ボルト、恐怖心とライバル心から生まれた世界新=陸上男子100m
9秒58の驚異的タイムで男子100mを制したウサイン・ボルト 【Getty Images】
ボルトが「超人」となった瞬間
北京五輪で自らが出した世界記録、9秒69を0秒11も縮める大爆走。スタートからフィニッシュラインまで、いっさい手を緩めることなく走り続け、ジャマイカ生まれの怪物は人類未踏の9秒5台を記録した。
ボルトのコーチは、以前から「9秒5台は可能」と言っていたが、信じるものは少なかった。多くのスプリンターたちが、9秒7台、9秒6台を目標に、日々努力を重ねる中、ボルトはいとも簡単に、そして世界選手権という大舞台で「夢の9秒5台」をたたき出した。
ボルトはスーパースターの域を超えて「超人」となった――。
そんな瞬間だった。
万全ではなかったコンディション
原因の一つに、4月末に起こした交通事故があった。スポンサー契約するプーマ社から北京五輪3冠のご褒美としてもらった「BMW M3」を大破させる事故だったが、幸いにもかすり傷ひとつなかった。しかし、後遺症は少なからず残った。詳細は分からないが、一般的な症状であるむち打ちなどは、しばらくの間、ボルトを苦しめたのではないだろうか。そのため、欧州遠征でも100メートルでは9秒7台、200メートルも19秒5台と「怪物」ボルトにしては物足りない記録に留まった。
「交通事故の影響からか、調子が上がらなくて。そんなに悪くはないけれど、北京のベストなコンディションほどではなかった」とレース後の記者会見で述べた。勝てたこと、そして記録が出たことにほっとしている感じも見受けられた。