ボルト、恐怖心とライバル心から生まれた世界新=陸上男子100m

及川彩子

9秒58の驚異的タイムで男子100mを制したウサイン・ボルト 【Getty Images】

 陸上の世界選手権第2日は16日、ドイツ・ベルリンで行われ、男子100メートル決勝でウサイン・ボルト(ジャマイカ)が9秒58の世界新記録で優勝した。これまでの世界記録は、ボルトが北京五輪で出した9秒69。前回王者のタイソン・ゲイ(米国)が9秒71で2位、アサファ・パウエル(ジャマイカ)が9秒84で3位に入った。

ボルトが「超人」となった瞬間

 競技場の時計が9秒58で止まった時、「信じられない」と競技場のほとんどの人が思ったのではないだろうか。ボルトの走りが、そしてレースそのものがあまりにも速すぎたため、錯覚ではないか、そう感じた。まるで、「真夏の夜の夢なのではないか」と。

 北京五輪で自らが出した世界記録、9秒69を0秒11も縮める大爆走。スタートからフィニッシュラインまで、いっさい手を緩めることなく走り続け、ジャマイカ生まれの怪物は人類未踏の9秒5台を記録した。
 ボルトのコーチは、以前から「9秒5台は可能」と言っていたが、信じるものは少なかった。多くのスプリンターたちが、9秒7台、9秒6台を目標に、日々努力を重ねる中、ボルトはいとも簡単に、そして世界選手権という大舞台で「夢の9秒5台」をたたき出した。

 ボルトはスーパースターの域を超えて「超人」となった――。
 そんな瞬間だった。

万全ではなかったコンディション

 1次予選、2次予選、そして準決勝と、さながらジョギングのような走りをし、好調をアピールしていたボルトだが、コンディションは万全ではなかった。

 原因の一つに、4月末に起こした交通事故があった。スポンサー契約するプーマ社から北京五輪3冠のご褒美としてもらった「BMW M3」を大破させる事故だったが、幸いにもかすり傷ひとつなかった。しかし、後遺症は少なからず残った。詳細は分からないが、一般的な症状であるむち打ちなどは、しばらくの間、ボルトを苦しめたのではないだろうか。そのため、欧州遠征でも100メートルでは9秒7台、200メートルも19秒5台と「怪物」ボルトにしては物足りない記録に留まった。

「交通事故の影響からか、調子が上がらなくて。そんなに悪くはないけれど、北京のベストなコンディションほどではなかった」とレース後の記者会見で述べた。勝てたこと、そして記録が出たことにほっとしている感じも見受けられた。

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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