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2023.08.29

サンライズワールド クリエイターインタビュー 第18回
『聖戦士ダンバイン』原作・総監督 富野由悠季

サンライズの作品のキーパーソンとなったスタッフに自身が関わった作品の思い出を伺うクリエイターインタビュー。第18回のゲストは今年で放送40周年を迎えた『聖戦士ダンバイン』の富野由悠季総監督にお話を伺った。
ネクスト・ダンバインは見えるか?


 

――『聖戦士ダンバイン(以下、ダンバイン)』は、今年で放送40周年を迎えました。

富野 先日、TVで『風の谷のナウシカ』(1984)を放送していましたよね。ちょっとだけ見たんですが、宮﨑(駿)監督は、根っからアニメ-ションとして物事をとらえられる人ですから、やっぱり作品の手触りに滑らかさがあるんですね。さらに『ルパン(『ルパン三世 カリオストロの城』)』以降、いろんな企画が難渋したこともありつつ、久々に映画に取り組んでみたらなんとかなったという雰囲気も漂う作品です。実は同じようなタイミングで『ダンバイン』を見直していたのですが、『ダンバイン』は……「富野っていう発案者が気に入りすぎている企画だよね」「湖川(友謙)ってのがブイブイいわせていて、メカデザインの宮武(一貴)と出渕(裕)も主張が強いよね」という作品なんです。メインスタッフ全員が「俺様が!」という顔をしてる。そういう意味で、滑らかな手触りから遠い作品なんです。スタッフの個々の能力はものすごく高かったのに、なんでこうまで評価を得られていないんだろうと思うんですが、それはやっぱり、物語を描く上での手法が極度に貧しかったという反省がある作品です。

――そもそも『ダンバイン』は、子供が手に持って遊べるサイズの玩具を想定した、新しいロボットキャラクターを開発しようというところが企画の原点だそうですね。

富野 それはその通りです。ただ、巨大なサイズのロボットにしたくなかったのは、単に玩具を展開するためだけの発想ではありません。それは作品の設定とも深く関係しています。ご存知の通り『ダンバイン』はオーラ力という生体力で動くという設定にしました。この時、あまり大きいサイズのロボットだと、自分の体から放出されるエネルギーで動かせるとは思えないでしょう? だから自分で動かせそうに思えるという“手触り感”の問題もあって、あのサイズならば適正に見えるだろうと考えたんです。そういう点でも、ダンバインのメカはとてもいいバランスで完成しているんです。とてもよくやっていたな、とも思います。だからこそ40年目に再見していて強く感じたのは、なんでビルバインは、あんなデザインであんな色なんだ、ということでした。

――スポンサーだったクローバーからのリクエストが大きかったのでしょうか。

富野 クローバーのセンスでそうなるにしても、これはひどいという話です。総監督の富野は、ここまで放任していたのか、とあきれました。『ダンバイン』の色彩設計については、湖川くんもチェックしていたわけだから、彼もOKしているはずなんですが、そういうレベルのものでもないんですよ。……実は3カ月ぐらい前に『機動戦士Vガンダム(以下、Vガンダム)』を全話見直したんです。僕は『Vガンダム』にバイク戦艦(モトラッド艦隊)を出さなくてはならなくなったことについて、本当にスポンサーにバカなことをやらされた、というふうに思っていました。ところが久しぶりに画面を見たら、まったくバカに見えなかったんです。バカに見えそうな部分を一生懸命塗りつぶしていて、むしろ見ながら「こうまでして、スポンサーのバカな注文を受け入れたふりをして、作品に取り込もうとしていたのか」ということを感じました。だからこそビルバインには、そういう「バカなことをやらされそうになりつつも、その部分を必死に塗りつぶした」という気配がまったく感じられないんですよ。

――でもビルバインは現在、オーラバトラーの中ではかなり人気があるんですよ。変形もしますし。

富野 えー、そうなの!? それはガンキャノンが大砲がついてるから人気がある、みたいなことなのかな。そういうこともあるのか。

――『ダンバイン』は、ロボットのコンセプトに昆虫を取り入れたことで、ほかに例のない作品となりました。

富野 そこはそうだろうと思います。ただ作品を見直すと、やはり気になるところがいろいろ出てきます。例えば羽根。当時から空を飛ぶ時は羽根を羽ばたかせたほうがいいんじゃないかと思っていたんだけれど、「でも手間がかかりすぎるよね」ということで見送ってしまったんです。オーラ力の表現も、透過光などを使って見せているけれど、視覚的には硬い印象が残るもので、もっと生体の持つ柔らかな雰囲気を出せないのかなと思いました。なにより気になるのは、空中で戦闘している時のポーズです。あれがすごく不自然に見えてしまうんです。

――空中に立っているような姿勢ですよね。

富野 空中だから、どうしても踏ん張っているようには見えないんです。じゃあ、どういうポーズで空中戦をさせたらいいのか。戦闘機みたいに飛行しながら、ヒット・アンド・アウェイで動き回るのがいいのか。そこにちゃんとした方法論を見つけないと『ネクスト・ダンバイン』というものはありえないというふうに思うわけです。

――羽根の羽ばたきについては『リーンの翼』のオーラバトラーで試みられていますよね。『リーンの翼』は、オーラバトラーにある程度の意思があるという描写もあり、『ブレンパワード』のアンチボディにも近い雰囲気がありました。

