スガ シカオ@ ZEPP TOKYO

スガ シカオ@ ZEPP TOKYO - pic by 岩佐篤樹pic by 岩佐篤樹
昨年末、ロンドン~東京~大阪をめぐるライブサーキット“Suga Shikao JAPAN-UK circuit”を敢行し、自身初となる海外ライブを成功させたスガ シカオ。そこでの経験は、今年5月にリリースしたニュー・アルバム『FUNKASTiC』にも良い影響をもたらしたようで、今年も同様の趣旨のライブサーキットが開催された。その、2公演目となる東京公演。14日に行われたロンドン公演の凱旋ライブという意味合いも持つアクトであったわけだが、もうビックリするほど充実した、すばらしい内容だった。まるで、「ミュージシャン・スガ シカオ」を飛び越えて「人間・スガ シカオ」が曝け出されているような感じというか。海外ライブを通して「伝える力」を徹底的に突き詰めたことで、よりシンプルでパワフルで、迷いのないスガ シカオの音楽が高らかに鳴っているような、そんな一夜だった。

まずは、そのセットリスト。ファイナルの大阪公演が控えているので詳しい曲名は明かせないものの、ファンクあり、エレクトロあり、ロックあり、ポップスありと、彼の多彩な音楽性を感じさせる楽曲がズラリと並んでいる。これはもちろん、「初めてスガ シカオのライブを観る海外のお客さまにも楽しんでもらえるように」との配慮から選曲されたものだろう。しかし、それらが「代表的な楽曲をバランスよく並べてみました」というある種の「上品さ」というよりも、「すべてを吐き出してやる」といった気合いのもとに、熱っぽくプレイされているのが面白い。ギター×2、ベース、ドラム、キーボードというタイトなバンド編成により、ソリッドかつ熱っぽいアンサンブルを生み出してきたのは今に始まったことではないけれど、とにかく一つ一つの熱量が半端ないのだ。しかも、それぞれが衝動のままにブチかまされるわけでなく、ある一点に向かって一塊になって向かっているような、確かな結束力をも感じさせる。ライブ途中、「今回は“スガ シカオ全部盛り”をテーマにやっています」とMCで言っていたけれど、そのテーマのもとにバンドが一点に結びつくことで、これまで以上に有機的な音が形成されているのだろう。大きなうねりを上げながらフロアを制圧していくグルーヴィーなサウンドは、最高に気持ちいい。

それに呼応しているのかいないのか、5人のパフォーマンスも、いつも以上にアグレッシブなように見えた。ステージ前方のお立ち台にのぼったり、両手を大きく広げたりしながらステージを動き回るスガ シカオを筆頭に、ヘッドを大きく上下に動かしながら弦を弾き鳴らすギターの田中義人とベースの坂本竜太、スティックを振り回しながら超絶ソロを披露してくれたドラムの岸田容男……。それぞれが思い思いに躍動しながら、ハンドクラップと歓声の嵐が吹き荒れる祝祭空間を演出していく。

とはいえ、100%華やかでファンキーな空気に満たされていたかというと……そうではない。むしろ、「全部盛り」というテーマを掲げているが故に、スガ シカオの音楽が抱えるもう一方の側面――湿っぽさや陰鬱さ、繊細さや美しさ――といった部分までもが、いつも以上にあふれ出しているように感じた。男臭くシャウトしていてもどことなく哀愁漂うハスキーな歌声。荒っぽさとは無縁の緻密に紡ぎ上げられたメロディ。とりわけ今回のツアーならではの演出として、ステージ両脇の小さな電光掲示板に一部歌詞の英語訳が表示されていたのだが、それらの言葉一つ一つが、ファンクのそれとは思えないほどセンチメンタルで、ネガティブな響きをもっていることに、改めて気づかされた。
そして、そんなポジとネガの乱反射こそ、スガ シカオの音楽が聴く者の心を大きく揺さぶる最大の所以。この日も、“Party People”や“午後のパレード”などのパーティー・チューンにカラダを揺らしている先から、うっと涙が込み上げているような感覚に何度も襲われて、そのたびに呆然としてしまった。

アンコールでは、今回の海外ライブに臨む上で、さまざまな思考をめぐらせてきたということが語られた。「果たして自分のファンクは外国でも通用するのか?」だったり、「日本人としてのどのアイデンティティで勝負したいのか?」だったり……。そしてその結果、納得のいくライブができたことと、「皆も何かで勝負するなら自分のアイデンティティをはっきりさせるべき」といった内容のMCが、熱っぽく語られた。
日本のミュージシャンの海外進出、という意味合いだけで見るならば、こうしてスガ シカオが海外ライブに挑みはじめたことは、何ら珍しいことではないかもしれない。ただし、前例を思い出せばわかるように、「海外でやれるバンド=こういう音楽性をもったバンド」というタイプはいくつかあるが、スガ シカオはそのどれにも当てはまらない。むしろ、ざっくり言ってしまうと「日本で成功しても海外進出は考えないタイプの音楽性をもつアーティスト」だと思う。だからこそ、彼の海外進出には大きな意義があるし、そこで得た自信と経験は彼にとって絶大なものになる。そんなことを強く感じさせられた、頼もしくも感動的なライブだった。(齋藤美穂)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする