森田直行厩務員はさらに長い付き合いだ。
［写真４］はたぶん９４、９５年あたりに撮ったもので、アナログ写真をデジカメで再撮影したものだ。８４年のロス五輪にも出た大阪の競輪選手・中武克雄を、競輪好き矢作芳人調教助手（当時菅谷厩舎所属　現調教師）が栗東トレセン職員住宅の自宅に招き、そこに当時の遊び仲間がゾロゾロ集まったものだ。

　前列左から永井晴二スポニチ記者（現共同通信記者）、中武（前）夫人、中武克雄選手、日吉正和騎手（現調教師）、高橋康之騎手（現技術調教師）、佐藤淳調教助手（当時内藤厩舎　現荒川厩舎）。その後ろ、日吉正和にゴツンしそうなのが小林常浩調教助手（当時浜田厩舎　現ライター）、その右が乗峯、それからビワセイハなど担当した川上勲厩務員（当時浜田厩舎　現須貝厩舎）。後列左、中腰の黒い服で矢作夫人の胸を触りそうな体勢なのが森田直行厩務員（当時福島信厩舎　現松田博厩舎）、森田に胸を触られそうになっているのが矢作夫人、矢作助手（現調教師）、渡辺勉調教助手（当時内藤厩舎　現松田国厩舎）、残念ながら先年孤独死した中武ファンの白髭老人（元大阪市バス運転手）、高松宮記念優勝のファイングレインなどを担当していた掛谷厩務員（長浜厩舎）と続く（森田右隣と掛谷右隣の女性は不明、あるいは夫人か、あるいは無関係の女性か）。

　当時はこういうメンバーでよく飲み会なんかやっていた。厩舎スタッフと若手騎手の集まりという感じだが、１７、８年経って、この中から４人が調教師になった訳だ。ただ飲んで遊ぶ仲間という雰囲気だが、（乗峯などを除いて）結構勉強家の集まりだったんだなあ。最初に、この会主催の矢作助手が調教師となり、ここ２、３年、関西リーディングは取るわ、ダービーは取るわで、すでに別世界に行ってしまった感じだ。ついで日吉正和元騎手が３年前に合格し、来週の朝日杯に有力馬の一頭クラウンレガーロを出走させる。高橋康之元騎手も去年合格した。日吉、高橋の二人、騎手成績は華々しいものではなかったが、調教助手となってから、地道にコツコツよく勉強していたようだ。そして今回の森田直行厩務員の合格だ。

（松田国厩舎でクロフネやブロードアピールなどを育てた渡辺勉助手や、荒川厩舎で調教師代理のようになってスポークスマンをやっている佐藤淳助手も、たぶんその気になれば調教師になる能力はあると思うが、彼らはその方面へは無頓着のようだ）

　ドロップアウトしたのは、中列・小林常浩と、元からドロップアウトしている乗峯栄一だけか？

　しかし森田直行（呼び捨てに出来るのもあと少しだと思う）、厩務員から調教師へというのは初めてのケースらしい（中尾謙太郎元調教師が「シンザンの厩務員だった」ことで有名だが、調教師合格のときは調教助手になっていたらしい）。これはいま厩務員の人たちに元気を与えるものだろう。

　森田直行、１次試験を合格し始めてから、既に６年目ぐらいだと思う。昔と違って、いまは「一次試験合格者」の名前を発表しなくなったから、「１次試験○○人合格しました」の発表があると、知り合いの専門紙トラックマンなんかに「一次試験どうだったか知らないですか？　松博厩舎の森田って知り合いなんだけど、今年どうだったかなあ？」と聞き回った。数カ月経って「森田くん、一次は今年も通ったけど、二次でダメだったらしい」と聞いて「やっぱり厩務員から調教師ってのは無理なんかなあ？」などと、本人には面と向かって言えないけど、“事情通”に話して、勝手に落ち込んだりしていた。

　そんなとき、去年、森田夫人が４０代半ばの若さでガンで亡くなった。トレセン厚生会館の葬儀に行くと、昔、小学校入学前後のころ見た娘さん二人が、既に大学生、高校生に成長していて、必死に涙をこらえていた。せめて夫人の生きている間に「調教師合格」の報を知らせたかっただろうと、森田直行の無念を思った。今週は一番に墓前に報告したことと思う。
［写真６］は４年ほど前の森田直行の写真だ。「調教師通ったら使う写真だからね」と言いながら撮った。ちょっと時間は経ったけど、しっかり使えてよかった。
　とにかく三人とも、おめでとう。いい厩舎作ってください。