見落とされがちだけど、実は重要!「洗米・浸漬」工程の目的と方法を解説

2023.06

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見落とされがちだけど、実は重要!「洗米・浸漬」工程の目的と方法を解説

瀬良 万葉  |  日本酒を学ぶ

日本酒造りにおいて、米が重要な役割を果たすということは、多くの人の知るところになりました。メディアやファンの間でも、精米歩合が話題になる場面は多く、米を蒸す光景が酒造りを象徴するイメージとして使われているのもよく見かけます。

しかし、精米と蒸きょうの中間にある「洗米」や「浸漬」の工程は、注目される機会が少ないと言えます。洗米は、精米後に残った米の外側の部分をしっかり取り除くための工程。浸漬は、蒸米や麹の品質に影響する吸水率をコントロールする工程。米を洗って水に浸けるという単純な作業のように見えますが、どちらも、酒の仕上がりに大きく影響する、とても大事なプロセスなのです。今回の記事では、そんな洗米・浸漬の目的や方法を解説します。

洗米の目的

洗米の目的は、精米後に米の表面に残る「糠(ぬか)」を取り除くことです。糠とは、精米をおこなった際に発生する粉状の部分で、皮や白米の外側部分など、本来精米で取り除きたかった部位で構成されています。

糠にはタンパク質や脂質、ビタミンなど、多くの成分が含まれています。栄養素のかたまりともいえる糠ですが、日本酒造りにおいてはその豊富な成分が雑味の原因となってしまうため、洗米によって除去する必要があるのです。

洗米の方法

日本酒造りにおける洗米の方法を見ていきましょう。酒米は飯米よりも表面を多く削ることがほとんどなので、洗米についても、家庭でごはんを炊くときとは少し勝手が異なります。

手洗いでの洗米

古くからの洗米方法といえば、手洗いです。ときには足が使われることもありました。冷たい水に手や足をつけて米を洗わないといけないので、とても大変な方法です。しかし、米の割れを防ぎやすく、浸漬時間も柔軟に調整しやすいなどの理由から、今でも手洗いにこだわって洗米をおこなう蔵はあります。

機械による洗米

技術の発達により、洗米用の機械が発明され、手洗いに比べて効率的な洗米ができるようになりました。以下のとおり、洗米機にはいくつかの種類があります。

大型の洗米機

機械に米を投入すれば、洗米はもちろん、浸漬から蒸米設備への輸送まで自動でやってくれる、生産効率が高い洗米機です。連続蒸米機と組み合わせてよく使われる、大量生産に向いた機械で、逆にある程度生産量がないと使いづらいともいえます。

水と米を混ぜて攪拌することで洗米する仕組みで、一度に大量の米を処理できる一方、摩擦により米が割れる、糠が残る、吸水率(※)のコントロールがしにくいといったデメリットもあります。

なお、大型洗米機の一種として、廃水を減らせる「無洗米方式」の洗米機も一部で使われています。こちらはブラシ状のパーツで糠を取り除く仕組みです。

水圧式洗米機

次に、少ない量でも洗米できる「水圧式洗米機」 が登場します。洗米時間や労力は大型の洗米機に劣りますが、その分丁寧に米を洗うことができ、吸水率のコントロールも可能です。また、米の割れは完全に防げないまでも、大型の洗米機に比べれば減らすことができます。

この機械が登場した段階では、まだ手洗いにこだわって洗米を行う酒蔵も多くありました。その理由は、「丁寧に手洗いする方が、糠をきれいに落とせる」ということからでした。水圧式洗米機による洗米は、洗米にかかる労力もクオリティも、大型の洗米機と手洗いの中間にある方法といえます。

MJP

ここ10年ほどで普及が進んだ最新型の洗米機が、株式会社ウッドソンの「MJP(混気式ジェットポンプ:Mixed Air Jet Pump)」です。少量ずつ洗米処理をおこなう機械で、水中のジェット気泡(細かい空気の泡)で糠を落とす仕組みです。

MJPを使えば、多くの場合で手洗いよりも綺麗な洗米が実現できます。割れもきわめて少なく、短時間で洗米が可能になるため吸水率のコントロールもしやすくなります。MJPの普及は、近年の日本酒の品質向上に大きく貢献しています。

「掛け流し」について

「掛け流し」は、洗米と浸漬の中間に位置する手順です。洗米後に、決まった時間だけ米に水を流し掛けることで、よりきれいに糠を取り除くことができます。また、浸漬を行う際に一定時間流水中で浸漬を行うことで、水中に溶け込む糠の成分を減らす方法をとる場合もあります。

浸漬の目的

浸漬の目的と効果

洗米の次の工程、「浸漬」とは、米を水に漬けて水分を吸収させるプロセスです。浸漬の目的は、麹菌が蒸米を分解しやすい環境をつくることです。

蒸し上がった米のデンプンがしっかり糊状になっている(アルファ化している)と、麹菌による分解がスムーズに進みます。アルファ化には水が必要なので、米の中心部まできちんとアルファ化させるためには、浸漬の工程で米の内側まで水を吸収させることが必要なのです。

