イチローの内野安打と守備エラーの境界線=木本大志の『ICHIRO STYLE 2008』

木本大志

イチローだからこそのヒット

ピッチャーの悪送球を誘う絶妙な内野安打を巧打するイチローだが、公式記録のヒットとエラーの違いは果たして? 【Photo:Getty Images/アフロ】

 ピッチャー前にバントが転がる。8日(現地時間)、2打席凡退の後の3打席目。

 イチローは、「サードに捕らせたかった」というから、つまりは失敗。しかし、守備では定評のあるマイク・ムシーナが送球を焦って暴投。ボールが一塁側のファウルグラウンドを転々とする間にイチローは二塁に進むと、「1ヒット、1エラー」が記録された。

 普通に投げていれば、おそらくアウト。ヒットになったのは、いや、ヒットと判定されたのは、イチローだからこそとも言えるかもしれない。

“ノー・ノー”が消えた判定

 先日(同8月31日)のピッツバーグ戦で、C・C・サバシア(ブルワーズ)のプレーについて、議論が起きた。三塁前に転がった打球を、彼は素手で処理しようとしたが、手につかず、その間に走者が一塁を駆け抜けている。

 記録は「H(ヒット)」。

 普通の試合なら何てことのないヒットかもしれないが、試合が終わってみればその日、サバシアが許したのはその内野安打1本だけ。結果的にノーヒットノーランも消えたのだから、本人にとっては皮肉だ。

 さて試合後、「あれは、エラーだ」という声が方々から挙がる。ブルワーズの監督などは、「リーグにアピールする」などと話し、実際、翌日になってチームは問題のシーンのテープを編集してリーグに送ったそうだ。

 ヒットか、エラーか。

 リプレーを見た人なら、確かに多くはエラーと感じたかもしれない。サバシアの動きはやや緩慢で、エラーと判断されても仕方がない(その場合、本人にとって好結果が転がり込むのだが)。
 しかし、一塁に背を向けて、ボールを捕りに行った。サバシアには走者の位置関係も分からない。ああいった打球の処理の場合、一塁がセーフになったときの記録は、ほぼ自動的に「ヒット」なのだという。

 セーフコ・フィールド(マリナーズの本拠地)の公式記録員に確認すれば、2年前からルールブックの中に、細かく事例が書き込まれようになり、記録員によって違いが生まれないよう、さまざまなプレーに対する判定が統一されたそう。もちろん、今も記録員の主観は生かされているが、難しいプレーほど、指示が細かいのだという。

 ルールは公平なものとの前提が、そこにはうかがえる。

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