日経ビジネス電子版 SPECIAL
特別対談

日経BP 総合研究所
客員研究員
品田 英雄

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
平間 和宏

PwCコンサルティングが切り拓く エンタテイメント&メディアの未来
循環型エコシステムの共創を推進し 業界全体の持続的成長を目指す

コロナ禍やテクノロジーの進展により、大きな変化を遂げつつあるエンタテイメント&メディア(E&M)業界。ますます多様化、複雑化する競争環境下で、持続的かつ健全な進化を実現するカギはどこにあるのか。昨年12月より「エンタテイメント&メディア ダイアログ」という新たな取り組みを始動したPwCコンサルティングの平間和宏氏と、日経BP 総合研究所 客員研究員の品田英雄氏との対話から、今、E&M業界が目指すべき道とその先の未来を展望する。

激動の時代にあっても変わらない コンテンツビジネスの本質とは?

───「エンタテイメント&メディア ダイアログ」を立ち上げた背景や活動内容をお聞かせください。

平間デジタルインパクト、情報化社会の進展に伴い、E&Mを取り巻く状況は激変しています。かつてはコンテンツを1対Nで、マスメディアを通じて同時に受け手へ届けることである程度短期間でヒットさせる、という構図が一般的でした。それが今やスマートフォンやSNS、OTT(※1)の普及により、「何を、いつ、どう見るか」はオーディエンス、受け手側優位の時代になっているんですね。すると収益を上げるためには、送り手側にもビジネスモデルの多様化や、行動履歴などを駆使したデータオリエンティッドな対応が迫られるわけです。

その一方で、いかにテクノロジーが発展しようとも、ヒューリスティックな面が強いエンタテイメントにおいて、「心を動かす」「感動を呼び起こす」「余韻を残す」といった、コンテンツの本質的な提供価値は変わらないと考えています。インターネット広告を例にしても、この20年で大きな技術進化がありましたが、受け手にとってみれば、過剰なトラッキングはストーカー行為とも受け取られ、不信感につながることもあります。当然、データがすべてを解決できるわけではありません。

平間和宏氏

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
平間 和宏

大切なのは、「不易流行」を見極めること。それには、作り手、送り手、受け手の変化を意識しつつ、E&Mの提供価値を高める正しい進化、それも一方向ではなく多様な進化のあり方を模索していかければなりません。そうしたエンタテイメントの使命を果たすべく、業界の第一線で活躍する方々と未来に向けた対話を重ね、明るい未来を共創していく場を提供するのが、活動の骨子となります。

品田PwCコンサルティングの事業領域が多様なE&M業種に、しかも細部にまで深く及んでいることに驚きました。優れた作品を作り、広めていくビジネスは、日本や世界を元気にすることにもつながります。日本が誇るエンタテイメント事業の持続可能性を高めるためにも、組織づくりや人材育成、マネタイズといった業界がやや不得意とする部分も含め、応援してくれることを期待しています。

平間業界が健全かつ長期的に発展していくためには、我々コンサル側もパートナーとしての並走支援はもとより、作り手にも寄り添った共創型プロデュースなども積極的に行っていく必要があります。その覚悟を持って、将来的にはE&M業界内外との共創、さらには競合をも巻き込んだ、新しい循環型のエコシステムの構築を目指してまいります。

※1 OTT(Over The Top):インターネットを介して視聴者に直接提供されるメディアサービスのこと。

過去のヒットランキングに見る エンタテイメント業界と受け手の変遷

───品田さんは、エンタテイメントの経済効果にいち早く着目し、「日経エンタテインメント!」の創刊編集長を務められました。また、同誌で毎年恒例の「ヒット番付」は、「日経トレンディ」の「ヒット商品ベスト30」と並び、“時代を映す鏡”としても注目されています。E&Mの歴史を振り返るうえで、気になるトピックスはありますか。

品田「日経エンタテインメント!」を創刊した1997年は、まさにエンタメ業界の転換期。映画でいうと、前年の96年は映画館入場者数が1億1958万人と戦後最低を記録した年なんですね。それが97年には邦画アニメや世界的な大作の大ヒットが出たことにより、一気に2000万人以上増加しました。その後の3D映画の登場などにも後押しされ、映画館に行くという日常的な娯楽が若者をはじめ一般層にも広がり始めたわけです。

品田英雄氏

日経BP 総合研究所
客員研究員
品田 英雄

また、このころはテレビドラマやレンタルビデオが隆盛で、音楽もミリオンヒットが続出する時代。ところが、レコードがCDに、CDがデータ配信となり、やがてライブやフェスブームが来るというように、時代とともにメディアや箱の形が変わることによって、マーケットのありようは変化していきました。同じことは映像の世界でも現在進行形で起きていますね。

平間ハード面では、「お茶の間」にテレビのリモコンやレコーダーが浸透すると、パーソナルメディアへの進化が始まりましたよね。ソフト面でも、ファーストウィンドウが劇場公開だった時代から、昨今では映画、テレビ、OTT、通信キャリアサービスなどが複雑に絡み合うウィンドウウィングモデルに変容しつつあります。

品田そこに追い打ちをかけたのが、SNSや動画配信サービスです。それまで受け手側だった人たちが、どんどんコンテンツを発信するようになったんですね。結果、多様性が一気に広がった。それで日本のエンタテイメントの層が厚くなると思ったら、実はあらゆる分野にマニアックな人々がたくさんいた、ということが可視化されてきたのが今の時代です。