小泉孝太郎がWOWOWドラマに強く感じる「人間の匂い」 松本清張原作『眼の壁』に覚悟

小泉孝太郎、松本清張原作『眼の壁』に覚悟

 俳優として20年のキャリアを着実に積み重ね、大河ドラマからサスペンス、恋愛ドラマまで幅広いジャンルの作品に出演。ドラマの作り手からも視聴者からも信頼される小泉孝太郎が、『連続ドラマW 松本清張「眼の壁」』に主演する。松本清張が1957年に発表した社会派推理小説を、バブル経済絶頂期を舞台にして新たにドラマ化したこの作品。小泉が演じるのは電機メーカーの経理課長・萩崎竜雄。会社が経営危機に陥り、荻崎が父親代わりと慕っていた上司・関野(甲本雅裕)が手形詐欺に巻き込まれて行方不明に。萩崎は関野と失った2億円の行方を追う。そして、謎の美女・上崎絵津子(泉里香)と出会い、彼女に翻弄されながら、事件の裏に潜む驚愕の真相を解き明かしていく。

 この大作で熱演を見せた小泉にインタビュー。2015年放送の主演作『連続ドラマW 死の臓器』をはじめ、これまで出演したWOWOWオリジナルドラマ4作についても振り返ってもらった。

松本清張原作を前に決めた覚悟

――『連続ドラマW 死の臓器』以来約7年ぶりに連続ドラマWで主演を務めることが決まったときの心境はいかがでしたか?

小泉孝太郎(以下、小泉):7年前に初めて主演させていただいたときも本当にうれしかったですし、今回も再び主演で起用された喜びをかみしめました。と同時に、やはり主演ならではのプレッシャーというのはありますし、毎回しっかりと作り込むWOWOWの社会派サスペンスなので、タフな撮影になるだろうなと(笑)。しかも、松本清張原作ですから、覚悟を決めて戦いを始めなければいけない。そういう意気込みがありました。

――萩崎竜雄というのはどんな人物だと思って演じていましたか?

小泉:ごく一般的なサラリーマンで、特別な色がついてないような人間。萩崎が出会うのは、絵津子やベレー帽の男(加藤雅也)をはじめ、みんなミステリアスで何かを抱えている人物ばかりなので、演じる上では普通の人としてナチュラルに存在していることが最も重要だなと思いました。それでいて、萩崎はちゃんと自分の信念を持ち、正義感が強く、地に足をしっかり着けて生きている。そういった芯の強さも意識しました。

――そんな萩崎ですが、会社の資金繰りで上司の関野が2億円をだまし取られてしまい、何者かに連れ去られた関野をなんとか救いたいと奔走します。

小泉:本当にたいへんな状況ですよね。萩崎はいい人なのに、どんどん運命が悪い方に傾いていく。大きな渦の中に飲み込まれてしまったように、そこから抜け出せないようになるわけです。萩崎が疲れていく過程を見せる必要があったので、あえて、少し寝不足とか空腹の状態で行くようにしていました。あまり現場でも元気にしなくてよかったのは楽だったかもしれません(笑)。

――共演者についてうかがいます。小さな商社を経営する山杉喜太郎(陣内孝則)の部下であり、銀座のクラブ「月世界」のホステスでもある絵津子を演じた泉里香さんには、どんな印象を持ちましたか?

小泉:泉さんは絵津子にぴったり。とても美しい女性で、クラブでのドレス姿は反則だというぐらい魅力的です。しかも、ミステリアスな雰囲気を上手に演じていました。萩崎は絵津子に一目惚れしたことによって人生が大きく狂っていくけれど、「仕方ないよ。これだけ美しい人と出会ってしまったんだから」と僕としても納得できました。詐欺事件の真相を追ううちに、萩崎が絵津子にリードされていくのにも説得力があり、魅力的な絵津子を演じてくれた里香さんに感謝ですね。

――萩崎の親友で、新聞記者の村木満吉を演じた上地雄輔さんとは、芸能界に入る前からのご友人ですよね? ドラマの中でもその信頼関係が出ているように見えました。

小泉:雄輔とは子どもの頃からの長い付き合いなので、今回、親友を演じるのは逆に不安になったぐらいです。「大丈夫かな。仲が良すぎるのが出てしまって、馴れ合いになったら嫌だけれど、親友役だしな」と。でも、萩崎はどんどんシビアな状況に追い込まれていくので、村木と一緒のシーンは唯一ホッとできるところ。現場に雄輔がいることにこれほど感謝したのも初めてでした。撮影中はバタバタしていたので、クランクアップしてから、2人で数年ぶりに食事し、「今回は本当に救われたよ」と感謝の言葉を伝えました。雄輔からは「孝太郎も大人になったな」なんて言われましたけれど(笑)。

――意外性のあるキャストとしては、薮宏太(Hey! Say! JUMP)さんが、萩崎の上司・関野に接触してくる堀口という役で出演しています。

小泉:「この人は誰なんだろう?」と思いますよね。そのぐらいアイドルの雰囲気を完全に消していましたし、役柄に合わせ薮くんのまとう雰囲気が実年齢よりだいぶ上になっていたので、そこもすごいと思いました。ただ、役柄の関係性としては萩崎と堀口には距離があったほうがいいので、現場ではあまりしゃべりかけないようにしていましたね。堀口は堀口で抱えているものがあり、その不器用さとか弱さも垣間見えて、難しい役だと思うけれど、薮くんのかもしだす空気感はすばらしかったです。

「目では絶対見えないところに人の本質はある」

――監督は『連続ドラマW 殺人分析班』シリーズなどで知られる内片輝さんですね。同シリーズとはひと味違って、昭和のバブル期を再現した映像が印象的でした。

小泉:僕は内片さんに演出していただいたのは初めてでした。とても“愛”のある監督で、僕に対する愛もそうだし、萩崎という人物に対する愛情もひしひしと伝わってきました。例えば、萩崎が住んでいるアパートをどこで撮影するか。アパートの階段ひとつ、部屋の内装ひとつ、細かいところまでこだわり、すばらしい映像で表現してくれました。演技についても、役者の気分を乗せてくれ、「きっと萩崎はこう思いますよね」「小泉さんはどう思います?」などと、たくさんのディスカッションで引っ張ってもらいました。こだわりがある分、厳しい監督さんでもあり、何回も繰り返し撮影したシーンもありましたけれど(笑)。

――最後のモノローグも印象的で、タイトルが意味することについて考えさせられます。小泉さんは「眼の壁」とはなんだと思いましたか?

小泉:僕らはふだん目でさまざまな情報を得ているし、人に相対するときも第一印象が大きく影響する。食べ物も目で見ておいしそうだなと思うなど、視覚で判断する部分ってすごく多いじゃないですか。でも、実は視覚が遮蔽している部分、もっと奥に真実はあるのではと考えさせられましたね。人間の奥深く、目では絶対見えないところに人の本質はあるから、「“眼の壁”を超えて踏み込む勇気はありますか」と問われているような気持ちにもなりました。

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