ツメタガイ

特徴

(写真:2020年2月中旬、三番瀬で採集。貝殻の直径約5cm(貝殻の直径)。ルアー釣り中、海底の方を探っていたら針に引っ掛かってあがってきた。目盛りは1mm)

レア度:★★★☆☆ 軟体動物門 腹足綱 吸腔目 タマガイ科 学名:Glossaulax didyma 英名:Bladder Moon shell よく見られる季節:春~初秋

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最大で貝殻の直径が約8cm、高さが7cmほどになる。ただ浦安ではそのような大型のツメタガイを見るのは稀で、貝殻の直径が5~6cmぐらいのものをよく見かける。

貝殻は丸っこい半球状で表面は凹凸が少なくつるっとしている。貝殻の表面は上側が褐色~暗褐色で、逆に底側は白い。貝殻の中心部には濃い紫色をした滑らかで光沢がある臍盤(さいばん)があり、その下にへそ穴(臍孔)が開いていてる。この臍盤の形態がツメタガイ類を見分ける重要な形質にもなっている。また殻口は半円形でとても大きい(下の写真参照)。

軟体部(足)が非常に大きく、殻口から大きくはみ出して、貝殻全体を覆うこともある(下の写真参照)。またこの軟体部(足)を上手く使って、砂の中をブルドーザーのように進む(下の写真参照)。

「アサリ」や「サクラガイ」などの二枚貝を食べる貝としてよく知られており、漁業関係者からはかなり嫌われている。潮干狩りに行くと貝殻の殻頂あたりにに1~2mmほどのすり鉢状の丸い穴の開いた二枚貝の貝殻を見かけることがあるが、それはツメタガイに食べられた跡であることが多い。

ツメタガイは獲物を見つけるとこの大きな軟体部(足)で獲物を包み込み、足の一部から酸性の液体を分泌して相手の貝殻を脆くしてから、ヤスリのような歯が並んだ歯舌(しぜつ)をチェーンソーのように動かして貝殻に穴を開け、その中に口を突っ込み中身だけを食べる。一説にはツメタガイは夜に二枚貝を探すという話もある。

産卵期は春~夏にかけてで、その時期に三番瀬などの干潟に行くと、ツメタガイが砂と卵を固めて作った卵塊(通称「砂茶碗(スナヂャワン)」)を見ることができる(下の写真参照)。この「砂茶碗」はメスのツメタガイが砂の中で粘液と卵を砂に押し付けるようにして作るそうだ。ちなみに1つの砂茶碗には約3万個以上の卵が入っている。

貝殻の穴開けといい「砂茶碗」作りといい、見た目に反して器用なやつだなと感心する。

(2023年8月)

貝殻の底側から撮影。殻口は半円形で大きく、その内側は暗い紫色をしている。また貝殻の中心部には濃い紫色をした滑らかで光沢がある臍盤(さいばん)があり、そのしたにへそ穴(臍孔)が開いていてる。目盛りは1mm
貝殻に凹凸は少なく、全体的にツルっとしている。貝殻はそれなりに硬いが強く踏みつけたりすると割れる。目盛りは1mm

灰色の軟体部(足)を大きく広げて移動している。この軟体部(足)で「アサリ」などの貝類を包み込んからゆっくりと食べる。これを見た時はいつも「貝殻のどこにこれだけ軟体部を収納するスペースがあるんだ!?」と驚かされる

ツメタガイの卵塊。メスが砂の中で、粘液と卵を砂に押し付けるようにして茶碗状の卵塊を作る(器用な貝だ)。これは通称「砂茶碗(スナジャワン)」と呼ばれて、1つの「砂茶碗」に約3万個以上の卵が入っている
ツメタガイによって穴を開けられたと思われる「サルボウガイ」の貝殻。目盛りは5mm
ツメタガイによって開けられたと思われる穴を拡大。非常にキレイなすり鉢状の穴をしている。職人技だ

採集する

(写真:2019年9月下旬、三番瀬で撮影。砂の中を進むツメタガイ)

狙って採集したことはないが、潮が引いた三番瀬の少し沖の方を歩いていると砂の上にいるをときどき見かける。

また写真のように砂に浅く潜りながら移動する姿を目にすることもある。砂に潜る貝なので、潮干狩り中に見つかることも多い。

ツメタガイを採集する際には少し注意がある。ツメタガイはストレスが加わると?体からけっこうな量の粘液を出す。そのためツメタガイと魚類などを一緒に入れておくと、その粘液で魚類が弱る or 死ぬことがあるので注意したい。

飼育する

(写真:2017年3月中旬、マーレ水槽で撮影。それまでずっと水槽の砂中に潜ったまま姿を見せなかったツメタガイが、急に砂から這い出てきた)

飼育した、と言っていいが分からないが、三番瀬水槽では過去に何度か水槽に入れたことがある。水槽に入れるとすぐに砂に潜るので、はっきり言って鑑賞向きではない。

写真のツメタガイも半年以上砂に潜りっぱなしだったが、年が明け3月になり春めいてき頃、急に砂からグワーっと現れた。繁殖シーズンが近くなったからだろうか(たまたまか?)。

ちなみに水槽の水温は年中一緒で照明もタイマーで管理でしているのだが、何を目安にして現れたのだろうか? また水槽に入れてからはエサとなりそうな二枚貝を水槽に入れることはほとんどなかったのだが、半年以上何を食べて生きながらえていたのか?

なかなか謎の多い貝である。

2022年4月中旬、採集したツメタガイを自宅水槽の隔離ケースに入れて一時飼育していたのだが、奇妙な行動を取るシーンを目撃した。動きを止めて軟体部(足)一部を筒状に丸めて、煙突のようなものを作り出した(写真中央上)

この軟体部(足)を丸めて作られた煙突のようなものは、水管か何かなのだろうか?

食べる

(写真:2020年2月中旬撮影。水だけで茹でたツメタガイ)

煮たり茹でたり、中にはエスカルゴ風にして食べられているそうだが、私はツメタガイ本来の味を知るために、水だけで5分間茹でて身と肝を食べてみた。

身は硬くザクザクとした食感をしており、味はこの辺りで見られる他の貝類とは違った感じ(サザエ系の味ではない)。味は旨味は薄いがでほんのりと特有のクセというか味がある。

何と表現したらいいか分からない味だ。不味くはない。食いごたえはあるので、やはり味付けをすると引き立つ貝なのかもしれない。

肝は磯の風味が強くえぐみも少しある。また噛んでいると奥からかすかに苦味が沸いてくる。たくさんは食べれない感じだ。珍味の類だと思う。