日本中の山々に立ち並ぶ杉。

日本で最も多く植林されているのは杉だという話を聞いたことはありますか?

私たちにとって身近な存在である杉ですが、改めて詳しく知る機会はなかなかありません。今回は、林業に詳しい技術士 網田克明さんに教えていただきました。

杉林

 

杉は日本の固有種。 学名を直訳すると「隠された日本の宝」

杉(スギ)は、日本の固有種です。じつは、日本にしか生育していない植物なんです。

日本の杉は、ヒノキ科スギ亜科スギ属 に分類される常緑針葉樹で、学名をCryptomeria japonica(クリプトメリア ヤポニカ)といいます。

Cryptomeriaは「隠された宝」、japonicaは「日本の」という意味です。

古代から日本では神社仏閣や住居などの材料としてスギが使われ、伐採したあとの山には苗木を植えてきました。

いにしえの時代から活用範囲が広く、生活に身近な樹木。まさに杉は「隠された日本の宝」といえますね。

杉は、日本で1番多く植樹され、成長も早い

日本の杉は、本州の北端・青森県から、四国、九州、屋久島まで自生で分布しています。

日本の森林面積のうち、約4割が人工林です。そのうち1位は杉で44%。2位のヒノキは25%ですから、杉が圧倒的に多いのがわかります。

杉は一年中、緑色の葉で覆われている円錐形の樹木で、成長が早いのが特徴です。

成木となるまで杉は35年〜40年ほど、ヒノキでは40〜50年とされています。これを聞くと、杉の成長の早さがおわかりいただけるでしょう。

また水を好む植物で、土壌水分ばかりでなく、空中湿度にも深く関わるとも言われています。
徳島の吉野川南岸から剣山周辺は全国有数の多雨地帯で、もともと杉生育の適地でした。
 




林野庁 スギ・ヒノキ林に関するデータより

杉は伐採して活用すべき。山の保水力向上にも繋がる

杉を伐ると森林にダメージを与えるのでは?と心配する人がいるかもしれません。
日本国内で50〜60年以上成長した杉を伐ることは、環境にとって大切なことなんです。

杉を伐採し、新たな苗を植え育てることで、二酸化炭素の吸収量が増加しますし、山の保水力を高めることにもつながります。

一方で、手入れをすることを前提に植林された杉は、間伐や伐採をしないと山が荒れ、環境の悪化を引き起こします。


もちろん、伐採した杉で家を建てたり、家具・建具を作ったり、土木資材など幅広く利用することが、地元の産業への活力にも繋がります。もっと日本の杉を使っていくべきだと思います。

ちなみに、海外で見られるような違法な森林伐採は別の話です。
自然環境などに配慮しながら、必要に応じて適切な木の伐採をしていくべきなんです。

私たちが使う木材が、どこでどのように伐採されたものなのか、意識することも大切なんですよ。

 

杉は建物の構造体や内外装におすすめ

日本の杉はどんな風に使われていますか?

最もわかりやすいのは、古くに建てられた神社仏閣や民家。地域によって違うと思いますが、特に徳島のような昔から杉が育ってきた場所では、杉が使われていることが多いと思います。
今のように物流網が整っていない時代には、地元の山で杉を伐採し、建造物を建てていたのです。

杉の由来は「まっすぐ」とも、言われています。
上にまっすぐ成長するため、木目がキレイに通っていて、木材にしたときに加工しやすいのが特長です。

また軽いわりに強いので構造的にも有利で、柔らかい木目と堅い木目が適度に組み合わさることで、優しく美しい表情を見せてくれます。
ですから、建物の梁・桁などの力強い構造物に向いていますし、ふすまや障子などの軽さと強さの両面が求められる建具にも適しているんです。

建物だけではなく、桶や樽など、生活に身近な道具を作る材料としても使われてきました。
最近では、素足で歩いたときの温かさが好評で、杉の無垢材をフローリングとして使う建築例も多く見られますね。

杉に期待できる効果はありますか?

以前、徳島県と徳島大学、京都大学、徳島文理大学らと行った実験では、徳島すぎはシロアリに対する抵抗力が非常に強い事が分かりました。

特に、杉の中心部の赤や黒の部分には、虫や微生物の繁殖を防ぐ耐久性物質が多いので、建物の構造体や内外装におすすめです。

特に、徳島すぎの黒心材にはクリプトメリオンなどの極めて強い殺蟻成分や、フェルギノールなどの高い抗菌成分が含まれている事を明らかにしています。

植物は傷つくとフラボノイドなどの色素成分がつくられることが知られており、杉が黒くなっているのは、なんらかの防御機構が働いていると考えています。

花粉症の人が杉を身近に使っても大丈夫

杉の板には花粉は付いていませんから、花粉症の人でも杉で建てた家に住めますよ。
まずは無垢の杉材を使っているモデルハウスに行ってみて、体験してみてはいかがでしょうか?

森に入ると、いわゆるフィトンチッドと呼ばれる芳香成分で爽やかな気分になりますが、杉の材料表面からも、そのような成分が揮発することで快適感を味わえます。

また、スギに含まれる成分が、交感神経を抑制して、睡眠を促進すると考えられています。
徳島大学らとラットで行った実験では、スギの香りのするゲージでは夜間の活動が少なく、実際の部屋で学生に行った実験では、眠りに落ちるのが早かったというデータもあります。



杉の内装にリフォームするのは無理でも、杉のアロマオイルを寝室で使うことで同じ効果が得られるかもしれません。





●この記事の監修

技術士(森林部門) 網田克明さん
鳥取市出身。徳島県入庁後、徳島県立農林水産総合技術支援センターを経て、徳島県木材協同組合連合会 専務理事。高度成長期から現在にかけて、徳島の林業や木材に関する業界を間近で見守ってきた。「徳島すぎ長伐期材の研究-130年生の細胞から見えるもの」(林業普及双書)、「未来につなげる長国の森~県南部の林業史~ 」(技術士会会報)、「徳島すぎ需要拡大の軌跡 ~徳島県の取り組み~(木材工業)」、「とくしま木育ハンドブック(徳島県発行 共著)」など執筆。趣味はマラソンのトレーニングで、狸の祠を走って巡る事。朝ドラに影響され、30年前に購入した「植物知識」を皮切りに牧野ワールドを満喫中。