【フェブラリーS】まるで歴戦の砂の猛者! モズアスコットの強さとは

勝木淳

2020年のフェブラリーSを制したモズアスコットⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ⒸSPAIA(撮影:三木俊幸)

ダート戦線の細分化

昨暮れのチャンピオンズCの1、2着馬クリソベリル、ゴールドドリーム、東海S1着エアアルマス、東京大賞典1着オメガパフューム、川崎記念1着チュウワウィザード、冬が旬のダート競馬、その好走馬が多く参戦しなかった第37回フェブラリーS。残念ながら故障したり、中東に大きなレースが創設されたことも一因ではあるが、舞台である東京ダート1600mという特殊性がそうさせているとも思えなくもない。国内の主要路線が2000m前後の中距離路線に固まるなか、ダート王決定戦がマイル戦という違和感はなくはない。

出走馬は根岸S1着モズアスコット、昨年の覇者インティ、東京ダート1600m4勝サンライズノヴァとアルクトス、1800mがギリギリ守備範囲のヴェンジェンスなどマイルだからこそという馬ばかり。レベル面で疑問を感じつつも、ダート界もこうした距離体系による細分化が進んでいることを実感する。置かれた場所で咲くのではなく、咲きたい場所で咲くもの。サウジアラビアという選択肢がダート界に新たな変化をもたらした。JRAから地方、地方からJRA、そしてJRAから海外へ。フェブラリーSは多様な選択肢のなかのひとつとなりつつある。

モズアスコットの勝因とレース分析

マイルでもっとも強い馬を決めるレースはモズアスコットが根岸Sから連勝、一気に頂点へ駆けあがった。

初ダートだった根岸Sでは出遅れたモズアスコットは本番ではスタートをきっちり決め、中団のインに待機。ロスを最小限に抑える競馬できっちり抜け出した。インで砂をかぶっても一切怯まず、ダート戦2戦目とは思えぬ落ち着き払った姿は歴戦の猛者のごとく。キックバックに怯んだり、それを考慮して馬群の外目を走るようであれば、ここまで完勝できたかどうか。その意味でも非の打ちどころがない勝利だった。

レースラップ
12.5-10.9-11.2-11.8-12.3-12.2-11.9-12.4

前後半800m46.4-48.8とワイドファラオとアルクトスが作った流れは先行馬には厳しいものだった。中盤の12.3-12.2は先行勢が息を入れるには遅きに逸し、中団にいる馬たちが脚を溜めるのに恰好のラップだった。モズアスコットは4角8番手、展開をもっとも味方につける位置だった。

長岡禎仁の好騎乗

GⅠ初騎乗の長岡禎仁騎手とケイティブレイブは最低16番人気を覆す激走。こちらはモズアスコットの直後、先行馬群と後方馬群の切れ目という願ってもないポジションニング。同位置にいた4着ワンダーリーデルとともに最後の直線でも周囲に馬がおらず、スムーズに外に出せた。最小限のロスで抜けてきたモズアスコットには敵わなかったが、騎乗としては満点に近い。若い頃は西日を気にするなど精神的な繊細さを内包していたケイティブレイブを控える競馬で機嫌を損ねずに力を出させた、長岡禎仁騎手の好プレーは今後の騎手人生の転機となるかもしれない。ただし、こちらはフェブラリーS過去6、11着。このレースに適性ありと判断する材料はないに等しく、16番人気激走に脱帽するしかない。

3着サンライズノヴァは本来の待機策がハマった。後方一気の脚質ながら東京では流れに左右されずに終い差をつめてこられる。東京マイルでこそという馬なので、今後は適鞍への出走に苦労するかもしれないが、東京出走時には警戒を怠ってはいけない。

敗退組から買える馬はいるか?

上位が中団より後ろの馬たちだったことを考慮すると、先行して一旦抜けだしたタイムフライヤーは買いたくなる一頭。ただ、前半の速い流れのなかでも折り合いを欠いており、最後はその分だけ甘くなったので、今後もその危険をまた予感させる内容。ダート戦線でさらに思い切った作戦をとる必要がありそうだ。

一方、上位人気では前年覇者のインティが14着惨敗。スタート直後にミッキーワイルドと接触する場面があり、思うような先行態勢が取れなかった。控えた東海Sの手応えから武豊騎手はもっと強気な番手あたりを追走するような騎乗を描いていたのではなかろうか。前年は前半800m48秒0のマイペース。今年の前半800m46秒4は厳しかったか。

今後もフェブラリーSはダート界の序列というより東京ダート1600mにどれほど適性があるかという視点が予想する側に必要不可欠となるだろう。出走馬のレベルを問うのではなく、出走馬の適性、いいかえれば個性を探るような予想が求められている。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「 築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。

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