた場合でさまざまな違いがあるが、なかでも大きく違うのが、管理体制。「自宅を貸しているオーナーさんが自主管理している場合は、例えば設備が壊れた場合、オーナー負担なのか入居者なのかなど、貸家の修繕義務についてよく理解できていないケースもあります。このようなときは、それはオーナー負担ですよ、などと言ってくれる管理会社が入っていたほうが安心して住めます」
一戸建ての賃貸物件は、例えばオーナーが転勤で家を空ける数年間だけなど、住める期間が限られた「定期借家契約」になっているケースもあるので要チェック。また「定期借家であっても、決められた期間を過ぎたあとに再契約ができるもの・できないものがあります。さらに、3年で契約したが2年で引越すことになったなど、中途解約ができるかどうかも確認しておきましょう」
特に自宅だった建物を賃貸に出した物件などは、個別性が高く、2つとして同じ物件はない。自分の条件に合う物件だった場合、早めに決断しよう。
ご近所や町内会との付き合いは、オーナーの自宅だった物件の場合は、オーナーに直接(または管理会社を通じてオーナーに)聞くのが一番。「例えばゴミの集積所を共同で管理している場合、この家に入居時に挨拶に行ったほうがいい、町内会費は払ったほうがいいなど、オーナーでなければわからないことがあります。入居者がマナー違反をすると、オーナーがクレームを言われることもあるので注意しましょう」
最近の賃貸一戸建ては間取りの工夫がされ、設備のグレードも高くなる傾向にあると伊部さん。
「特にキッチンや浴室など水まわりが充実しているのを感じます。キッチンはスペースが広がりパントリー(食品庫)が備えられていたりする物件もあります」
「外で使える水道が付いている物件もあります。ガーデニングやお子さんの靴を洗うのにも便利です。また、宅配ボックス付きの賃貸一戸建ても少しずつですが増えているようで、たまに見かけるようになりました」
また、ペット可の物件が多いのも一戸建て賃貸の特徴。参考までに、編集部がSUUMO上で検索した山手線沿線のすべての一戸建て賃貸のうち「ペット相談可」の物件は37.6%。同じく集合住宅の賃貸物件では31.0%となり、「ペット相談可」物件の割合は一戸建て賃貸のほうがやや多かった。(2023年3月13日現在)
山手線全駅の物件 | うちペット相談可の物件 | 割合 | |
---|---|---|---|
一戸建て賃貸 | 1,194件 | 449件 | 37.6% |
マンション/アパート | 222,242件 | 68,965件 | 31.0% |
一戸建て賃貸を探すときも、インターネットで探して不動産会社に問い合わせる方法が主流。SUUMOなら「借りる(賃貸)」から沿線・エリアを選び、「その他条件を指定」の「建物種別」から「一戸建て・その他」を選べば、希望エリアの一戸建て賃貸が探せる。
また、賃貸のTOPページの「建物の種類から探す」の中から「賃貸一戸建て」を選ぶと、一戸建ての物件特集ページへ繋がるため、ぜひ試してみよう。
ほかには「掲示板的なサイトに載っていることもありますが、不動産会社が掲載しているもののほか、貸主が直接掲載しているものもあります。個人対個人の取引はトラブルがあった場合の対処が難しくなりますので、あまりおすすめできません。また、転勤などで持ち家を離れる人の家を、知人を通して借りるといったケースもありますが、数はとても少ないでしょう」と伊部さん。希望するエリア・家賃・広さの一戸建て賃貸を探すなら、不動産総合ポータルサイトで検索してみよう。
賃貸一戸建てには、マンションやアパートとは違った良さがある。のびのびと開放的な暮らしを楽しみたい人は、一戸建てを借りて住むことも検討してみよう。
この記事は、2022年3月13日現在の情報です