シンガーソングライター 小谷美紗子さん 世界で一番尊敬する女性、おばあちゃんの姿が道しるべ

(2021年9月12日付 東京新聞朝刊に一部加筆)

家族のこと話そう

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小谷美紗子さん(五十嵐文人撮影)

 ピアノ弾き語りの美しい楽曲に定評があるシンガー・ソングライターの小谷美紗子さんにインタビューしました。19歳の時に「嘆きの雪」でデビューしてから今年で25周年。9月17日公開の映画「君は永遠にそいつらより若い」(津村記久子原作、吉野竜平監督)では、主題歌「眠れない」を歌うなど、息の長い活動を続けています。歌に登場する「おばあちゃん」のこと、歌づくりに影響を与えているという両親のことを聞きました。

おばあちゃんを悲しませたくない

―小谷さんの歌には、「おばあちゃん」が時折登場します。

 両親が働いていて、6歳上の姉と5歳上の兄とは年も離れていたため、小さい頃はおばあちゃん子でした。世界で一番尊敬している女性は、94歳の母方の祖母です。

 祖母は戦後まもなく、長女である私の母(76)を徳島に置いて四国を出ます。赤子だった次女を連れて本州に渡り、働き口を探して転々とし、最終的に京都の山奥に住まいを得ました。その後、幼い母を迎えに行ったそうです。

 わが子と離れ離れになるという体験をしたのに、祖母は「たいそうなことではない」という態度を貫き、ことさらにつらさを語ることはありませんでした。「ありがたい、ありがたい」が口癖で、人を責める姿を見たことがありません。過酷な時代を生きた上での優しさだと感じます。祖母を歌った曲はいくつかあります。最新アルバムの「終戦の船出」という曲は、祖母の体験と生きる姿勢から生まれました。

 そんな祖母に「美紗子は優しい子だ」とよく言われました。私は特段優しい子ではありませんが、「おばあちゃんの言う通りの優しい子でいよう」と思っていました。人を恨んだり、憤ったりして、道を踏み外しそうになっても、「おばあちゃんを悲しませたくない」という思いが私をとどまらせてくれる。そんな存在です。

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映画「君は永遠にそいつらより若い」の主題歌「眠れない」を歌う小谷美紗子さん(本人提供)

父と母が人を許す姿を見て育って

―共働きだったというご両親は、どんな方たちだったのですか。

 不動産業をしていた父(79)と、70すぎまで看護師として働いた母。2人とも、人を許せる人でした。1回の過ちで縁を切ることはなく、反省してやり直そうとする仕事仲間や友達、地域の人に温かく接する姿を見て育ちました。そんな両親の人との付き合い方にも影響を受けました。

 私は虐待や政治など社会事象への憤りを込めて歌詞を書く時に、最初は「(批判する)相手の心を折ってやる」と思っています。でも背景を考え始めると、誰に怒ればいいのか迷い、最後は救われる言葉を探してしまいます。虐待をテーマにしても、加害者だけを痛烈に責めきれない。自分の弱さでもあり、良さでもあり、幼い頃から見てきた両親の生き方にも重なります。

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映画の台本を手にする小谷美紗子さん(前列)と「眠れない」の楽曲に参加した(後列左から)ベースの山口寛雄さん、ギターの田渕ひさ子さん、ドラムの玉田豊夢さん(小谷さん提供)

私はこうする。あなたはどうする?

―小谷さんの楽曲は、重いテーマを扱いながら、どこか救いがある曲も多いように思います。映画の主題歌となった新曲「眠れない」もメロディー自体は軽やかです。

 「君は永遠にそいつらより若い」は、ネグレクト(養育放棄)や暴力などシリアスなテーマが根底に流れる映画です。こうしたテーマで原作を書かれた津村さんと、この作品を映画にしようというスタッフの勇気に感動しましたし、その思いに負けないように、携わった人たちの気持ちに報いるような、応援歌のような歌にしたいと思いました。

 ただ、聞いてくれた相手の心にスッと入っていかないと、何を歌っても意味がありません。この歌だけではなく、曲を書く時はいつも、説教くさく、押しつけがましくならないように、「自分はこうする。あなたもしてみる?」「自分はこうする。あなたはどうする?」というスタンスで書くようにしています。

 ネグレクトや、義理の父親の虐待によって亡くなる子どものニュースに触れるたび、初めはどうしても「母親は何をしていたの?」と責める気持ちが生まれてしまいます。でも、母親の置かれた状態が分かってくるにつれ、もっと大勢の人で、広い視野でその親子を支えていかないといけないと強く思います。親子ともども救わないと、虐待の問題はずっと解決しないと感じています。

離れても、一家の精神的な要は自分

―今年でデビュー25周年を迎えます。19歳でデビューしたときのこと、上京して以来、ずっと離れて暮らす家族への思いを聞かせてください。

 小学校高学年から曲作りをするようになり、家でも歌っていました。父はデビュー時、「おまえはピアノの弾き語りと曲作りは天才だ。ただ、世間に受ける歌詞を書く才能は欠けている。人と違う視点でものを見すぎているから売れないだろうが、いつか認められる日がくるから、気にせず思いのままやればいい」と送り出してくれました。

 家族と離れ東京を拠点にしていますが、一家の精神的な要は自分だと思っています。もめごとが起きた時、父が人の話を聞かない時、間に入るのは私です。余裕がないと要でいられなくなるので、自分が元気で幸せじゃないとダメだと思って生きています。

小谷美紗子(おだに・みさこ)

 1976年、京都府生まれ。1996年にシングル「嘆きの雪」でデビューし、ピアノの弾き語りを中心とした楽曲を多く発表。2005年からは、ドラマー玉田豊夢さん、ベーシスト山口寛雄さんとトリオでの活動も。2019年にはアルバム「yeh」をリリース。9月17日公開の映画「君は永遠にそいつらより若い」では、主題歌「眠れない」を歌う。

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  • ヒデ says:

    アルバムiからのファンです。詩と声の表現力が素晴らしいです。
    もっと評価されなければ、ならない方です。
    世の中は、薄っぺらい詩曲を好むみたいですね。

    ヒデ 男性
  • ポテチ says:

    小谷美紗子さんを知ってから何十年も経ちますが最初は歌詞のストレートさに驚愕しました。
    知り合いにもファンになってもらい、ライブに行き喋る声と歌とのギャップにまた驚愕。

    いい歌が多いですが、普段忘れがちな大切なことや想いをいっぱい綴った詞と彼女にしか表現できない音色をもっと色んな方々に聞いて欲しいと思います。僕が好きな曲は特に、Gnu、The Stone、生けどりの花です。

    ポテチ 男性 40代
  • 匿名 says:

    小谷さんにいつも支えられています。

      
  • 匿名 says:

    もう25周年なんですね!
    美紗子さんの歌と共に私の人生はあります。悲しい時、苦しい時、そばで優しく寄り添ってくれる歌に救われています。
    体を大切に、ご活躍を祈っています。

      
  • 匿名 says:

    ・・・人と違う視点でものを見すぎているから売れないだろうが、いつか認められる日がくるから、気にせず思いのままやればいいと送り出したお父さま中々Rockですね。
    キレ味鋭い楽曲を出し続けてくれる美紗子さんが生み出された片鱗が見えた気がしました♪

      
  • 匿名 says:

    小谷さんの家族のお話、素敵ですね。
    虐待が起こる前に、ごく当たり前に手が差し伸べられるような豊かな社会を子どもたちに残したいです。

      

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