高橋 愛

たかはしあい/1986年、福井県坂井市出身。モーニング娘。の第5期メンバーとして10年在籍。モーニング娘。第6代リーダーを務め、Hello! Projectのリーダーとしても活動。卒業後は女優としてミュージカルや舞台・ドラマをはじめ、モデルとしても活躍中。自身のこだわりを生かした、各ファッションブランドとのコラボアイテムも展開している。

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あたしの言葉、なんでつうじんのやろ?

——いきなりですが、福井弁を何か、教えてもらえますか?
高橋 はい(笑)。「おちょきんしね」は「正座して」という意味。「はよしね」は「早くして」。
上京したての頃、普通に言っちゃってモーニング娘。の同期に引かれました。「なんでぇあたしの言葉はつうじんのやろぉ。みんなの普通とあたしの普通は違うがぁ」と。自分が訛っていると思ってないから、標準語の先生のことを、「なんてぇしゃべりかたしてるんや~」なんて言って。

——そんなデビューから23年。2023年のモーニング娘。公演では歴代メンバーが集結しました。
高橋 泣きましたね。ファンだった時代もあるし、いまも安倍(なつみ)さんと同じ舞台に立ってる!って感動します。初めて行ったコンサートもモーニング娘。で、サンドーム福井という会場でした。シングルCDをレンタルショップで借りてきて、親に「これがぁなかざわゆうこでぇ~」って、一生懸命説明していました(笑)。

——オーディションを受けたときのことは覚えていますか?
高橋 中2の時、風邪で学校を休んだ日にモーニング娘。が新メンバーを募集すると、友だちが言っていたのを思い出して。当時、オーディション番組は福井で流れていなかったので、地元のテレビ局に問い合わせたら「うちじゃないです」と(笑)。でも、「ちょっと調べます」って次の日、連絡をくれたんですよ。
それで、母と応募用に歌を録音できるカラオケボックスを探し、安室奈美恵さんの『NEVER END』と、宇多田ヒカルさんの『Auto­matic』など3曲も歌って。なぜかモーニング娘。の曲以外(笑)。

——中学では合唱部で?
高橋 宝塚歌劇団を目指していたので、歌の練習にいいかなと思って入ったら、レベルがすごく高くて。バスで中部大会や全国大会に行くのですが、長野でリンゴ狩りをしたり、楽しかったなぁ。
私がモーニング娘。に受かり、その合宿に行く日と合唱部の全国大会が同じ日で、大会には行けなかったんです。まだ、自分がモーニング娘。に入るなんて思ってなかった頃、合唱部の子とモーニング娘。のCDジャケットをまねたポーズで撮ったプリクラがあとで出てきて、自分で予言してた!?って思いました。

——最近、福井に帰省は?
高橋 大使のお仕事をさせてもらっているので、結構帰ります。
帰省すると、欠かさず行く神社があるんですよ。小さい頃に近所の『鈴木万屋(まんや)』という本屋さんの子と、よく一緒にお祭りに行っていた八幡(はちまん)神社で、行くたびに何か背中を押してもらっているような気持ちになれるんですよね。
お参りしたあとは、神社のそばにある老舗のお餅屋さんでイチゴの和菓子を買うのも楽しみ。
ちなみに鈴木万屋は『火垂(ほた)るの墓』にゆかりがあるんですよ(作者が妹に櫛を買った店。作品のモチーフに)。改めて、地元に歴史やパワーを感じています。

定食ではメインになる福井の「あぶらげ」

高橋 福井は神社やお寺が多いので、めぐるのも楽しいです。福井駅近くの足羽山(あすわやま)にある毛谷黒龍(けやくろたつ)神社は、パワースポットで有名ですし、永平寺では精進料理が食べられて、宿坊もあるんですよ。

——精進料理にご興味が?
高橋 あります! もともと福井はお豆腐の文化があるんです。福井の厚揚げは、ふわふわの「あぶらげ」(一般的な油揚げ)で、ネギと大根おろしをのせて、醬油をかけて食べるんです。あぶらげステーキ定食は、あぶらげがメインになる(笑)。小さい頃から、あぶらげは煮物や味噌汁、炊き込みご飯、どこにでも入っていました。揚げたてを出してくれるお店(『谷口屋』の食事処)もありますよ。

福井県民にはおなじみの老舗『谷口屋』の竹田の油揚げ。外はサクッと香ばしく、中はジューシー。メインになる味!
福井県民にはおなじみの老舗『谷口屋』の竹田の油揚げ。外はサクッと香ばしく、中はジューシー。メインになる味!