ただし、水を吸わせすぎるのもいけません。蒸米が柔らかくなりすぎると、理想的な麹がつくりづらくなってしまいます。浸漬で求められるのは「適度な吸水」なのです。

目標とする吸水率とその測定方法

では、その「適度な吸水」をどう判断するか。そこで使われるのが、吸水状況を測る「吸水率」という指標です。吸水率は、以下のように計算します。

「吸水率 = (浸漬・水切り後の白米重量 − 元の白米重量) ÷ 元の白米重量」

目標とする吸水率は、掛米と麹米でも異なります(例:掛米25%、麹米35%など)。また、目指す酒質や使用する酵母などによっても、目標吸水率は変わってきます。

吸水率によって、浸漬の時間は数分間から数時間と大きく異なります。大吟醸や吟醸など、高精白の米の場合は特に吸水が早く、ほんの少しの時間の差が仕上がりに大きく影響するため、より厳密に浸漬時間を測る必要があります。

浸漬の方法

通常の浸漬

一般的な浸漬は、桶、または浸漬槽(浸漬タンク)と呼ばれる大型の容器に水を張って、そこに全ての米を漬ける方法でおこなわれます。この場合、浸漬にかける時間は数時間、あるいは一晩かけて浸漬を行う場合もあります。

限定吸水

限定吸水とは、米を10kgほどの単位で小分けにして、1単位ずつ洗米・浸漬・水切りの一連の作業をおこなう方法です。特に高精白の米は、洗米をはじめたとたんに吸水が始まるため、かなり素早く浸漬を済ませて水切りに移行しなければ、目標吸水率を実現できません。限定吸水は、そのような場合に向いている方法です。

まずは10kg程度に小分けした米を、ザルやメッシュの袋に入れます。次に桶に水を貼って、ストップウォッチやタイマーを使って秒単位で時間を測りながら米を水に漬けます。

このように米を小分けにして浸漬することで吸水率を細かく調整し、狙う酒質を実現できる米へと仕上げていきます。

浸漬後の水切り

特に限定吸水の場合は、ザルに入れて回す、業務用の掃除機で吸う、専用の脱水機を使うなどの方法で水を切ります。自然に水を切るのではなく、機械などの力を借りて短時間で水を切ることで、米の上部・下部での水分量のムラを減らせるのです。

通常の浸漬の場合、水切りは一晩程度かけておこないます。こうすることで水分量が整い、蒸米の品質が向上するのです。この際、寒い日には米が凍らないよう温度管理に気をつける必要があり、反対に暖かい日には米に細菌が繁殖することで「赤めし」と呼ばれる現象が起きないよう、用具の殺菌や水切り時間の管理を行う必要があります。

洗米・浸漬の際に蔵人が気をつけること

洗米と浸漬の工程において、造り手である蔵人はどのようなことに留意しているのでしょうか。

まず挙げられる重要なポイントとして、使用予定の米が、どの程度の時間でどのくらい水を吸うのか、あらかじめテストをして確かめておきます。同じ時間をかけて洗米・浸漬しても、もとの米に含まれる水分の量が少しでも異なると、仕上がりの吸水率が大きく変わってしまうからです。
米の吸水率は、さまざまな要因で変わります。精米されてからの期間や保管状況、米の温度、気温や湿度など多くの事項を考慮して、浸漬時間などを調整する必要があります。

また、洗米や浸漬につかう水の温度を一定に保つことも重要です。水温と米の温度との差が5度以内になるのが理想的で、これ以上温度差が大きいと吸水しにくくなるといわれています。また、水温が高くなりすぎると吸水が早く進みすぎて、表面だけ水を吸った状態になってしまいます。

最後に、吸水状況を目視でしっかり確認することです。限定吸水の場合は「目玉」を見て吸水状況を判断します。「目玉」とは、米の芯の部分が水を吸っておらず、透明になっている部分のこと。「目玉」がほどよく残っていると、蒸米が理想的な硬さに仕上がりやすくなります。洗米の機械化が進み、浸漬時間の管理ノウハウが蓄積されても、やはり人の感覚による見極めが重要なのです。

洗米・浸漬の副次的効果

洗米や浸漬は、本来の目的以外の効果ももたらします。

洗米時には、米の表面が若干削られるため、精米と同じ効果があるのです。そのため洗米は「第二の精米」とも呼ばれます。

そして洗米・浸漬時には、ミネラル分を中心に、米の中から一部の成分が流出します。つまり、米の含有成分という意味でも、洗米や浸漬は味わいに影響を与える側面があります。

まとめ

洗米・浸漬は、注目されることの少ない工程ですが、酒の仕上がりに大きな影響を与えるとても大切なプロセスです。また、機械などで効率化が進んでもなお人の感覚が頼りになる部分が残っており、職人技の見せ所といえる工程でもあります。ぜひ、日本酒造りのキーポイントとして覚えておきたいですね。

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