「東北『夢』応援プログラム」で2年ぶりに大船渡を訪問 競泳で北京、ロンドンと五輪に2大会連続出場した伊藤華英さんが17日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」のイベントに岩手・大船渡で登場。今回は3月…

「東北『夢』応援プログラム」で2年ぶりに大船渡を訪問

 競泳で北京、ロンドンと五輪に2大会連続出場した伊藤華英さんが17日、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」のイベントに岩手・大船渡で登場。今回は3月までの半年間、現地の子供たちを対象に行われる。この日は指導始めとなる「夢宣言イベント」を開催し、伊藤さんは2時間半にわたって10人の子供たちと交流した。

 伊藤さんが大船渡に帰ってきた。「東北『夢』応援プログラム」は各競技のトップランナーが遠隔指導ツールを駆使し、動画を通じて被災地の子供たちを指導するプログラム。伊藤さんは2016年から賛同し、コーチ役の「夢応援マイスター」として参加6年目になる。受講する子供たちから練習した動画が送られ、月1回のやりとりを繰り返しながら水泳の技術向上を目指していく。

 今回は特別な一日でもあった。これまで年2~3回は現地に足を運び、定期的に直接指導してきたが、コロナ禍により昨年以降はオンラインのみで実施。実際に大船渡に訪れるのは2年ぶりだった。半年間に及ぶプログラムの初回となる「夢宣言イベント」は感染対策を万全にして実施。小2から高2まで10人。昨年から継続して参加している子供もいるため、伊藤さんにとって出会いあり、再会ありのひと時となった。

「去年はオンラインでしたが、今日はこうやって再会できた子がいて、新しい子もいて、凄くうれしいです」。イベントに先立ち、施設の会議室で行われた開会式で挨拶した伊藤さん。続いて、日本新記録も樹立した現役時代の紹介VTRが流され、北京、ロンドンと五輪に2度出場した足跡に子供たちは目を輝かせて鑑賞した。そして、プールに場所を移し、直接指導するクリニックが行われた。

 最初に伊藤さんが個人メドレーを披露。元トップスイマーならではのダイナミックな泳ぎに子供たちは釘付けになった。バタ足の練習から始まり、けのび、息継ぎと一つ一つ丁寧に指導した伊藤さん。それぞれのレベルに合わせ、「息継ぎする時は前を見ない。足を止めないように」などと優しく声をかけた。最後に、それぞれが習得したい泳法でタイムを測定した。このタイムをどれだけ縮められるか、今後半年間、成長を目指すことになる。

子供たちの夢宣言、半年後に「今の自分より上手くなっていたい」

 再び会議室に戻り、行われたのは今回のメインイベントとなる「夢宣言」。参加する子供たちが「将来の夢」「未来のわたしの街をどうしたいか」「半年後の約束」をノートに書き込み、発表していく。

 頭を悩ませながら10分間、思い思いにペンを走らせる様子を伊藤さんも温かい目で見守っていた。

――将来の夢。

「イルカパフォーマーになりたい」
「1万円札に載りたい」
「オリンピックに出たい」

――未来のわたしの街をどうしたいか。

「震災前より店も人口も増えて誰でも仲良くできる街にしたい」
「イオンとマクドナルドが建てられる街がいい」
「津波が来てもすぐに高いところに登れるようにしたい」

――半年後の約束。

「今の自分より背泳ぎが上手くなっていたい」
「クロール25メートルを24秒から22秒に縮めたい」
「クイックターンを習得したい」
 
 など子供らしい夢もあり、被災地の未来への願いもあり、それぞれが伊藤さんに向かって約束した。

伊藤さんが伝えた言葉「努力した過程が自分だけの宝物になる」

 締めくくりには、トークコーナーで伊藤さんが幼少期から五輪選手になるまでの道のりについて明かした。小1でスイミングスクールの選手コースに転向。小5から2年間は中学受験のため水泳を離れたという。しかし、中学入学後にできた友達に「一緒に水泳部、入ろう」と誘いを受け、もう一度、水泳の道へ。そのひと言がきっかけとなり、五輪にまで道がつながっていった。

「もともとはあまり目立ちたくないような子供だった。でも、チャレンジをしたから違う自分に出会うことができた。みんな、自分が思っている以上に能力を持っているから、いろんなことにチャレンジしてほしい。そのためには好きなことを見つけ、楽しむこと。好きだから、何事も続けられる。私みたいに一度辞めても、チャンスは何回も訪れるから。やりたいことを、自信を持ってやってほしい」

 その後も日本新記録を出した当時の思い出などを明かし、大会運営に携わった東京五輪についても言及。「日本の選手がメダルをたくさん獲得したことは素晴らしいけど、その陰には充実して去っていく選手も、悔しい思いをして去っていく選手もいる」とした上で「努力した過程、頑張ったことが自信になり、自分だけの宝物になっていく。そんなスポーツの深みも伝わる大会でした」と話し、子供たちの質問にも答えた。

 あっという間だった2時間半。閉会式で、伊藤さんは「昨年は来られず、ようやく大船渡に来られて皆さんに感謝しています。何より一生懸命みんながやってくれることが私の喜び。これから動画を通じてになるけど、動きを見ていると最近練習できてないのかなとか、ごはん食べ過ぎちゃったのかなとかも見れば分かるので。実際に会えるような気持ちで動画を楽しみにしています」と呼びかけた。

 今後は動画を通じたやりとりを繰り返しながら、来年3月に予定される成果発表イベントで大船渡を訪れ、再会する予定。距離を越え、年を追うごとに絆が深まる1人の元オリンピック選手と10人の子供の絆。秋、冬と過ぎ、やがてやってくる春に、どんな姿で会えるだろうか。(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)