——お魚もお好きとか?
高橋 大好きです。むかしから行くのは、回転寿司の「アトムボーイ(現『海鮮アトム』)」。すごくおいしくて、決して安くはない(笑)。高級なお寿司屋さんのネタが流れてくると思っています。
それから日本海につながる三方五湖(みかたごこ)。湖によって水の色も魚の種類も違うので、いろんな魚介に出会えるんです。なかでも、白エビや甘エビがおいしい。
福井のふるさと納税の1位はカニかと思いきや、エビなんですよ。三国のほうでは、丼にたっぷり盛られたエビ丼が食べられます。

——絶品あぶらげに美味な魚介。さらに米どころでもありますね。
高橋 お米は、すごく食べます。コシヒカリも発祥は福井ですし。私が通っていた春江小学校では、給食にご飯だけの弁当箱が出てくるんです。学年が上がるにつれ、弁当箱が厚くなる。チャーハンや炊き込みご飯の日もあるし、パンの日でもご飯が出る。わはは~。

——福井あるある!?
高橋 そうかも。あるあるで言うと、福井では「カツ丼」と注文すると、ソースカツ丼が出てきます。卵でとじたのは「卵とじカツ丼」か「上カツ丼」。小さい頃、おそば屋さんの『つるき 宝永支店』によく行ってたんです。父が頼むソースカツ丼とそばの「越前セット」が羨ましくて、大人になって食べられたときは感動しました。

燃えたぎる情熱は誰にも止められない

——福井県の人をひと言で表すと、どんな人ですか?
高橋 ……シャイだと思う。母校で生徒さんに向けてトークショーをしたとき、「夢がある人」って聞いたら3人くらいしか手を挙げなくて。でも、生徒さんに事前アンケートを実施した結果、本当は98%の子は夢があったんです。自分を抑えちゃう分、個性的でぶっ飛んだ人が多いと思います。
去年、私が出演した福井が舞台の映画『おしょりん』でも描かれていますが、未知のメガネ作りに挑戦し、何度挫折してもちょっとやそっとじゃやめない。外からは見えないけど、みんな燃えたぎるアツいものをもってる。私もオーディションを受けるときは、モーニング娘。に入りたい。私の人生だから、誰も私を止められない~と思っていました。

——アツい14歳ですね。
高橋 私自身はシャイじゃないからこそ、福井を出たんだと思います。でも、心がオープンじゃない時期はありましたね。モーニング娘。の中でしっかりしなきゃって意識が大きくなりすぎ、どうせ私なんかって。でも、自分で勝手に落ち込んでる?と気づいてから楽になって。あの時期があったからみんなの相談にのれたし、気持ちがわかるようになれたと思う。

——そんな仲間たちに、福井を案内するならどんなコース?
高橋 私は坂井市出身なので、まずは福井空港へ。箱から飛び出すような空港の雰囲気が好きなんです。坂井市にも空港があるんだぞ、小型機に乗れるイベントもあるんだぞ、と知ってもらいたい。
それから世界三大恐竜博物館の福井県立恐竜博物館と、世界三大奇勝の東尋坊。東尋坊は上から見る断崖絶壁が有名ですが、遊覧船で海から見上げる崖も絶景です。

世界でも3カ所といわれる、大規模な柱状節理の断崖絶壁を周遊する東尋坊観光遊覧船。船からしか見られない絶壁にも、実は恐竜がひそんでいるらしい!?
世界でも3カ所といわれる、大規模な柱状節理の断崖絶壁を周遊する東尋坊観光遊覧船。船からしか見られない絶壁にも、実は恐竜がひそんでいるらしい!?

高橋 鯖江の橋立山には、ロサンゼルスのハリウッドサイン風の「SABAE」という看板があるんです。なので、大好きな映画『アイアンマン』の主人公(トニー・スターク)の別荘っぽいものを東尋坊の崖に造り、もう一つのハリウッドにしたい! そんな夢を語らいながら、最後はいま一番行きたい、あわら温泉の「グランディア芳泉(ほうせん)」別邸「個止吹気亭(ことぶきてい)」の露天風呂でゆったりと。

——盛りだくさんですね!
高橋 忙しいですよ(笑)。福井は嶺北と嶺南で言葉も文化も違うので、北から南まで渡ってほしい。

「グランディア芳泉」別邸のガーデンスイート。温泉露天風呂付きの趣向を凝らした16室がある。
「グランディア芳泉」別邸のガーデンスイート。温泉露天風呂付きの趣向を凝らした16室がある。

やってみたい、畑ファッションショー

——最後に今後やりたいことを。
高橋 「fukuu(フクウ)」という私の洋服ブランドがあるんですが、福井の人とつながったり、福井産の土に還る生地に出会えたり、改めて自分のルーツを感じるんです。そのフクウを、やりたいこと全部のプラットホームにして、学校みたいにできたらなと。

——やりたいこと全部?
高橋 昨年、福井に古いビルを買ってリノベーションしている最中なのですが、夫のあべ(こうじ)さんも仕事で毎週通っている青森に温泉を買ったんです。そこも一緒に修繕をして引き継ごうと。

——洋服にビルに温泉……?
高橋 青森には古布を裂いて織る「裂織(さきおり)」という伝統工芸があるので、それでフクウの制服を作ったり、福井のデッドストックの生地で一点ものの服を作ったりして、福井の畑でファッションショーもしてみたい。福井だけじゃなくいろんな土地やアイデアをつなぐ、ありそうでなさそうな、なさそうであるような世界を妄想中です。

——ワクワクしますね。
高橋 私のいまのモットーは「ご機嫌であればいい」です。シャイな福井の人が私を見て「そんな自由に生きていいんだぁ~」と思ってくれたらうれしいです。

聞き手=さくらいよしえ 撮影=千倉志野 ヘアメイク=今村友美(Lila)
『旅の手帖』2024年4月号より