タネから広がる園芸ライフ / 園芸のプロが選んだ情報満載

連載

どんぐり ころころ[その8] ブナとイヌブナ

小杉 波留夫

こすぎ はるお

サカタのタネ花統括部において、虹色スミレ、よく咲くスミレ、サンパチェンスなどの市場開発を行い、変化する消費者ニーズに適合した花のビジネスを展開。2015年1月の定年退職後もアドバイザーとして勤務しながら、花とガーデニングの普及に努めている。
趣味は自宅でのガーデニングで、自ら交配したクリスマスローズやフォーチュンベゴニアなどを見学しに、シーズン中は多くの方がその庭へ足を運ぶほど。

どんぐり ころころ[その8] ブナとイヌブナ

2020/11/24

ブナ科の植物は、世界の北半球に生息していて草本のものはなく、全て落葉広葉樹か常緑広葉樹です。そして、殻斗を持つ堅果(どんぐり)を付けるのを特徴としています。ブナ科の代表であるブナ属は、北半球に10種が生息していて、日本に2種、ブナとイヌブナが分布しています。

ブナFagus crenata(ファグス クレナータ)ブナ科ブナ属。ブナは、日本の山地冷温帯に生える落葉広葉樹の主要な樹種です。冷涼で湿潤な気候を好む種であり、北海道の道東から本州中部までの、日本海側山地の多雪地帯が分布の中心です。一方、太平洋側では、標高1000~1500mの山地に点在分布しています。

ブナの種形容語のcrenataは、crenatus円鋸歯状のという意味であり、ブナの葉に丸い鋸歯があることを表します。葉は互生し長さ4~9cmの先が尖った卵形をしていて、若葉には長い軟毛がありますが成熟すると毛はなくなります。

ヨーロッパブナ Fagus sylvatica(ファグス シルバティカ)ブナ科ブナ属は、日本のブナとよく似ています。欧州の湿度が高い森林に生えるブナであり、種形容語のsylvaticaは森を意味します。日本のブナとの違いは、成熟した葉にも軟毛が生える点です。

ブナの幹は単幹です。樹皮は明るい灰色と暗い灰色のモノトーンになっていて滑らかな質感を持ちます。湿度が高い地域に生えるので、幹にはコケや地衣類などが付いてまだら模様になりますが、幹だけでブナを特定するのは容易です。

秋田県と青森県にまたがる白神山地には、広大なブナ林が残っていて世界自然遺産に指定されています。そこでは、10月になるとブナやミズナラ、カエデ類が色づき素晴らしい紅葉が見られます。

白神山地のブナの原生林は、170平方キロの広大な面積の極相林となっています。今では、世界自然遺産の希少な森として保護の対象になっていますが、昔日には北日本の山腹は、このブナの森で覆われていたとされます。

こちらは、太平洋側山地のブナ林です。日本海側と違い太平洋側のブナは北日本から九州までの標高1000~1500m付近の山地に生息していて大規模なブナ林はなく、他の落葉広葉樹と混生します。

どんぐりの殻斗は、イガ(針状)、鱗状(りんじょう)、輪紋状などですが、ブナのそれは、何と呼べばよいのでしょうか? 羽状、もしくは毛状というのでしょうか? この中に三角錐(すい)状の果実が2つ入っています。どんぐりが成熟する秋になるとさまざまな虫が、動物がブナのどんぐりを食用にします。手のひらにのせた果実は、どうやらヒメネズミかアカネズミが食べた後でした。

ブナの落ち葉をかき分けどんぐりを探してみました。ブナは、毎年コンスタントにどんぐりを作りません。植物に付く果実は、年による豊凶の差が大きいのですが、ブナはその傾向が顕著でその周期が5年程度あります。従って豊作の年に当たらないとブナのどんぐりを見ることはできません。ブナの実は、どんぐりにありがちな、サポニンやタンニンの苦み(毒性)がほとんどないので、あらゆる森の生き物の糧なのです。ブナが実れば動物が増え、実らないと動物が減るのです。

ブナのどんぐりは、イガのような殻斗に覆われ通常2つ入っています。秋になると殻斗が先端から4つに割れて、どんぐりが落ちます。ブナは山地の樹木です。公園や里山で触れる機会は少ないかもしれません。しかし、機会があれば、この奇矯などんぐりを探してみてください。

イヌブナFagus japonica(ファグス ジャポニカ)ブナ科ブナ属。ブナと違う亜属であり、種形容語のjaponicaが示すように日本に固有の落葉高木です。

どこが違うのでしょう? まず、幹が違います。ブナは単幹でしたが、イヌブナは基部で分枝して複幹になります。白く滑らかな木肌をしているブナに対し、イヌブナは黒くざらついています。

葉の形状も違います。イヌブナの葉は長くほっそりしていて、裏に毛があり葉脈が白く見えます。ブナの葉は、丸く毛はありません。葉脈の数を数えました。イヌブナの16脈に対し、ブナは10脈でした。他の葉も数えるとイヌブナの葉脈はブナの1.5倍ほどあるようです。

最も違いが大きいのは、どんぐりの殻斗です。イヌブナの殻斗はブナのように果実全体を覆わないのです。しかももろく壊れやすいのです。ブナ科植物の、樹姿や幹、葉の違いは比較しないとよく分からないものです。しかし、どんぐりの殻斗は種によって特異で独特な形状をしているのです。

今回で、落葉広葉樹林帯のどんぐりの紹介は終わりです。次回からは照葉樹林帯のどんぐりを見ていきたいと思います。

次回は「どんぐり ころころ[その9] シラカシとアラカシ」です。お楽しみに。

JADMA

Copyright (C) SAKATA SEED CORPORATION All Rights Reserved.