富野 『リーンの翼』では、悪戦苦闘してみて、あのあたりが限界かなというところに落ち着いたという気持ちです。あと『ダンバイン』らしさでいうと「リモコンとレーダーを使っちゃいけない」というのも大きな要素なのを思い出しました。この2つを使った瞬間に、オーラバトラーでなりたっている世界観というものがダメになってしまうんです。これを演出するのはなかなか手間なんですよ。そういうことを考えていると、こういうのは年寄りが考えているからうまくいかないだけで、これ以降の若い世代が、バイストン・ウェルみたいな異世界物をもうちょっと上手に作ってくれるかもしれない、と思ったりはしますね。

――視聴者視線でいうと、バイストン・ウェルという中世風異世界を舞台にしさえすれば、『ダンバイン』のような作品が作られるわけではない、ということがいえると思います。素朴な質問ですが富野監督は、バイストン・ウェルという舞台で、なにを描こうと考えていたんでしょうか?

富野 オーラ力という名前で呼ばれる人間の生体力。それから科学技術で生み出されたオーラバトラーという機械力。ここに魂の休息と修練の場所であるバイストン・ウェルを組み合わせることで、2つの力と人間の関係を浮かび上がらせたいというふうに考えたんです。でも、TVシリーズは必ずしもそういう内容になったとはいえない。だから評価というものは全然できないんだけれど、一方でとても力強いエピソードや要素もあります。アニメという媒体と『ダンバイン』というか“バイストン・ウェルもの”は、かなり相性がよいかもしれないということも、感じないではなかったですよね。

――例えば『ダンバイン』を再編集して劇場版にするということは可能でしょうか?

富野 うーん。TVシリーズの最終回「チャム・ファウ」の落とし方というのは、若い富野が自惚れている気配はあるものの、嫌いではないんです。だからTVシリーズ後半の塊を、映画サイズでまとめようとしたら、そこそこいい話になるかもしれない、という気はする。ただ1本で2時間30分ぐらいになるかもしれない。ただこの配信の時代に、映画1本総集編でまとめました、ということって、ただそれだけで終わってしまうということでもあるんですよね。

――振り返ってみて『ダンバイン』の可能性というのはどのあたりにあったと思いますか。

富野 メカもののデザインについては『ダンバイン』発で、アニメ業界全体に新たな方向性を波及させたということはいえると思います。『ダンバイン』を見ると反省の話しか出てこないんですが、デザインまわりとかでは自己卑下するつもりはさらさらなくて、むしろ威張ってます(笑)。デザインでいうとウィル・ウィプスやゲア・ガリング、ゴラオンにグラン・ガラン、みんな好きなデザインです。でも当時はああいう巨大メカも手描きだったから、限界が見えちゃったのよね。3秒しか出てこないメカを、そんなに描きこむことも難しいし、トレス線も太かった。だからここに関しては、『Gのレコンギスタ』で3DCGを使ったのと同じ感じで、巨大オーラシップをリメイクしたい気持ちはあるんです。グラン・ガランなんかは見ればわかる通り、(『Gのレコンギスタ』の)カシーバ・ミコシの原型みたいなデザインですからね。そこには90歳になっても、リメイクしたいと思える価値がありますね。

――『ネクスト・ダンバイン』の可能性が見えてきた感じですね。

富野 ただ、それが今作るべき作品なのかどうかは難しいところです。『ダンバイン』は基本的にファンタジーの世界なんです。一方で現在は、社会性を持った人間が地球という限られたキャパシティの中で、いかに永らえられるかということを考えなくてはいけない時代になっている。そこに『ダンバイン』という題材を使ってうまく迫ることができるのかどうか。そこに自分としてはまだ突破できない壁があるように感じるんです。……むしろ『ダンバイン』の可能性でいうなら、別のところにあるように思います。

――それはどこですか?

富野 実は今回、『ダンバイン』を見直してベル・アールがとても魅力的だということを再発見したんです。これは自分が年をとったからかもしれないのですが、この年齢になったからこそ、こういうキャラクターをちゃんと描いていく方法をしっかり考えたほうがいいんじゃないかとも思いました。ベル・アールには、アニメが持っている根本的な幼児性、あるいは可愛らしさといったものがあります。ベル・アールを主役にして、『ちびまる子ちゃん』に勝てるような作品を構想できれば、また新しい“バイストン・ウェル物語”というものもありえるんじゃないか。そう考えるのは決してバカなことではないんじゃないか、というふうに思いました。


とみの・よしゆき/1941年、神奈川県小田原生まれ。アニメーション監督。日本大学芸術学部映画学科卒。1964年、虫プロダクションに入社し、その後フリーに。主な監督作品は『機動戦士ガンダム』、『伝説巨神イデオン』、『戦闘メカザブングル』、『重戦機エルガイム』、『∀ガンダム』など多数。2014年には新シリーズ『ガンダム Gのレコンギスタ』をスタート。2019年から同作を再構成した劇場版『Gのレコンギスタ』(全5部作)を公開した。小説の著作も多数あり、井荻麟の名義で作詞も手がける。

インタビューの掲載を記念して、2023年9月29日(金)から始まる「聖戦士ダンバイン40周年展」の招待券をプレゼントいたします。
聖戦士ダンバイン40周年特設サイト:https://sunrise-world.net/event/003.php

詳しくはプレゼントページをご確認ください。


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