イチローの内野安打と守備エラーの境界線=木本大志の『ICHIRO STYLE 2008』
イチローだからこそのヒット
ピッチャーの悪送球を誘う絶妙な内野安打を巧打するイチローだが、公式記録のヒットとエラーの違いは果たして? 【Photo:Getty Images/アフロ】
イチローは、「サードに捕らせたかった」というから、つまりは失敗。しかし、守備では定評のあるマイク・ムシーナが送球を焦って暴投。ボールが一塁側のファウルグラウンドを転々とする間にイチローは二塁に進むと、「1ヒット、1エラー」が記録された。
普通に投げていれば、おそらくアウト。ヒットになったのは、いや、ヒットと判定されたのは、イチローだからこそとも言えるかもしれない。
“ノー・ノー”が消えた判定
記録は「H(ヒット)」。
普通の試合なら何てことのないヒットかもしれないが、試合が終わってみればその日、サバシアが許したのはその内野安打1本だけ。結果的にノーヒットノーランも消えたのだから、本人にとっては皮肉だ。
さて試合後、「あれは、エラーだ」という声が方々から挙がる。ブルワーズの監督などは、「リーグにアピールする」などと話し、実際、翌日になってチームは問題のシーンのテープを編集してリーグに送ったそうだ。
ヒットか、エラーか。
リプレーを見た人なら、確かに多くはエラーと感じたかもしれない。サバシアの動きはやや緩慢で、エラーと判断されても仕方がない(その場合、本人にとって好結果が転がり込むのだが)。
しかし、一塁に背を向けて、ボールを捕りに行った。サバシアには走者の位置関係も分からない。ああいった打球の処理の場合、一塁がセーフになったときの記録は、ほぼ自動的に「ヒット」なのだという。
セーフコ・フィールド(マリナーズの本拠地)の公式記録員に確認すれば、2年前からルールブックの中に、細かく事例が書き込まれようになり、記録員によって違いが生まれないよう、さまざまなプレーに対する判定が統一されたそう。もちろん、今も記録員の主観は生かされているが、難しいプレーほど、指示が細かいのだという。
ルールは公平なものとの前提が、そこにはうかがえる。